音楽ナタリー PowerPush - BOOM BOOM SATELLITES

“生きた証”の作り方

誰よりも自分が一番感動した

──今回の制作期間中には、川島さんに4度目の脳腫瘍発症という、とても大きな出来事がありました(参考:BOOM BOOM SATELLITES、川島の病状を報告「どうか安心してください」)。

中野雅之(Programming, B)

中野 はい。そういう状況も状況で、とにかく無心に曲を作り続けていくことしかできなかったから。アルバムの中で最初にできた曲が1曲目の「SHINE」だったんですけど、完成したときは誰よりも自分が一番感動しちゃって。先が何も見えないまま手探りで始めるしかなかったにも関わらず、「こんなにいきなりいい曲できちゃっていいのかな」って。普遍性を持ったいい曲っていうか。

──本当にそうですよね。今回の作品はメロディや曲のコード展開などに関する意識が大きく変化しているように感じます。これはどこかで変化につながるきっかけがあったんですか?

中野 メロディに関しては「TO THE LOVELESS」の頃から大きく変化してきていたと思うんですけど、今回の「SHINE LIKE A BILLION SUNS」に関しては、「川島くんの歌を聴かせたい」というところに焦点を当てて曲を作っていったのが大きいと思います。川島くんの歌を最大限生かすために、ストーリー性のある多彩なコード進行や曲の展開を必要としたし、1曲ごとに曲が着地する場所というもすごく考えたし。もしこの作品を聴いて、これまでになくドラマチックな作品と感じてもらえたとしたら、それは自分にとって成功と言えますね。

自分たちにとってのスタンダードな音楽

──川島さんは、こうしていろいろなことを乗り越えて完成させた今回の作品を、どのように受け止めていますか?

川島道行(Vo, G)

川島 これまでの自分たちの音楽は、いろんなスタイルの音楽を取り込んで、それを昇華させてきたものだったし、実際に人から語られるときも、いろんな音楽のジャンルで形容されることが多かったと思うんですね。でも今回の作品は、そういうことは前提としてあったとしても、もう“BOOM BOOM SATELLITESの音楽”としか形容できないものになったような気がしているんです。今年どうこうとか来年どうこうとかじゃなくて、これから先ずっと、振り返ればそこに「SHINE LIKE A BILLION SUNS」があるという、そういうアルバムになったんじゃないかなって。

──本当にその通りだと思います。

川島 自分のミュージシャンとしての人生においても、この作品がスタンダードになっていくだろうなって思います。次のアルバムを作ったとしても、そのまた次のアルバムを作ったとしても、ずっとこの作品のことは思い返していくんだろうなって。

「太陽」が指すもの

──アルバムのタイトルである「SHINE LIKE A BILLION SUNS」、そしてリード曲となった「A HUNDRED SUNS」、いずれにも「SUNS」というワードが入っていますが、そこに込めた思いについて教えてください。この作品で描かれているのは、必ずしも太陽に照らされた人生のブライトサイドだけではないですよね。

川島 太陽というのは命そのものの力強さというか、自分にとって希望のようなもので。今回のアルバムは希望についてというよりも、その希望に手を伸ばすことについての作品だと思うんです。だからこの作品から、感傷的なものではなく、淡々と繰り返される日々に隠れている奇跡や輝きを感じ取ってもらえたらなって。このアルバムを言葉で表現しようと思って付けたタイトルというよりも、自分がこのアルバムの立場になって、そこにふさわしい名前を見つけていった感じですね。

手前から中野雅之(Programming, B)、川島道行(Vo, G)。

──それと、今回の作品は音色面でもこれまでの作品とちょっと違っていて、全体的に音が「丸い」というか「温かい」というか。そんな音の感触と「SUNS」というワードのイメージが、自分の中ではつながっていったんですけど。

中野 今回は空間をデザインするように音をデザインしていったというか。空間に浮かび上がるような音を作りたくて。

──具体的には? いわゆる浮遊感のある音とは違うもの?

中野 浮遊感ではないんです。幅と奥行きがある3D的な音響の中から、川島くんの声が立ち上ってくる感じというか。川島くんの存在を中心にして、3Dのステージにいろんな演者が入れ替わり立ち替わり現れてくるというか。

今の音楽と心情を今のフォーマットで

──それなりの音響システムで大きな音でこの作品を聴いていると、本当にこれまで聴いたことのないような音像が実現されていて。本作に感動した大きな要素の1つには、録音芸術としての完成度の高さというのがあるんですよね。

中野 まさにそれを目指していて。今、ハイレゾ音源が一部で流行りつつありますけど、その多くは過去の音源のハイレゾ化だったりするじゃないですか。この作品がきっかけとなって、今の音楽で、今の心情を歌ったものが、今の音楽フォーマットを最大限に使ってもっと伝えられるようになったら、音楽シーンにもまたちょっと違う展望が見えてくるんじゃないかなって。その1つのきっかけになればという思いはあります。

──なるほど。

中野 ただ、そこに関してはあまり楽観してはいないですけどね。やっぱりハイレゾってデータ量も多いし、これから広がっていったとしても、どうしてもある程度限られたリスナーに向けられたものになってしまう。だから基本はどういうフォーマットにも耐え得るタフなサウンドを作らなくちゃいけないと思って音楽を作っています。そして、そこで大事になってくるのは、やっぱり純粋な曲としてのよさだと思うんですよ。

──今でも積極的に若いリスナーが中心のフェスやイベントに出演しているのも、そういう思いとつながってますよね。

中野 そうですね。自分はBOOM BOOM SATELLITESの音楽がポップミュージックであってほしいと思っているし、1人の音楽の聴き手としても、そういう思いで作られた作品のほうが圧倒的に心にちゃんと響くんですよ。だから、大切なのは芸術作品でもあってポップミュージックでもあるという、そのバランスで。どちらかが欠けてしまうと、自分が満足できなくなる。こうしてキャリアを重ねていってつくづく思うのは、僕たちにはロールモデルとなるような存在が見当たらないってことで。そこは悩みの種ではありますね。

ニューアルバム「SHINE LIKE A BILLION SUNS」2015年2月4日発売 / Sony Music Records
初回限定盤 [CD+CD-ROM] 3780円 / SRCL-8688~9
通常盤 [CD] 3240円 / SRCL-8690
CD収録曲
  1. SHINE
  2. ONLY BLOOD
  3. COMPLICATED
  4. A HUNDRED SUNS
  5. VANISHING
  6. BACK IN BLACK
  7. THE MOTH(attracted the flame)
  8. BLIND BIRD
  9. OVERCOME
  10. STAIN
  11. EMERGENCE
初回限定盤CD-ROM収録内容
  • SAMPLING DATE DISC A HUNDERED SUNS -STEM-
BOOM BOOM SATELLITES(ブンブンサテライツ)
BOOM BOOM SATELLITES

中野雅之(Programming, B)、川島道行(Vo, G)によるロックバンド。エレクトロニックサウンドとロックを融合させた独自の音楽性で、類をみないオリジナリティを誇示している。1997年にベルギーのレーベルからマキシシングル「JOYRIDE」を、1998年には初のフルアルバム「OUT LOUD」を発表。日本国内だけでなく海外でも絶大な人気を集めており、海外ツアーを開催するほか、著名なフェスティバルにも多数出演している。2013年1月にはオリジナルフルアルバム「EMBRACE」を発表。自身の楽曲のパーツを提供し、リミックスコンテストを開催するなど型にはまらない活動を展開するも、川島の脳腫瘍治療のため5月の日本武道館公演までライブ活動を休止。11月に同公演の模様を収めたCD+DVD / Blu-ray「EXPERIENCED II -EMBRACE TOUR 2013 武道館-」をリリースした。2014年3月はワンマンツアー「TOUR 2014 STARTING OVER」を実施。その後4度目の発症となる川島の脳腫瘍の治療と並行し、数々のフェスやライブイベントに出演。2015年2月には2年ぶりのオリジナルアルバム「SHINE LIKE A BILLION SUNS」をリリース。3月にレコ発ライブをEX THEATER ROPPONGIにて開催し、5月には全国ツアー「FRONT CHAPTER Vol.4」を展開する。