ナタリー PowerPush - AZUMA HITOMI

渋谷慶一郎と徹底対談「私はどうすれば売れるのか」

AZUMA HITOMIの2ndシングル「きらきら」は、その名のとおりキラキラした電子音の粒が降り注ぐポップチューン。リスナーの手をそっと握り異空間へと連れ出してくれるかのような、ファンタジックな世界観が描かれている。

彼女はビジュアルイメージをマンガ家・西島大介が描いたキャラクターで統一しており、その姿を見ることができるのはライブ会場のみ。メジャーデビュー曲「ハリネズミ」が山本寛監督 / 東浩紀原案のアニメ「フラクタル」のオープニングテーマに起用され、多くの人々にその存在が認知されたが、まだまだ知られざる部分が多いアーティストだ。

そんな彼女についてより深く知るべく、今回のナタリーPower Pushでは前半でAZUMA HITOMI本人への単独インタビューを実施。後半はシングル「きらきら」に「DJ JIMIHENDRIXXX」名義でリミックスを提供した渋谷慶一郎との対談を掲載する。

取材・文 / 橋本尚平 インタビュー写真 / 中西求

AZUMA HITOMI 単独インタビュー

悲しみを否定しないで喜びを歌おう

──メジャーデビューしてみて自分自身や周辺に何か変化はありましたか?

AZUMA HITOMI

デビューシングル「ハリネズミ」の発売日が3月9日だったので、その直後に東日本大震災が起こったんですよ。この震災の影響で、自分の中にあった「恥ずかしい」っていう感覚が変わりました。J-POPの歌詞には等身大の言葉やメッセージ性が重要という風潮がありますよね。私はそういう表現が嫌いで恥ずかしいと思っていたんです。だから今まで私は自分の曲にについて「メッセージ性なんてないです」とか「景色を歌ってるだけです」とか言ってたんですよ。でも震災を経て、メッセージっていうものをもっと大きく捉えなくちゃいけないと思うようになって。

──もっと大きく?

地球上の人々が長い時間をかけて受け継いできたすべてのものがメッセージなんだ、って。なのに「私の歌にメッセージはありません」なんて言ってしまうのは悲しいことだなって思い直して。だからもう恥ずかしがってる場合じゃないと思ったんです。私の曲は身近な人や聴いてくれる人すべてに対するメッセージだし、私が歌っていること自体もメッセージなんだって意識するようになりました。

──短期間に極端な意識変化があったんですね。では今回の「きらきら」に込めたメッセージは?

悲しみを否定しないで喜びを歌おうって、悲しみも喜びも一緒くたにして抱えて生きていこうってことです。この曲には「主人公が引きこもりがちな男の子を連れ出して、手をつないで一緒に夜空を飛んでいく」っていう絵をイメージしてて、その2人もすごく輝いているんですけど、そこから見下ろす世界、一人ひとりの暮らしがキラキラしてるんです。1個の明かりじゃキラキラにはならないんだけど、いろんなところでポッ!ポッ!って明かりが点いて、それを空から見たらキラキラになるんです。そういうイメージを感じてもらえたらうれしいです。

──この曲は震災が起きる前に作られたんですよね?

インタビュー風景

はい、曲自体は3年くらい前からありました。でも以前までは「君は今孤独の耳栓をして布団の模様をなぞってる」っていうタイトルでライブで歌ってたんですよ。「ハリネズミ」を作ったときから2枚目のシングルはこの曲にしようって決めていたんですけど、自分の心境の変化もあって、実際にリリースする段階でもう1回歌詞を見直したんです。それで「サビに入っていきなり空を飛ぶのはどうなんだろう?」って悩み始めちゃって。J-POPである限り、わかりやすさ、伝わりやすさは絶対に重視しなくちゃと思ったので、曲の構成を変えてサビに向かうまでの描写を増やしました。タイトルも曲全体を表すような名前にしたいと考えて、思い切って変えちゃいました。

──昔の曲をこのタイミングでシングルにしようと思ったのは、やっぱりそれだけこの曲への思い入れが強かったということですか?

そうですね。「ハリネズミ」はアニメ「フラクタル」のために作った曲だったんですけど、次は一番「AZUMA HITOMI」らしい曲をぶつけるべきかなって。うちの親は着うたを「ハリネズミ」にしてるんですけど、あれが鳴るとゲームの音楽みたいに聞こえて自分の音楽じゃないみたいに感じるんですよ(笑)。思い返すと、あの曲はやっぱりアニメの世界観に寄せて作った曲でしたね。

「音をいじりたい欲」がないんです

──今回のシングルはCD-EXTRAに音素材が入っていて、購入者が自由にAZUMAさんの曲をリミックスできるようになってますが、AZUMAさん自身がほかの人のリミックスをしてみたい気持ちはありますか?

今のところは全然興味ないですね。自分の曲が作りたいから(笑)。

──あれ? そうなんですか。

インタビュー風景

DJできる人とかリミックスできる人って、基本的にみんな尊敬しているんです。自分の曲じゃないものを使って新しいものを作ることをやれるっていうのはすごいです。私は自分の曲を形にしたいだけで「音をいじりたい欲」がほとんどないんですよね。ライブではいろんな機材をいじってますけど、私には機材オタクみたいな部分ってないですし。

──でも「DTMが大好きな人」っていうイメージはあると思いますよ。先日も、DTMで曲を作っている過程をUstreamで配信したりとか。

あれは、4月のワンマンライブが終わってからCD発売までの間に、私がどこにもいなくなっちゃうのも寂しいなって思ってやってみたんです。私はメディアに顔出しをしてないし、それぞれの人の中で「AZUMA HITOMI」っていう存在を具体的にイメージできる機会が本当に少ないから。でも、独り言を言うのって結構難しいものですね。「ここコピーして貼り付けまーす」とか言って(笑)。

──あの配信中に作っていたのが今回のカップリング曲「ヒーロー」なんですよね。Ustream配信をやったことで仕上がりに影響は出ましたか?

何万人に向けて歌うんじゃなくて、すぐそばにいる人に向けて歌ってるみたいな感じになりました。それはUstreamを視聴してくれていた人の反応をリアルタイムで見ていた影響かも。

ニューシングル「きらきら」 / 2011年8月10日発売 / 3000円(税込) / EPICレコードジャパン

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  • 初回限定盤[CD+DVD] / 1600円(税込) / ESCL-3712~3 / Amazon.co.jpへ
  • 通常盤[CD] / 1223円(税込) /ESCL-3714 / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. きらきら
  2. ヒーロー
  3. ハリネズミ -DJ JIMIHENDRIXXX(a.k.a. Keiichiro Shibuya)Remix-
AZUMA HITOMI(あづまひとみ)

1988年東京生まれのシンガーソングライター / サウンドクリエイター。小学校高学年より曲作りを始め、中学生でデスクトップミュージック制作を開始。大学進学後にライブを中心とした本格的な音楽活動をスタートさせる。2010年には都市型フェス「KAIKOO POPWAVE FESTIVAL'10」に出演。同年12月にネットレーベル「マルチネ・レコード」より初の配信音源をリリース。2011年3月、フジテレビ系アニメ「フラクタル」の主題歌「ハリネズミ」でメジャーデビューを果たした。2011年8月には2ndシングル「きらきら」をリリース。

渋谷慶一郎

渋谷慶一郎(しぶやけいいちろう)

音楽家。東京芸術大学作曲科卒業。2002年に音楽レーベルATAKを設立。国内外の先鋭的な電子音響作品をCDリリースするだけではなく、多様なクリエイターを擁し、精力的な活動を展開する。2009年、初のピアノソロアルバム「ATAK015 for maria」を発表。2010年には「アワーミュージック 相対性理論+渋谷慶一郎」を発表し、TBSドラマ「Spec」の音楽を担当。2011年の夏にAZUMA HITOMI、cradle orchestra、COALTAR OF THE DEEPERS(feat. 堀江由衣)のリミックスをDJ JIMIHENDRIXXX名義で手がける。ATAK Dance Hallセットで8月に「FREEDOMMUNE 0<ZERO>」、9月にTAICOCLUBに出演。