音楽ナタリー PowerPush - 荒井岳史(the band apart)

三浦康嗣との対話を通して紐解く 初フルアルバム「beside」

「やる奴はやるし、やらない奴はやらない」

──お2人が音楽を作っていて「面白い」と感じる瞬間って、どういうときなんですか?

三浦 作ってるときですか? さっきも言いましたけど、やっぱり「どうなるかわかんない」っていうところじゃないですかね。そうなるような仕掛けもいっぱい作ってると思うし、無意識のうちに。

──そのスタンスは、荒井さんのソロに対する姿勢と共通してるかもしれないですね。「バンドとは違うことをやりたい」っていうのは、新鮮さを求めていたということだと思うので。

荒井 ただ、もともと「ソロをやるぞ」っていう感じで始まったわけはないんですよ。弾き語りのライブをいっぱいやっている中で、「だったら手売りの盤でも作ろう」と思ってまずは1枚作って。それを手売りしてるうちに、協力してくれる人が出てきて、タワレコ15店舗で売ってもらえることになって。そうすると欲が出てきて、「あんなこともやってみたい、これもやってみたい」って思い始めるんですよね。今回のアルバムも、その延長線上にあるんじゃないかな、と。最初から「新しいチャレンジをやろう」と思っていたんじゃなくて、やってるうちにやりたいことが出てきたっていう。

左から三浦康嗣、荒井岳史。

三浦 うんうん。

荒井 全部そうなんですけど、結局は“後付け”なんですよ。たまたま音楽が好きで、その中で出会った人とか、見た景色によって、自分自身が感化されて。で、「だったら、お客さんを楽しませたい」と思うようになったり。

三浦 “どうせやるんだったら”とかね。

──最初からやりたいことがあるのではなくて、何かを始めたあとに、いろいろとやりたいことが生まれてくる、と。

三浦 さっき「やりたいことはない」って言いましたけど、それもそういうことなんですよね。だいたい「やりたいことがなきゃダメ」っていう考え方は、多くの場合、人を不幸にしますからね、表現者も一般の人も。やりたいこととか理想を持っていないといけない空気って、あるじゃないですか。あれはマジで意味がわかんない。“理想がなくても、まったく悪びれない”っていう感じをもっともっと浸透させたほうがいいなって、日々暮らしていてすごく思いますね。そのほうが僕らも音楽をやりやすいだろうし。

荒井 それはすごくわかる。歌詞を書いていても、「人は中途半端なもんだよね」っていうテーマは一貫してるんですよね、自分の中で。

──ずっと同じスタンスを続けることのほうが不自然というか…。

荒井 ずっと同じ信念を持ち続けられる人も、すごいと思いますけどね。

三浦 うん、それはそれでめっちゃすごいよね。

荒井 行ったり戻ったりなんですよね、つまり。理想に燃えてガッと行けるときもあるし、気持ちが弱くなるときもあって、全体を俯瞰でみると、どっちつかずみたいな状態に見える。人間はそんなものなのかな、とも思うしね。

三浦 それでいいと思うんだよね。例えば八方美人って悪い意味で使われることが多いけど、それはなぜかっていうと、「相手によって態度を変えるのはよくない」っていう前提があるからでしょ? そうやって自己同一性を求めすぎると、不幸になると思うんですよね。

荒井 ……その話、飲みの席の話っぽいね(笑)。ちょっと話を戻すと、今回のアルバムは新しいチャレンジではあるけど、チャレンジをしたいと思って音楽をやっているわけではないんですよね。こういう活動も、場を与えてもらって初めて成り立つわけだし。お膳立てしてもらわないと偉そうなことは言えないんですよ、ミュージシャンは(笑)。

三浦 おだてられたりとかね(笑)。

荒井 そうそう(笑)。だいたい、曲なんて誰でも作れますから。

──え、そうですか?

荒井 そうだと思いますよ。やるかやらないかの2択でしかないような気がする。だって、誰でも鼻歌を歌うことはあるでしょ? それを録音して、コードを付けたりするのが作曲ですから。

三浦 「やる奴はやるし、やらない奴はやらない」っていうことでしょ。これ、見出しでお願いでします(笑)。

──荒井さんと三浦さんって、音楽性はまったく違いますけど、根本的なスタンスはかなり似てますよね。

三浦 中途半端さをハードコアに突き詰めるというか。なんのことかわからないけど(笑)。

なんとなく聴いてもらえたら

──最後に「beside」というアルバムのタイトルについて教えてもらえますか?

荒井 まず、構えて聴いてほしくなかったんですよね。フワッと流し聴きできるというか、通勤、通学のときなんかになんとなく聴いてもらえたらいいなって。で、“そばに”みたいな感じで「beside」にしよう、と。“B面”みたいなイメージもあったりして。

三浦 「beside」って、“とりあえず”みたいな意味もあるからね。“そんなに重要じゃない“っていうニュアンスもあるし。……僕、一応、帰国子女なんで、そこは信用してください(笑)。

荒井 康嗣くんはツアーにも参加してくれるんですよ。ドラムとベースはレコーディングと同じだから、“フィーチャリング□□□”みたいになってるんだけど。あと、ギターはheの大谷(武史)くんで。

三浦 僕はほかのアーティストのサポートメンバーとして参加すること自体、生まれて初めてなんですよ。今回はツアーの打ち上げを想像して、快諾しました(笑)。

荒井 楽しそうなメンツをそろえたからね。そうじゃないと音楽も楽しくならないから。もちろん、楽器はちゃんと弾いてもらいますけど(笑)。□□□のライブを観たときも、康嗣くんの鍵盤すげえなって思ったし。

三浦 めちゃ適当ですけどね。コード進行とかも、全然覚えられないし。

荒井 それ、シゲが言ってた(笑)。

三浦 そうでしょ?(笑) でも、大丈夫です。間違えてもごまかすのはうまいから(笑)。

【MV】荒井岳史/シャッフルデイズ(Full ver.)

1stアルバム「beside」/ 2014年7月16日発売 / 3000円 / ハピネット / HMCH-1138
収録曲
  1. 次の朝
  2. 境界線
  3. メビウスループ
  4. シャッフルデイズ
  5. マボロシ
  6. 街のどこかで
  7. Blk 1, Silver Cat City
  8. シオン
  9. それだけじゃすまない
  10. 思い出さない
ツアー情報
荒井岳史「1st full album"beside"release TOUR」
  • 2014年7月29日(火)大阪府 Shangri-La
  • 2014年8月1日(金)東京都 新代田FEVER
  • 2014年8月3日(日)愛知県 APOLLO BASE
  • 2014年8月8日(金)福岡県 Queblick
  • 2014年8月12日(木)北海道 COLONY
  • 2014年8月14日(木)宮城県 enn 2nd

スペシャルバンドセットメンバー
荒井岳史(Vo, G) / 三浦康嗣(Key) / 村田シゲ(B) / 一瀬正和(Dr) / 大谷武史(G)

荒井岳史(アライタケシ)

荒井岳史

1978年生まれ。1998年よりthe band apartのギターボーカルとして活動。伸びやかで甘いボーカルと、卓越したギタープレイで多くのリスナーを魅了する。バンド活動と並行して、2013年8月に初のソロ作品「sparklers」をリリース。2014年6月に初のソロフルアルバム「beside」を発表した。

三浦康嗣(ミウラコウシ)

1998年に自身が中心となり□□□を結成。歌もの、ヒップホップ、ソウル、ハウス、テクノ、音響、ジャズなどあらゆる音楽を取り入れた楽曲を発表し、音楽シーンの中で独自のスタンスを築き上げる。アレンジャー、プロデューサーとしても活躍しており、2014年3月に自身の作品をまとめた作品集「WORK」を発表した。