ナタリー PowerPush - 青葉市子

メジャー移籍作「0」で魅せるこだわりの音楽哲学

2010年に19歳でリリースした1stアルバム「剃刀乙女」でデビューし、作品やライブで細野晴臣、坂本龍一、小山田圭吾、クラムボン、七尾旅人といったそうそうたるアーティストたちと共演を果たしてきた青葉市子。クラシックギターの弾き語りという非常にシンプルなスタイルを通じて聴き手を深淵な世界へと誘う彼女が、メジャーレーベルへ移籍し、4作目となるアルバム「0」をリリースした。全8曲が収録された本作は、どのように録音されたのか。その作業の様子を聞きながら、彼女の真摯にして奇跡的な音楽哲学に迫った。

取材・文 / 小野田雄

 
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音楽以外の情報を出したくない

──青葉さんの音楽はギターの弾き語りという削ぎ落とされたスタイルですが、アートワークもシンプルで。これまで発表された3枚のアルバムはジャケットに一切の写真や文字情報がない形ですよね。

まず私は、音楽以外の情報を出したいと思っていないんです。今は多くの人が関わってくれているので、写真もビデオも撮りますけど、私にとって“本当の情報”はそこにはないんですよね。アルバムのジャケットは一番初めの作品「剃刀乙女」を作ったときに、顔写真や姿写真をアートワークとして提案されていたんですが、それがどうにも納得がいかなくて。自分で考えてもどういうものがいいか何も思い付かなくて、「ていうことは、ジャケットは白でいいか」って。2ndアルバム「檻髪(おりがみ)」のときは人との関わりも増えて、人肌に近付いたこともあって肌色にして。3rdの「うたびこ」は震災も絶対影響しているんですよね。それは音楽だけでなく、その時期に出てきたすべてのアートに影響しないわけがない。それだけでなく、自然環境のこととか、「そもそも地球ってなんだ?」とか、そういう原始的なところに興味が湧いていた時期でもあって。その流れで緑にしたんです。そして今回の「0」は、音というシンプルなものに意識を向けると同時にすごく複雑な感情、光を濃くしたら、闇も濃くなるような、心の部分も意識したし、春に作った曲が入っているのでアートワークは“ハート”の色にしました。

青葉市子

──即興は別として、基本的に青葉さんは歌詞先行で曲を作られるそうですが、その言葉はどのように生まれるんですか?

1stアルバムを作る前……ギターを弾いて曲を作るようになる前から大学に通いながらプリントの裏に物語を書いていました。そういうものと歌詞はつながっています。

──では、1曲ずつそれぞれが1編の物語になっているわけですね。それぞれの曲につながりはあるんでしょうか?

うーん、物語の視点はいつも変わってないです。けど、つながりについて作り手として言うことはないかな。聴いてくれる人がそれぞれ好きなように受け取ってもらえればいいというか、こちらから曲のイメージを限定するような情報は出したくないんです。

zAkとの出会いが生んだ「0」

──もともとアーティストとして活動していくことを目指していたんですか?

私はそもそもCDを出したいと思っていなかったし、音楽でどこかに向かっていきたいという意志もなく、ただギターが鳴って、歌が出てる、音がある。それだけで十分でした。だから、作品を録ることになった時点で、「こういうことをやりたい」という発想もなかったんです。だから、この作品以前に出した3枚の作品はレコーディングの期間が決められていて、その期間内に録ると決めた曲を録るという淡々とした作業でした。2ndくらいまでは生まれた曲を残さず録るという作業で、3rdもそういう形で作ってたんですけど、ライブのときに即興でやった短い曲とかそのときの気分でできた即興曲は録ってなくて。そういう曲はそのときの気分でSoundCloudにアップしてましたね。今は聴き飽きちゃったんで全部消したんですけど。今回のアルバム「0」のときは、録れる曲が2枚組アルバムにしてもこぼれるくらいたくさんあったうえに、今までとは明らかに違う録音のやり方ができて、作品作りがすごく楽しいものなんだと思えるようになりました。その中でもベストな状態で録れている曲に絞っています。

──その録音方法について教えてください。

このアルバムができるきっかけはエンジニアのzAkさんとの出会いが始まりです。今年1月に福島県のいわきに、飴屋法水さんが作・演出でいわき総合高校の生徒さんと一緒に行われた「ブルーシート」という演劇を観に行ったとき、その音響をzAkさんがやっていて。前々から認識はありましたが、そのとき初めてちゃんとゆっくりお話しする機会があって、一緒に「ごはん食べへん?」ってことになったんです。そのときに自然な流れで「作りたい音はある?」っていう話になって、「まだ見つけられてないです」って答えたら、「じゃあ、一緒にやろうよ」って言ってくれて。そこからだんだん始まっていきました。

──つまり、今回の作品を作るためにzAkさんに録音をお願いしたわけではないと。

はい、はじめは。そのあと改めてちゃんとお願いしましたけどね。それからタイミングが合うときにzAkさんのスタジオへ遊びに行って、声に合うマイクを選んだり、部屋の鳴り……例えば、スタジオのこの場所で歌ったらこういう響きになるとか。30cm動くだけで響きが変わったりするし、時間帯や天気の違いでどういう鳴りになるのかっていう研究の日々が始まったんです。そもそも、曲というのは生まれた瞬間にその姿ができあがっているんですよね。録音というのは、その姿にできるだけ近い状態に持っていく作業なんですけど、zAkさんのスタジオに行ったら、まずは弾きたい曲を一通り演奏、録音するんですよ。そうすると、そのときの天気や気温、時間帯に合わせて、歌いたい曲が自然と出てくるので、あとから録ったものを分析して、「こういうコンディションのときはこういう歌を歌えばいいんだな」って自分なりにつかんでいって、zAkさんはzAkさんで「こういうコンディションのときはこういう声になるから、使うのはこのマイクだな」ってつかんでいく。私とzAkさんの両面から、曲のもともとの姿に近付けていく作業をひたすらやってました。だから、録音したテイクは膨大な数が残っているんですけど、そういう自然現象的な音の流れと気持ち──人間だから気持ちは揺らぐんですけど、そのピントがぴたっと合ったものを今回のアルバムには収録しています。

──どうやって合わせていくんですか?

例えば、どんなマイクを何本使うか。マイクをどこに置くかは全曲違うというか、ワンテイク録るごとに位置や角度を調整したり、何時間か録ったら、場所を移動してみたり、マイクはそのままにケーブルだけ変えてみたり、そのへんの話はマニアックすぎて、私にはついていけないんですけど(笑)。だから作業としてはキリがなくて、パズルがどんどん細かくなっていくみたいな感じで、5月から録り始めて作業が終わったのが8月。だから、4カ月かかりました。

青葉市子 4thアルバム「0」 / 2013年10月23日発売 / 2100円 / SPEEDSTAR RECORDS / VICL-64215
青葉市子 4thアルバム「0」 ジャケット
収録曲
  1. いきのこり●ぼくら
  2. i am POD(0%)
  3. Mars 2027
  4. いりぐちでぐち
  5. うたのけはい
  6. 機械仕掛乃宇宙
  7. 四月の支度
  8. はるなつあきふゆ
青葉市子(あおばいちこ)

1990年生まれの女性アーティスト。17歳からクラシックギターを弾き始め、2010年1月に1stアルバム「剃刀乙女」でデビューする。2011年1月に2ndアルバム「檻髪(おりがみ)」、2012年1月に3rdアルバム「うたびこ」をリリースする。2013年8月には、2013年元日に放送されたNHK-FM「坂本龍一 ニューイヤー・スペシャル」でのスタジオセッションをCD化した「ラヂヲ / 青葉市子と妖精たち」を発表。2013年10月に4thアルバム「0」をスピードスターレコーズより発表。