ナタリー PowerPush - Aimer

大人と子供、永遠と刹那、優しさと寂しさ 相反する何かを歌う

大人になることの焦燥感とその先に見た光

──では「StarRingChild」の世界に入り込めた理由って? 1コーラス目、2コーラス目ともこの詞の主人公って特にAメロ、Bメロではけっこう怒っているし、苛立ってますよね。

はい(笑)。

──でも2014年に入ってから忙しくしているという話もそうだし、先日の阿部さんとの対バンライブ(参照:“お力添え”ツアー、阿部真央&Aimerの仲よし対バンで幕開け)なんかもそうなんですけど、今のAimerさんはすごく充実しているように見える。傍目には「何かムカついたり、苛立ったりすることってあるのかなあ」っていう気がします。

Aimer

もちろんっていうと変なんですけど(笑)、怒ったり苛立ったりすることはありますよ。ただ「StarRingChild」の怒りや苛立ちは現状についてのものではなくて、歌詞の中にも出てくる“大人”と“子供”の対比から生まれる怒りや苛立ちなんだと思うんです。Aメロ、Bメロにある怒りや葛藤や迷いっていうのは大人だからこそ感じてしまうものなんだと思いますし。

──確かに「遠ざかるあの日の約束も 色褪せてしまえばすり替えられる」と過去を嘆いていますね。

そういう言葉やメロディ、アレンジ、速いテンポ感に、時間が過ぎ去ってしまったことへの焦燥感みたいなものが感じられたし、一方でサビや最後のフレーズにはそういう迷いを取り去ったかのようなパッと開けた印象を受けたんです。

──サビでは改めて子供時代を振り返りつつ「小さかった頃の手が描く全てに ノートからはみ出す未来」を見つけているし、大ラスでは「なぞらえた答えなんて ここに必要ないから 1秒に見えた世界を 次へ」と未来への一歩を踏み出そうとしている。

ええ。その大人と子供の対比を意識して歌ったんですけど、それは自分自身にも思い当たる節があるからで。デビューして4年、時間を重ねるにつれて成長していることを実感できる瞬間もある一方で、デビュー前やデビュー当時に見ていたり感じたりしていた何かを見失っていってる感覚もあって。成長できることはもちろん尊いことなんですけど、幼いままでいられないことは悲しいことでもあるんだなっていう意識が自分の中にはあるんです。その大人になること、子供ではなくなったことに対する焦燥感みたいな部分で共感できたんです。

普遍性の高い言葉を自分のものにするボーカリゼーション

──ここまでの口ぶりだとAimerさんが抱えている焦燥感について楽曲制作前に澤野さんと話をしたわけではなさそうですよね。

はい。

──なのになぜ澤野さんはAimerさんが共感できる詞を書けるんだと思います? 逆に言えば、なぜAimerさんの気持ちは澤野さんにバレてるのか(笑)。

左から澤野弘之、Aimer。

ふふふふふ(笑)。でも澤野さんが私を理解してくださっている、なんておこがましい話ではないんだと思います。澤野さんは聴く人ごとに自分を投影してほしいから歌詞に具体性を持ち込みたくないとおっしゃっていて。だからこそ澤野さんの歌詞は普遍的になる。確かに「StarRingChild」の歌詞のように、歳をとるにつれて「大人らしくしなきゃ」って焦ったり、子供の頃のことが懐かしくなったり、大人になりきれていない自分に苛立ったりすることって誰しもあることだと思いますし。だから私も共感できたんだと思います。

──そういう普遍性の高い言葉をご自身が歌う意味を見つけるためにも歌詞を丁寧に読み込む必要があった?

そうですね。あとはいかに私らしいボーカリゼーションを発揮できるか。テクニックの話、それも私の個人的な声の出し方の話になってしまうので、説明が難しいんですけど、例えば前半は攻撃的に歌おうって決めたなら、どのくらい声の中に息を混ぜるといいのか、どのくらいのピッチで歌うといいのか、どんな声色で歌うのかみたいなことをいろいろ考えてみる。一方でラストは希望を感じさせるように明るく歌いたかったので、やっぱり息を混ぜる量やピッチや声色について考える。そういう試行錯誤を繰り返すことで自分らしいものにしていくようにはしました。

Aimer、「ガンダム」シリーズを読み込む

──「機動戦士ガンダムUC episode 7」の予告編を観てみると「StarRingChild」ってものすごくキレイに「ガンダムUC」の世界にハマってますよね。

ありがとうございます。

「機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)episode 7『虹の彼方に』」キービジュアル

──これも今回のAimerさんに与えられたミッションなんだと思うんです。澤野さんの言葉をご自身の血肉にしつつ、テーマソングのボーカリストとして「ガンダムUC」の世界の紹介者でもいなければならない。どうすればその両方を実現できるんでしょう?

やっぱりその世界観を丁寧に読み込んで自分の中で消化するしかないんだと思います。これは今回の「StarRingChild」のレコーディングのときもそうですし、「episode 6」の主題歌だった「RE:I AM」を作るときにももちろんやったことなんですけど、まずは「ガンダムUC」はもちろん、「機動戦士ガンダム」「Zガンダム」「ガンダムZZ」「逆襲のシャア」を観てみました。

──「ガンダムUC」シリーズって今Aimerさんが挙げた4作、富野由悠季監督版ガンダムと接触しているお話ですもんね。

「ガンダム」の最新シリーズの主題歌、しかもその最終章の主題歌を任せていただけることはすごく光栄ですし、誇りに思ってますから。その世界を表現するためにはやっぱり「ガンダム」というものをきちんと消化しなければならないと思ったので、過去の作品もひと通り追いかけた上でレコーディングに臨むようにはしました。ただ最後は感覚に頼るしかなくて。澤野さんの歌詞の世界と「ガンダム」の世界を読み込んだ私が、どうやってその2つの世界を出力していくのかっていう部分については感性を信じてやってみたっていう感じですね。

ニューシングル「StarRingChild EP」 / 2014年5月21日発売 / DefSTAR Records
初回限定盤 [CD+DVD] 1620円 / DFCL-2060~1
通常盤 [CD] 1350円 / DFCL-2062
期間生産限定盤 [CD] 1620円 / DFCL-2063
CD収録曲
  1. StarRingChild
  2. Even Heaven
  3. Mine
  4. StarRingChild(Movie ver.)
  5. StarRingChild(instrumental)
  6. Even Heaven(instrumental)
初回限定盤DVD収録内容
  • StarRingChild(Music Video)
Aimer(エメ)

女性シンガーソングライター。幼少期より両親の影響で音楽に親しみ、ピアノやギターでの作曲や英語での作詞を始める。15歳のときに声が一切出なくなるアクシデントに見舞われるが、回復とともに独特の甘い歌声を得る。2011年から本格的に音楽活動を開始。幅広いジャンルのクリエイターとコラボレーションし、楽曲提供やゲストボーカリストとしての活動を通じてその才能が知られるようになる。2011年9月にシングル「六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」でメジャーデビュー。2012年8月発売のシングル曲「あなたに出会わなければ ~夏雪冬花~」はテレビアニメ「夏雪ランデブー」のエンディングテーマに採用され、大きな注目を集めた。その後10月に初のフルアルバム「Sleepless Nights」、12月にカバーアルバム「Bitter & Sweet」と精力的なリリースを展開。2013年3月にはアニメ「機動戦士ガンダムUC episode 6 ~宇宙と地球と~」の主題歌「RE:I AM」を、同11月には新曲とライブ音源を収録したアルバム「After Dark」をリリースした。そして2014年5月、表題曲が「機動戦士ガンダムUC」シリーズ最終章となる「episode 7 ~虹の彼方に~」の主題歌に採用されたシングル「StarRingChild」を発表する。