楽曲「シャングリラ」に込めた想い

リリースされた音源2作は実に、yasuの音楽人としてのプライドを改めて感じさせられるものだったが、yasuはこれまでも自らの想いを楽曲に託してきた。「Project『Shangri-la』」を立ち上げるきっかけとなったのも、「シャングリラ」という楽曲が始まりだったと言えるのではないだろうか。

「シャングリラ」とは、2011年9月から2012年1月にかけ、5カ月連続でリリースしたシングル（「ピストル」「シャングリラ」「蝶」「CRISIS」「イエス」）の第2弾にあたる作品であり、その後にリリースされた3枚目のフルアルバム「『２０１２』」で実質的なラストという重要な位置に置かれた楽曲である。

yasuがこの曲を作り出したのは2011年3月11日以降。日本中が深い悲しみに包まれたあの頃、ちょうど楽曲の制作時期にあったyasuは、自分に何ができるのかと、何度も何度も問いただし、世界を変えられるわけではない、誰も救えるわけではない唄の非力さを悔やんだことだろう。yasuはこのとき、自分とは切り離せない唄への想いと、うわべだけのメッセージソングに聞こえてしまうかもしれないという想いに押しつぶされそうになっていたに違いない。しかし彼は悩み苦しんだ結果、自分にできる精一杯のことを曲と唄に託したのである。それこそが「シャングリラ」だったのだ。

リリース当時のインタビューで、彼はこの歌詞に込めた想いを具体的に語ることはなかったが、ここに描かれた彼の想いは、東日本大震災を受けてのものでもあったと予測される。多くを語らなかった真意は、今、改めてしっかりと胸に届いている気がする。

「Project『Shangri-la』」のトリを飾る新作「君がいない、あの日から…」

そして2014年3月11日。彼は、「Project『Shangri-la』」のトリを飾るリリース作品として、「君がいない、あの日から…」を世に送り出した。3月11日というリリース日は、3年前の傷みを現在もしっかりと胸に刻んでいることを物語っている。

yasuの描き出す歌詞は、時に激しく毒を吐き、時に人間の貪欲な心情を赤裸々に浮かび上がらせ、時に涙が出るほどに優しく聴き手を包み込む。「君がいない、あの日から…」で唄われるyasuの言葉は、とても近くて温かい。そこには“君”を想う彼の真っすぐな気持ちが詰め込まれているのである。

彼は3月19日から、全都道府県ツアーの最終ブロックとなる「5th Season ～四国・九州・沖縄tour～」をスタートさせ、5月13日からは追加公演として「Encore Season ～Arena tour～」が控えている。ニューシングル「君がいない、あの日から…」は、そのステージから唄われていくこととなるであろう。

「シャングリラ」を作ったことでアルバム「『２０１２』」が生まれ、彼は“君が笑顔になるなら唄いたい”という想いを胸にツアーを回り、そこでたくさんの“君”の笑顔と出会った。yasuは、この「Project『Shangri-la』」を通して、またひとつ、唄を通して想いを届けたいと願う気持ちを強くしていったのである。

笑顔をくれた“君”への想いと、笑顔を見せに来ることができなくなってしまった“君”への想い。それを形にしたのが、今作「君がいない、あの日から…」なのである。この曲が会場で唄われるとき、「Project『Shangri-la』」は本来の目的を全うするのではないだろうか。

プロジェクト完結、その先へ

しかし、プロジェクトの終わりはすべての終わりではない。5月29日の日本武道館公演で、9カ月間にわたって届けられてきた「Project『Shangri-la』」は終幕を迎えるが、yasuがそこに込めた想いはこの先も永遠に続いていく。

「大事なのは 傷みに慣れるのではなく その傷を忘れない事」。これもyasuが「シャングリラ」に記した言葉だ。彼はこの先も、この想いを胸に、1人でも多くの人が笑顔になってくれることを願い、唄い続けていくことだろう。なぜならば、その想いこそが、yasuが唄う意味であり、Acid Black Cherryの存在意義でもあるのだから──。