ナタリー PowerPush - 19's Sound Factory

ボーカロイドを一過性のブームにしないため、自分にできること

ボーカロイドを一過性のブームにしたくない

──ミクのキャラクターについてはどう考えてますか?

繊細な感じの声とか絵の雰囲気とかもそうなんですけど、そんなに力強い感じではないけど、何かに思いを込めているような姿がイメージにあります。自分が作る歌詞もそういうふうに願いや感情を込めて祈っているようなものが多いですね。

──やはり19さんには初音ミクに並々ならぬ思いが……。

19's Sound Factory

これまではアーティストが歌うのが音楽の大前提だったのを、機械である初音ミクが崩してしまいましたよね。最初は抵抗があった人も多かったけど、今はボーカロイドの音楽というものが1ジャンルとして定着するまでになったというのはすごいことだと思うんですよ。まだ5年くらいなんですけど、初音ミクが出てニコニコ動画という土壌があって、そこでいろんな人たちがボーカロイドという文化を作ってきたわけじゃないですか。これを一過性のもので終わらせたくないという思いがありますね。これからもクラシックやロックと同じようにボーカロイドというものが1つのジャンルとして続いていけばいいなと思っています。たぶんそんなことを初音ミク自身も考えているんじゃないかと思うんですよね。だから自分の作るミクの曲は、未来に向けてこれからも続いていってほしい、もっとたくさんの人に届いてほしい、そういう願いがこめられたものが多いんです。名前も「未来」と書いて「ミク」ですしね。

──なるほど、そんな思いがあったんですね。

ミクが1人の人間として生きていたらどんな歌詞を書くだろうかというのは常に意識しているので、自分の中ではかなりミク像というのが固まってきています。特にタイトル曲の「キミとボク、まわるセカイ。」は、初音ミクから見たボーカロイド文化について書いた歌です。自分を使ってたくさんの人が曲を作っている、そんなセカイを見てミクはどう思ってるんだろうと、今まで以上に初音ミク目線になった曲ですね。

たくさんのものをくれたボカロ文化に報いるために

──ところで、ジャケットの段ボールフィギュアはかわいいですね。

はい。今回ジャケットについて考えていたときに、よくあるイラストではなく、実際に初音ミクを作って撮影したいなという思いがあり、アーティストのbububuさんを紹介していただきました。このフィギュアは作るのに2カ月くらいかかったそうですよ。大きさも500mlのペットボトルくらいあります。

──とっても親しみやすい感じがします。

それは狙い通りです。初音ミクという名前は知っていても、詳しくはなんのことかわからない方もまだまだ多いと思うんですが、そういう方にも抵抗なく手にとってもらえるように考えました。

──いわゆるボカロリスナー以外にも聴いてほしいという。

「キミとボク、まわるセカイ。」ジャケットに登場する初音ミクの段ボールフィギュア。

そうですね。声が機械っぽいからというだけで毛嫌いしている人もいますけど、その抵抗を取り払ってしまえば、いい曲はたくさんありますし、毎日何十曲も生まれてきている新しい曲に出会えるということを知ってもらいたいんです。もちろん音楽は人の好みなのでとやかくは言えないんですが、最初の段階で食わず嫌いはしてほしくないな、と。自分がこの文化に関わることでたくさんのものをもらったので、それに報いるためにできることはと考えた結果が、これからもこの文化が続いていくように、少しでも裾野を広げていくきっかけを作れたらいいなということですね。

──今後の予定はなにかありますか?

具体的なものはないですが、これからもボーカロイドの曲はもちろん、依頼があればいろんな方の曲も作っていこうと思っています。特にここでひと区切りというわけでもないですけど、ここを起点にまた面白いことができたらなと考えています。

──最後にナタリー読者にメッセージをお願いします。

初音ミク、ボーカロイドの音楽がここまで広がっていったのは、リスナーやクリエイターがみんなで作り上げていった結果だと思います。これを一過性のブームではなく、10年、20年経っても新しい曲が出てきているようなシーンにするためには、今聴いてくれている人たち、そしてこれから出会う人たちがこれからも好きでいてくれるしかないと思うんです。このアルバムには自分が伝えたいメッセージをふんだんに織り込んで作りました。皆さんにとって初音ミクやボーカロイドってなんだろうと考えていただけるきっかけになってくれたらうれしいですね。

19's Sound Factory
ニューアルバム「キミとボク、まわるセカイ。」/ 2013年6月12日発売 / 2200円 / Due. RECORDS / DGSA-10069
収録曲
  1. Story
  2. Dear
  3. ミラージュ
  4. 不安定彼女
  5. Another
  6. Marble
  7. Bitter × Sweet
  8. さかさシンドローム
  9. Twinkle Days
  10. ハートフルメッセージ
  11. リマインダー
  12. Wish
  13. Dear -Remix Edition-
  14. Cross Road
  15. キミとボク、まわるセカイ。
19's Sound Factory(いくずさうんどふぁくとりー)

2007年からニコニコ動画でオリジナル曲を発表しているボカロP。少女の成長を描いた2008年発売のコンセプトミニアルバム「First Sound Story」が話題に。2013年6月現在で120万再生を突破している代表曲「Dear」は、2009年にリリースされた初音ミク発売2周年記念アルバム「初音ミク ベスト~impacts~」にも収録された。また自身のアーティスト活動と並行して作曲家としても活動。これまですーぱーそに子に「不安定彼女」、吉川友に「Twinkle Days」を提供し、アニメ「聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話」のキャラクターソングアルバムで水樹奈々が歌唱する「Illusion Garden」も制作した。