やきそばかおる

それぞれのNHK紅白歌合戦 第3回 [バックナンバー]

視聴歴40年、出演者の下調べを欠かさないやきそばかおる

出場者発表から放送終了まで、独自に編み出した楽しみ方

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大晦日の「NHK紅白歌合戦」の放送に向けて、各分野で活躍する3人に番組の楽しみ方や「紅白」にまつわるエピソードなどを聞き、さまざまな視点から「紅白」の魅力に迫るこの連載。最終回にはライター、構成作家として活躍するやきそばかおるに登場していただき、長年「紅白」をどのように楽しんできたのかを聞いた。

取材・文・構成 / 中村佳子(音楽ナタリー編集部) 撮影 / 齊木恵太

夜11時を過ぎると大人の時間だった

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「紅白」は小学生の頃からずっと観てます。80年代は21時からと少し遅めのスタートで(1989年第40回より現在の時間帯に)。小学生の僕からすると、そんな時間にテレビを観るなんてけっこうな夜更かしなわけですから、正直に言うと眠さとの戦いでしたね(笑)。当時の出演者たちは、紅組と白組のプラカードを持った人を先頭に、NHKホールの客席を通って後方から入場するという演出があったんですよ。入場してる間に画面に丸ゴシック体で出場者の名前がテロップで流れて。入場後にちゃんと選手宣誓まであるから、歌が始まるまでの時間がそれは長く感じてました。その段階からすでに眠くなってしまって(笑)。

僕の世代はアイドル全盛期というのもあり、1980年代後半は斉藤由貴や南野陽子が好きで、チェッカーズとかもど真ん中でした。あの頃の「紅白」ってまだ曲のタイトルが手書きで、アイドルだと可愛らしいハートがあしらわれた文字だったりしたわけですよ。当時はアイドルが歌ってる後ろで、応援団みたいにほかの出演者とかがボンボン持って応援したりしてましたね。特に印象に残ってるのは、小泉今日子が赤い筋肉の着ぐるみで出て来て豪華な森のセットの中で「なんてったってアイドル」を歌った回。その後ろで確か……石川秀美と原田知世だったと思うんですけど、2人が蝶と蜂の衣装で踊るんです。当時はバブル直前の頃だったからお金があったのかな。なんだかわからないことにお金をかけてましたよね。僕からするとその象徴がキョンキョンだったと思います。「大人の世界だな」って思いながら観てました。

うちは「紅白」が終わってから初詣に行く家庭だったから「終わるまで絶対に起きてろ」と言われていて。お風呂に入ってミカンとか食べて、うとうとしてこたつのテーブルに頭をぶつけながら23時45分を待つという。だから今はファンだけど、子どもの頃はしっとりした曲を歌う八代亜紀さんとかは鬼門でしたね(笑)。当時の「紅白」って30分ごとに時刻表示が出て、“9:30”、“10:00”、“10:30”、“11:00”……って。その“11:00”という時刻表示を観た瞬間、「もうここからは大人の時間だ、あと少しで今年が終わるんだ」って思って、ドキドキしながら番組終盤を過ごしてました。あの時刻表示の存在感をなぜか今も覚えてます。ある年からそれが出なくなって、すごく寂しくなったんですよ。手書きフォントの曲タイトルと併せて「紅白」ファンにとって“失っちゃいけない物を失った”という感じがありましたね。大げさかもしれないですけど。

懐かしい手書きフォントを再現

「紅白」は平成元年から20時スタートの2部構成になって、曲タイトルのテロップが手書きフォントじゃなくなったんですよ。それにがっかりして「この文化を残したい」と思って、いつしか過去の「紅白」の手書きフォントを映像を一時停止しながら模写するようになったんです。

今年の出場者のリストを書いてきました。愛用の水性マーカーで書いたんですけど、8時間半かかりました(笑)。自分の中にあるアーティストのイメージを文字の形に落とし込むんです。例えば、DA PUMPは大復活組で、この前、ISSAが踊っているのをライブで観たらパワフルさが全然変わってなくて“心の太さ”みたいなのを感じたので、木の根っこみたいな力強い形にしました。あいみょんは今年ブレイクしたので、その存在感を出しました。松田聖子はかつてアイドルだった時代を思い出して、ファンの女の子がノートに書きそうな書体で書いてます。水森かおりさんはドレスの裾がひらっとしたような光景を表しています。Perfumeは海外でも人気なので筆記体です。三浦大知さんは躍動する感じ。星野源さんはアーティストや役者、作家など人によっていろんな印象があると思うから、あえて余白を持たせてシンプルにしました。そうやって、1人ひとりアーティストのことを考えながら書くわけですよ。どんどん没頭して、書き終わるとどこかスッキリした気分になる。写経みたいな感覚で、皆さんもぜひ試してほしいです(笑)。

やきそばが書いた今年の出場者のリスト。

やきそばが書いた今年の出場者のリスト。

今年はあいみょんと島津亜矢に注目

今年注目してるのはあいみょんですね。Kiss FM KOBEで2017年1月から3月までの限定で「あいみょんのPM4:30」というラジオ番組をやってて、事前収録の15分番組だったんですけど、あまりしゃべり慣れてなくてたどたどしかったんですよ。それが「君はロックを聴かない」で脚光を浴びるようになって、あっという間にトークもうまくなって。今はFM802の「MUSIC FREAKS」という番組で2週間に1回2時間の生放送をやってます。あいみょんの曲自体は3年前くらいから聴いていて、この1年半でこんなに一気にブレイクするとは思わなくてうれしいです。ラジオ番組を録音したものをまだ持ってますからね(笑)。

僕は演歌も好きなので、島津亜矢さんも注目してます。彼女のブログはおすすめです。顔文字だらけで本当可愛い。でも「紅白が決まりました」の報告のときは控えめでしたね、逆に(笑)。島津さんは初出場の2001年からしばらく「紅白」に出られない時期があったんです。だから2015年に2度目の出場が決まったときはずっと応援しているファンの皆さんが「島津亜矢チャンおめでとう」っていう横断幕を作って応援してました。“チャン”がカタカナなのがまたいいんですよ。その年は、もともと、ばってん荒川さん(熊本県出身)が歌っていた「帰らんちゃよか」を同じ熊本出身の島津さんが歌ったんですけど、それを聴いたときあまりにもよくて、何度も聴いて泣きました。

あと、今年から勝敗の審査が変わって視聴者審査員、会場審査員、ゲスト審査員すべて多かったほうが1ポイントっていうシステムになりました。だからなんとなく感じていた採点システムの不公平性っていうのは解消されますね。そこにも注目したいと思ってます。

やきそば流・紅白の楽しみ方

まず「紅白」を観るにあたって、出場者が決まったら放送当日までにその歌手の方たちがどういう苦労をしてきたかっていうのを調べる。本人のインタビューなどを掘り返して読むんです。例えばあいみょん。彼女は兵庫県の西宮出身で6人兄弟なんですけど、家族と離れて東京でデビューするとかはまったく考えてなかったそうです。上京が決まって少しワクワクしてたけど、デビューが近づくにつれてどんどん寂しくなっていく。「誰かが自分のことを思い切り引き止めてくれないだろうか」ということばっかり考えて、上京するときは車で送ってもらったらしいんですけど、長渕剛と嵐の曲を聴きながら兵庫から滋賀までずっと泣いてたんだそうです。これからの目標はもっと売れて西宮で活動できるようになりたいんですって。

石川さゆりは、山口百恵と森昌子と組んで“ホリプロ3人娘”で出てきたんですけど、「石川はパッとしない」って言われ、桜田淳子に変えられちゃってね。レコード会社の人とご飯に行って「何が食べたい?」って聞かれて「ステーキ」って答えたら「まだお前はハンバーグで十分だ」って言われたり。そういう悔しい思いをして、「津軽海峡・冬景色」という大ヒット曲が生まれるんです。福山雅治はデビュー前に材木屋でアルバイトをしてたそうで、毎日重い材木を担いで運んでいたら肩から毛が生えてきたらしいです。その業界では”あるある“らしいんですけど、そのとき「俺も一人前になった」って思ったんだって。18歳で寝台列車で上京したときも、「東京は怖い場所だ」って聞いて、寝てる間にお金を盗られたら困ると思って、履いてる靴下に全財産の20万円入れて寝たらしいですよ。もう共感しかないですよね。

氷川きよしは18歳で上京するとき、お母さんは“寂しくなるから”と空港に見送りに来なかったんですって。でも後日手紙が届いて、「悪い人に騙されないように」とか「ほうれん草を食べましょう」とか「体に気をつけて」って書いてあって、最後に「18年間育てた母より」って。それを読んで氷川さんは泣いちゃったそうです。上京してからは東京のことよくわからないし友達もいないから寂しくて、新聞勧誘に来た人を家の中に招き入れたらしいですからね。3時間くらい自分の夢を話して、最終的に新聞を契約したんだそうです。

純烈の結成秘話は、リーダーの酒井一圭が映画の撮影で骨折しちゃって、「もう歩けないかもしれない」って言われたことがあったそうで、入院中、夢に“直立不動で歌う前川清”が出てきたそうなんです。「これなら歩けなくてもできる」と思って純烈の結成を考えたらしいんですよ。結成してデビューするまでの3年間は営業でプロレスまでやってたそうで。それでもあまり仕事がない中、よく呼んでくれたのがスーパー銭湯だったことから、スーパー銭湯を主戦場にしたそうです。舞台と客席の境目がないからお客さんと握手しながら歌ったりするようになって、今では自分たちで「お触りアイドル」って名乗ってます。それが評判になって動員が増えていって、今年オリコンランキングに入ったんですね。苦節11年、めげなかったんですね。諦めなければ40代で初出場できるっていうのはすっごくいい話題だと思います。

デビュー15年の丘みどりは12歳の頃、天才少女って言われていて。それで兵庫の民謡コンクールで優勝するんですよ。ところが高校を卒業してアイドルグループとしてデビューするんです。バンジージャンプとか、警察犬に追いかけられる仕事で「こんなはずじゃなかった……」って思って辞めて、もう一度歌の勉強をしなおして、20歳のときに「おけさ渡り鳥」で再デビューするんです。でもその衣装がまたミニスカートでおへそを出した衣装だったんです。ストレスで過食症になったりしながらも、お母さんに「やらずに後悔するなら、やって後悔しなさい」って言われて続けたんです。そんなことがあってやっと昨年、初めて出場することができたわけですね。

こういった下調べをやることで、出演者にはいろいろな物語があってそこに立ってるんだということがわかるんです。気持ちを作ってから放送を観るとまたひと味違うんです。「家族と西宮を大事にしてるあいみょんがんばれ!」とか思いながら観るわけですから、応援にも力が入りますよ。

オープニングのとき、出演者がどういう登場の仕方をするかに注目するのも好きなんです。回によってはセットに大階段が作られていることがあって、幕が上がったら階段から出演者が降りて来るっていう演出があるんですけど、そのとき誰の隣に誰がいるのかっていうのは一時停止してしっかり観てます。北島さんを誰がエスコートしているのか、aikoは誰と仲がよさそうか……とかいちいち(笑)。サミットだと記念写真を撮るときに、日本の首相がどの位置に並ぶかが話題になるけど、それとほとんど一緒。立ち位置は誰が決めてるのか、それとも自由なのかはわからないけど、初出場のときは端っこのほうにいた人が真ん中らへんに来てると「出世したなー」って思ったり(笑)、「紅白」でしか観られないアーティストの組み合わせを楽しんでいます。

一部始終を伝えてくれるラジオで聴くのも理想的ですが、最近の僕の楽しみ方はウラトークチャンネルを聴くことです。2010年にウラトークが始まったときは時代の変化を感じましたね。テリー伊藤さんがやってた頃から聴いてますが、昔、何をしゃべってるんだろうって気になって文字起こしをしたことがあります。誰に頼まれるでもなく(笑)。トークチャンネルのいいところは「なんでこの人毎年出てるの?」とか疑問に思ってたことについて解説を入れてくれるんですよ。そうすると「紅白」のことがより立体的にわかるんです。今年はサンドウィッチマンと渡辺直美さんですね、楽しみです。大晦日にのんびりと“ながら見”もいいですが、こうして自発的に、立体的に「紅白」を観るのも面白いですよ。年が明けたらきっと去年よりも深みのある「紅白」トークができるようになっているはずです。多分。

※記事初出時、本文に誤りがありました。お詫びして訂正します。

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構成作家、ライター。そのほか昭和歌謡番組手書きタイトル愛好家、動物園愛好家など肩書き多数。大のラジオっ子(ラジオ好き)でもあり、「TV Bros.」「ケトル」「BRUTUS」などのラジオ特集記事を担当するほか、MBSラジオ「次は~新福島!」内の木曜コーナー「全国ラジオキコウ」に出演中。

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