映画ナタリー Power Push - 「シン・ゴジラ」配信記念特集

市川実日子、“媚びない、マイペース”な尾頭ヒロミを語る

庵野秀明が総監督と脚本、樋口真嗣が監督と特技監督を担当した「シン・ゴジラ」が、auの動画配信サービス・ビデオパスで配信されている。東宝製作のゴジラシリーズの29本目にあたる本作。2016年の国内邦画興行収入ランキング2位を記録し、第40回日本アカデミー賞では最優秀作品賞、最優秀監督賞など最多7部門に輝いた。

映画ナタリーでは、本作の特集を3回にわたって展開する。第2弾では、尾頭ヒロミ役を務めた市川実日子にインタビューを実施。役へのアプローチ方法や撮影現場でのエピソード、同シリーズでは初めてフルCGで作り上げられたゴジラへの思いなどを語ってもらった。

取材・文 / 秋葉萌実 撮影 / 佐藤友昭
ヘアメイク / 布施綾子(boy)
スタイリング / Yuriko E

えっ、ゴジラ? 戦うのかな?

──まず、「シン・ゴジラ」への出演オファーがあったときの気持ちを聞かせてください。

「シン・ゴジラ」より。

私は「ゴジラ」シリーズ自体を観たことがなかったので、「えっ、ゴジラ? 戦うのかな?」と思いました。怪獣VS人間という戦隊ものみたいなイメージを勝手に持っていたんです(笑)。それで台本を読んだらイメージしていたものとはまったく違うものでした。

──台本のどんなところに魅力を感じましたか?

リアリティがあって、面白かったけど怖くもありました。夜に読んでいたので、カーテンの向こうにゴジラがいるんじゃないかと思ったくらい。そのあとに1作目のゴジラがどうして生まれたのか、どういう意味で映画が作られたのかを聞いてさらに興味が湧きましたね。あと、私は東日本大震災のときにずっとテレビで会見を観ていたんですが、当時のことをすごく思い出して「あの会見の裏ではこれだけのいろんな部署の方が動いていたのかもしれないな」と思いました。

自分の中に尾頭に近い人がいる

──では市川さんが演じた尾頭ヒロミというキャラクターの印象についても教えてください。

すごく興味深い人物だと思いました。台本には登場人物の背景がほぼ書かれていなくて、尾頭は「環境省自然環境局野生生物課長補佐」という肩書や「初めて入る総理執務室に緊張する若手が多い中、まるで物怖じしない様子」「初めて笑顔を見せる」といったト書きだけがヒントだったんです。

──確かに、個々のキャラクターの背景はほとんど描かれませんね。その少ないヒントからどうやって役をつかんでいったんでしょうか?

たまたまNHKのドキュメンタリー番組(「ドキュメント72時間」)でナレーションを担当した回がデモが盛んな夏の国会前にスポットを当てたものだったんですが、そのときに国会に入っていく職員の方の“圧”が、ほかの方と違う気がしたんです。何も言ってはいけない職業なんだということが一瞬でわかる表情をされていて「尾頭はこういう中に入って行くんだ」と思いました。あとは、ある日起きたら寝癖がピョンってなっているのを見たときに、「尾頭ってこういう感じの人なのかも」って思ったんです。

──尾頭は必要最低限の身だしなみは整えていますが、華やかにはしていないですね。

市川実日子

キャラクターについての説明がない分、どういう人なのかを表現するためにはちょっとしたことが大事なような気がして。寝癖がついた髪の写真を撮っておいてメイクの方にお見せしたら「いいね! こういうことかもしれないですね」と言ってくださったので、それから撮影の前の夜は髪をちょっと半乾きの状態で折りたたんでから寝ていました。だから採れたてな寝癖(笑)。あとは確か台本に「矢口を見据えて話す」というト書きがあったんですよ。

──尾頭が人の目を見て話している印象はないですね。

そうなんです。庵野さんに「なんとなく人の目を見ない人なのかなって気がします」と話したら「うん、見ないね」とおっしゃいました。だいたい相手のこの辺(鎖骨付近)を見ていたのですが、人の目を見ないのってすごく話しづらいんです。人とのコミュニケーションって目を合わせることも重要なんだと今回勉強になりました。それに自分の中にも尾頭にすごく近い人がいるからキャラクターのイメージが浮かびやすかったのかなと思います。自分の中で何をよしとしているかという根っこの部分に近いところがあるというか。

黄色い声援を浴びてびっくり

──庵野秀明さんや樋口真嗣さんから何かアドバイスはありましたか?

衣装合わせのときに、樋口監督から「尾頭はこういう人だと思う」とキーワードが書かれた付箋をいただきました。探究心、媚びない、マイペース、冷静沈着、内向的、真面目、他者を気にしないと書かれていましたね。あと、庵野さんからは本読みがあったときに「とにかく早口。あとはなるべくテキパキと」と言われました。

──セリフのテンポ感がいいのも「シン・ゴジラ」の魅力ですよね。早口のセリフは大変だったのではないかと思います。今でも覚えているんですか?

覚えてます! 「水素や窒素等、陽子数が少ない物質を取り入れて、細胞膜を通し細胞内の元素を必要な分子に変換してしまう。ゴジラはその崩壊熱を利用した、熱核エネルギー変換生体器官を内蔵する混合栄養生物と推測出来る」とか、「この動き。基本は蛇行ですが、補助として歩行も混じっていますね。エラらしき形状から水棲生物と仮定しても、肺魚のような足の存在が推測出来ます」とか! 脳じゃないところで覚えているのかもしれない(笑)。

──体に染み付いているんでしょうか。

市川実日子

そうですね。あと、作品がすごくヒットしたからイベントなどでも「セリフを言ってください」とお願いされて。たまたま覚えていたから言ってみたらすごく盛り上がっていただけました。

──発声可能上映でも披露されていましたね。熱気に満ちたイベントでしたが、参加されていかがでしたか?(参照:「シン・ゴジラ」泉ちゃんこと松尾諭、大興奮のファンに「まずは君たちが落ち着け!」

発声可能上映ってどういうものなんだろうと思って、当日ちょっと見ていたんですけど、本当に叫んでいて驚きました! 皆さん、私が演じたキャラクターが出てきたら「ヒロミー!」と呼ばれていて、尾頭じゃないんだ!と思ったり、東宝のマークが映ると、「東宝ありがとうー!」と叫ばれていたりして、お腹が痛くなるくらい笑いました。舞台挨拶のときも、上映の流れでお客さんがずっと話しかけてくださっていて。

──舞台挨拶は毎回歓声がすさまじかったです。

あんな黄色い声援を浴びたことがなかったので、全身でびっくりしましたし、とっても恥ずかしかった(笑)。皆さんそれぞれ自由な格好をされていて、うちわも作られていて。人の想像力って面白いなあ!と思いながら熱気ある会場を眺めていました。こうして観てくださった方と直接交流できる機会は初めてだったので、とても興味深い経験でした。

「シン・ゴジラ」2017年3月22日(水)配信開始

「シン・ゴジラ」

ストーリー

東京湾アクアトンネルを走行中の車輌が、突然の浸水に巻き込まれる原因不明の事故が発生。首相官邸では閣僚たちによる緊急会議が開かれ「原因は地震や海底火山」という意見が多数を占める中、内閣官房副長官・矢口蘭堂だけが海中に棲む巨大生物による可能性を指摘する。その直後、海上に巨大不明生物の姿が露わになった。政府関係者が情報収集に追われる中、謎の巨大生物は船舶や橋梁を破壊しながら、呑川を遡上していく。環境省自然環境局野生生物課長補佐の尾頭ヒロミは、上陸の可能性を指摘するが、官邸側は記者会見を開きそれを否定。だがそのとき、巨大生物は蒲田に上陸し、建造物を次々と破壊しながら街を進んでいた。この事態を受けて、政府は緊急対策本部を設置し自衛隊に防衛出動命令を発動。米国国務省からは女性エージェントのカヨコ・アン・パタースンが派遣される。

スタッフ

総監督・脚本:庵野秀明
監督・特技監督:樋口真嗣

キャスト

長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ、高良健吾、大杉漣、柄本明、余貴美子、市川実日子、國村隼、平泉成、松尾諭ほか

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市川実日子(イチカワミカコ)

1978年6月13日生まれ、東京都出身。モデルとして活動しながら1998年に短編映画「HOW TO 柔術」で女優デビュー。その後は「タイムレスメロディ」「とらばいゆ」に出演し、映画初主演を務めた「blue」で第24回モスクワ国際映画祭の最優秀女優賞に輝いた。「シン・ゴジラ」では、第71回毎日映画コンクール女優助演賞、第40回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を獲得。公開待機作に「ReLife リライフ」「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」「三度目の殺人」がある。


2017年4月14日更新