映画ナタリー Power Push - 「映画 ひつじのショーン~バック・トゥ・ザ・ホーム~」

さくら学院インタビュー&アードマン・アニメーションズ スタジオレポート

アードマン・アニメーションズ スタジオレポート

アードマン・アニメーションズが手がけるクレイアニメーション、「ウォレスとグルミット」や「ひつじのショーン」。そんな人気シリーズの裏には、人形を少しずつ動かしてコマ撮りし、わずか6秒分の映像を1日かけて作り上げるという膨大な作業が隠れている。このページでは、「映画 ひつじのショーン~バック・トゥ・ザ・ホーム~」制作現場の様子をお届け。

取材・文 / よしひろまさみち

アードマン・アニメーションズ本社外観。
本作の監督と脚本を担当したマーク・バートン(左)、リチャード・スターザック(右)。
幼いショーンたちのクレイモデル。

場所は英国。ロンドンから車で2時間強ほどの場所にあるブリストルという学園都市。創設当時からこの場所を創造の現場としたのにはワケがあった。共同設立者であるピーター・ロードとデヴィッド・スプロクストンは、ここを選んだ理由を以下のように語ってくれた。「唯一コンタクトしていたテレビ局がブリストルにあったからだ。それにクレイアニメーションのスタジオを持つには、広いスペースも必要だしね。スタジオが有名になってからも、じつはロンドンやハリウッドに移転させてはどうか、という意見があったんだ。だけど、そのときにはスタッフはみんな、この周辺に家族と暮らしていて、移転はありえない選択肢になっていた」

実際、この街はアードマン一色だ。学園都市ののどかな雰囲気の中、暮らす人々はアードマンの本拠地という誇りを持っているし、グルミットのモチーフが飾られた遊覧船があったりする。ピーターらが「ロンドンにもしスタジオがあったら、余計な雑音が入ってくることで、スタッフのクリエイションにも影響が出るかもしれないしね。それにクレイアニメーションはCGアニメのように撮り直しがきかないから、距離的に離れての分業に向かないんだ」と語るように、きっとここから動くことはないだろう。

細部までこだわりが行き届いた廃棄場のセット。
クレイモデルを使った撮影の様子。

さて、撮影現場だが、大きなスタジオにはいくつものセットが組まれ、簡単な仕切りでわかれている。アニメーターたちがシーンおのおのを分業しながら同時に撮影しているのだ。1秒24コマの気が遠くなる撮影だが、訪れたときに「大半は終わっていて、予定よりも早く進んでいる」とスタッフに告げられたのが印象深い。スタッフ個人個人の技量の高さと、それぞれを担う責任感の強さを感じる。あるシーンを担当するアニメーターが地道な作業をしているところをお邪魔したが、イヤな顔ひとつせずに、そのシーンのことやセットのディテールなどを説明してくれた。なんとも余裕。アードマン最大の強みともいえるのが、細部までこだわったセットとクレイモデル。セットは、そんな細かいところまで見えないはず、というところまで作り込まれている。特に驚かされたのは、セットの汚しだ。

自分の口型を披露するビッツァーのクレイモデル。
牧場主のクレイモデルに組み込まれた骨組み。

クレイモデルについて言うと、じつは1つのモデルを変形させる昔ながらのスタイルではない。そのシーンの動きに即した骨組みと関節のある胴体と、表表情パターンがそれぞれ作られた顔を組みあわせていたり、必要に応じてクランプ(固定具)を使ったりしている。例えば、完成版を観ていると気にならないのだが、ひつじが飛び跳ねたりするカットは、モデルをクランプで固定して、宙に浮いているカットを撮影。こうして1コマ1コマを大事に撮影しているのだ。端役のキャラクターのモデルはそれほど多く作られていないが、ショーンをはじめとする主要キャラは、動きや表情も豊かなので、数え切れないほどのモデルが存在する。素材は固い合成樹脂なので、簡単には壊れないようにできているのだが、それでも破損に備えてスペアも作られているので、モデルのストックは膨大だ。

食堂の壁に貼られた、指紋をもとに描かれた似顔絵。

大まかにスタジオをわけると、撮影スタジオとクレイモデルの制作現場の2つ。だが、その中でも細かな作業別に分業制がしかれており、見事なチームワークで成立している。大勢のスタッフを抱えるアードマンだが、その憩いの場となっているのは社員食堂。壁には、アードマンで働く人々やそこを訪れたセレブリティの親指の指紋をもとに描かれた似顔絵が飾られている。「ひつじのショーン」「ウォレスとグルミット」シリーズの作者であるニック・パークや本作の監督コンビはもちろん、ヒュー・ジャックマンやイアン・マッケラン、イアン・フレミングなどの似顔絵も見られた。こういった遊び心が、日々の作業に勤しむスタッフの気持ちを和らげているのだろう。

「ひつじのショーン」メイキングカット
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「映画 ひつじのショーン~バック・トゥ・ザ・ホーム~」2015年7月4日新宿ピカデリーほかにて全国公開

「映画 ひつじのショーン~バック・トゥ・ザ・ホーム~」

イギリスのアードマン・アニメーションズが手がけるクレイアニメーション「ひつじのショーン」シリーズ初の長編作品。1995年にイギリスで公開された「ウォレスとグルミット、危機一髪!」に初登場し、2015年に生誕20周年を迎えたキャラクター、ショーンを主人公にした本シリーズは、現在NHK Eテレにてテレビアニメも放送中。人形をコマ撮りした温かみのある映像と、セリフなしで駆け抜ける明快なストーリーが、国籍や世代を問わず万人から愛され続けている。

ストーリー

イギリスの片田舎の牧場。いたずらが大好きなひつじのショーンは、おとぼけな牧場主、気立てのいい牧羊犬のビッツァー、そしてひつじの仲間たちと幸せに暮らしていた。ある日、ショーンたちの些細ないたずらがきっかけで牧場主の居場所がわからなくなってしまい、みんなで都会へ探しに行くことに。果たしてショーンと仲間たちは慣れない都会で牧場主を見つけ出し、牧場に帰ることができるのか?

スタッフ

監督・脚本:リチャード・スターザック、マーク・バートン

音楽:イラン・エシュケリ

エグゼクティブプロデューサー:ニック・パーク、ピーター・ロード、デヴィッド・スプロクストン


2015年7月22日更新