映画ナタリー Power Push - イマジカBS開局20周年記念 ユーリー・ノルシュテイン監督特集上映「アニメーションの神様、その美しき世界」

アートアニメ界の巨匠が語る、妻・スマホ・日常

ロシアを代表するアニメーション作家ユーリー・ノルシュテイン。切り絵を用いた独特な手法による映像で、宮崎駿や高畑勲ら世界中のアニメーション監督たちのリスペクトを集めてきた。このたびノルシュテイン監督の生誕75周年と映画チャンネル・イマジカBSの開局20周年を記念した特集上映「アニメーションの神様、その美しき世界」が、東京会場を皮切りに全国各地で開催。「霧の中のハリネズミ」「話の話」など彼の短編6作品が、2K修復版としてスクリーンに鮮やかによみがえる。

映画ナタリーでは、10月に来日したノルシュテインにインタビューを実施。さらに長きにわたってノルシュテインと交流を育んできたロシア語通訳・翻訳家の児島宏子にコメントを寄せてもらった。

取材・文・撮影 / 金須晶子

リマスタリングで作品を“追体験”

──デジタルリマスターされたご自身の作品をご覧になっていかがでしたか。

まず非常に大きな仕事をしていただき、ありがたく思います。「霧の中のハリネズミ」はとてもよくなりましたね。ハリネズミくんが現れるところや、霧の様相、そういった描写がより素晴らしいものになった。すでに観てくださった方々は大変喜んでいましたよ。「これまでに比べて色彩が美しく、いろいろなものが見えてくる」と。ただ、紫色がかったニュアンスはちょっとだけ修正したいと思っています。と言っても、見本になるものがすべて劣化してしまい、私の記憶の中にしか残っていないから、自分だけそう見えているだけかもしれませんが。

「霧の中のハリネズミ」より。

──監督はよく「芸術とは追体験するもの」とおっしゃっていますよね。今回、過去の作品がより鮮明で奥行きのある映像になったことで、“追体験”の意味を深められたのでは?

そうなんです。「よく見えてきた」とか「奥行きが増した」というのは、現実感をより引き出せたということ。なので今回のリマスタリングは、私の創作方法にのっとったものだと思っています。何事においても基本となるのは“現実”ですから。

ユーリー・ノルシュテイン

──ロシアに行ったことはなくても、ノルシュテイン監督の作品を観ているとなぜか強い郷愁にかられます。これも一種の“追体験”でしょうか。

そもそも日本とロシアには共通するものがありますからね。どちらの国も非常に偉大な文化を持っているでしょう? ご存知かと思いますが、白樺派が出てきたように日本文学はロシア文学の影響を受けている。また浮世絵や水墨画など日本の絵画は、ロシアだけでなくヨーロッパ全土に大きな影響を与えています。それからロシア人も日本人も歌うことが好きですよね。ある日本人がロシアにやって来て、いろいろなものに出会い感動を持ち帰って、日本で新たなものを創造する。その逆もしかり。文化とは人を介して影響を与え合うんです。私もそうやって日本絵画の影響を受け、作品を作ってきました。

「話の話」に込めた記憶

──監督は以前、「幼少期の記憶はクリエイターにとって大切なもの」とも発言されていました。この“記憶”とは具体的に何を意味しているのか教えていただけますか。

記録映像のようにはっきりした具体的な記憶ではありません。子供の頃の情景や、心に残っている思い出のことですね。それから子供時代に嗅いだ香り……部屋の匂いもそうです。例えば叔母の家を訪ねると、必ずお菓子を出してくれました。最初はそのお菓子の香りがするのですが、食べているうちに、その家が培ってきた匂いも混入してくる。そういうものを含めての“記憶”というわけです。

「話の話」より。

──戦後のモスクワを舞台にした「話の話」についてもお聞かせください。戦争にまつわるイメージが断片的につなげられ、監督自身の記憶も反映されている作品ですね。

戦後すぐの頃、私はまだ幼かった。でも記憶というものは、個人的な記憶だけでなく、ドキュメンタリーフィルムや戦争を経験した人たちの話といった、我々の先輩たちが残したものを取り入れることで共通する記憶になっていくのです。自分が体験した記憶だけでは、時代が限定されてしまいますよね? だから私は人々に共通する記憶を抱え、「話の話」の中に込めているのです。それに創造する者は、歴史の事実も絶対に踏まえていなくては、何かを生み出せることはないと思います。

ユーリー・ノルシュテイン監督特集上映「アニメーションの神様、その美しき世界」

ユーリー・ノルシュテイン監督特集上映「アニメーションの神様、その美しき世界」

アートアニメーション界の巨匠ユーリー・ノルシュテインの生誕75周年とIMAGICA TVが運営する映画チャンネル・イマジカBSの開局20周年を記念し、彼の監督作6本を2Kスキャンにて修復。画質・音質ともに鮮明によみがえった作品を世界初上映!

東京 シアター・イメージフォーラムで公開中、全国順次開催

上映作品
「25日・最初の日」
「25日・最初の日」
「ケルジェネツの戦い」
「ケルジェネツの戦い」
「キツネとウサギ」
「キツネとウサギ」
「アオサギとツル」
「アオサギとツル」
「霧の中のハリネズミ」
「霧の中のハリネズミ」
「話の話」
「話の話」
ユーリー・ノルシュテイン
ユーリー・ノルシュテイン

1941年9月15日生まれ、ロシア出身。1959年に連邦動画撮影所の就職試験に合格。1961年まで同撮影所のアニメーターコースで学んだ後、映画制作に従事するようになる。宮崎駿や高畑勲と深い交流を持ち、2003年に東京・三鷹の森ジブリ美術館で企画展示「ユーリー・ノルシュテイン展」が開催された。2004年には日本政府から旭日小綬章を授与される。また1981年頃、ニコライ・ゴーゴリの短編小説「外套」の映像化に着手。幾度かの中断を経て、現在も制作を続けている。