映画ナタリー Power Push - 映画「ミュージアム」特集 大友啓史インタビュー

“殺人アーティスト” カエル男が象徴するものとは

1つのジャンルに閉じ込めたくない

──先ほどお話に出たジャージの女の子たちにしてもそうですが、若い観客がより熱狂していたと。

大友啓史

釜山国際映画祭でもそうでしたね。映画を勉強してる若い人たちが熱狂していたし。こういう映画ってある種のイベントムービーだから、楽しむ術を彼らは身に着けているのかもしれない。でも僕としては、猟奇ものやホラーが嫌いなわけではないんだけど、映画化するにあたって、この作品を1つのジャンルに閉じ込めちゃうのは違うんじゃないかと思っていました。家族をないがしろにしてきた沢村という刑事の贖罪のドラマでもあるのに、過激で残虐な表現ばかりにスポットを当てられるのはもったいないと感じていたんですよ。だからそのあたりのさじ加減を考えて撮った結果、シッチェスの人たちから観るとホラー表現としては物足りないということになったのかもしれない。でもね、このさじ加減のおかげで、若い人たちにとってはちょっぴり観やすくなったのではとも思う。最初からそう意図していたわけじゃないんですけど。

──「ミュージアム」も、大友監督の最新作「3月のライオン」も“家族”というものがテーマの1つになっているかと思います。

テーマに惹かれて手がける作品を決めるわけではないです。ただ、沢村のような、家庭を顧みない昭和の男じみた生き方について、「本当にこれでいいんですか?」という風潮も今はあるじゃないですか。この物語の中で沢村はカエル男にひどい目に遭わされるけど、その経験によって彼は家族の絆に気付かされていく。そういうシニカルな構造をもとに、ドラマ部分の骨格をちゃんと作っていこうとは思っていました。

小栗くんには昭和の男の雰囲気がある

──その沢村を演じた小栗旬さんの魅力を改めて教えていただけますか?

僕と彼は歳の差が20ぐらいあるんだけど、小栗くんにはまさに昭和の男のような雰囲気があるんです。骨っぽさとか、寝食を忘れて突っ走っていっちゃうようなところとか。割り切って仕事をするようなタイプではない。下手すると不器用とも思われかねないところが個人的に好きなんです。シンプルにカッコいいしね。それに、メイクや衣装で汚せば汚すほどカッコよくなっていく。原作を読んだとき、沢村役の俳優として直観的に思い付いたのが小栗くんでした。

「ミュージアム」より。

──カエル男を演じた妻夫木聡さんを演出するうえで、気を付けたことはありますか?

カエル男については、僕のいつものアプローチとは違って、殺人鬼の人間像をリアルに追い求める作り方をしていません。こういう人物の内面を掘り下げていくには準備期間がもっと必要だし、下手をすると演じる俳優が壊れちゃうんですよね。人を殺すってどういうことなのか、殺人をアートにするってどういうことなのかとシリアスに問い詰めていっちゃうと、作品がエンタテインメントとして成立しないかもしれない。なので、妻夫木くんには“殺人アーティスト”ではなく“アーティスト”としてこの役を楽しんでほしいと伝えました。

──カエル男に誘拐される沢村の妻・遥は尾野真千子さんが演じていますね。

「ミュージアム」より。

小栗くん、妻夫木くん、尾野さんクラスの俳優がそろえば、ホラーやサスペンスというジャンルにくくられない人間ドラマが作れるかなと思いました。キャスティングにはこだわりましたね。遥は、恐怖や悲しさを単純に表現するのではなく、深みのある演技ができる女優じゃないと務まらない役なんです。

──沢村とカエル男が激しくぶつかり合うシーンでは監督ご自身が過呼吸のような状態になっていたそうですが、演出をされるときはいつもそこまでのめり込むんでしょうか。

ものにもよります。演出するうえでの1つのヒントは、登場人物の誰かの目線で見ていくということ。あるときは沢村の立場で、あるときは遥の立場で、そしてあるときはカエル男の立場で。人を殺してるわけだから、倫理的にはカエル男は許されないけれど、彼には彼の正当性があるわけですよ。それを無視しちゃうと単純な勧善懲悪のドラマになる。そうなっちゃうとつまんない。犯人を探していたらいつの間にか逆転して追い込まれていくという、もともとの物語が持っているシンプルな構造をもっと複雑にしたかったんです。

1本のエンタテインメントとして成り立っているメイキング

──最後の質問です。現在Blu-ray / DVDが販売中ですが、ソフトならではの本作の楽しみ方を教えていただけますか?

「ミュージアム」より。

繰り返し観られるので、細部の作り込みに注目してほしいですね。何度か繰り返して観ると、背景に置いてあるものにいろんな意味があることに気付くと思います。あと、この映画のメイキングは本当によくできてるんですよ。

──初回仕様のスペシャル・エディションに収録されているメイキングは、1時間46分という長尺の特典映像になっていますね。その中でも見どころとなる部分を挙げるとしたら?

映画の撮影現場にいるスタッフたちの仕事がわかる作りになってます。操演とか、スタントとか、美術とか、助監督とか、彼らが現場でどんなふうに映画に携わっているのかが、普通のメイキングよりもわかりやすく見えるようになっている。それは撮影・編集・構成を担当した志子田勇くんのおかげ。彼は、特殊メイクと造形デザインを手がけた百武朋くんにもぴったりくっついてたくさん話を聞いてくれました。本当によくできてるんだよ、このメイキング(笑)。撮影現場をただ追った記録映像ではなくて、1本のエンタテインメントとして成り立っている。本編同様、このメイキングも繰り返し観てほしいですね。

キャラクター紹介

  • 沢村久志(小栗旬)

    沢村久志(小栗旬)

    警視庁捜査一課一係巡査部長。カエル男が引き起こす連続猟奇殺人事件を追う。

  • カエル男(妻夫木聡)

    カエル男(妻夫木聡)

    カエルのマスクを被り、雨の日だけに現れる殺人鬼。自らを“アーティスト”と称する。

  • 沢村遥(尾野真千子)

    沢村遥(尾野真千子)

    沢村の妻。家庭を顧みず仕事に没頭する夫を見限り、息子とともに家を出る。

  • 西野純一(野村周平)

    西野純一(野村周平)

    沢村の部下である新米刑事。死体を見ることに慣れていない。

  • 秋山佳代(田畑智子)

    秋山佳代(田畑智子)

    遥の親友。介護施設で働いている。

  • 橘幹絵(市川実日子)

    橘幹絵(市川実日子)

    沢村が訪れる医療研究センターの女医。

  • 関端浩三(松重豊)

    関端浩三(松重豊)

    警視庁捜査一課一係警部。沢村の上司。

コミックナタリー 映画「ミュージアム」特集 FROGMANインタビュー
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Blu-ray / DVD「ミュージアム」 / 発売中 / ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
初回仕様 Blu-ray / DVDセット / 7549円
通常仕様 Blu-ray / 5389円
通常仕様 DVD / 4309円
初回仕様収録内容
  • DISC1(Blu-ray)
    本編(約132分)+特報やスポットなどの映像特典(約4分)
  • DISC2(DVD)
    本編(約132分)+特報やスポットなどの映像特典(約4分)
  • DISC3(DVD)
    3時間を超える豪華映像特典収録(約228分)
    1. メイキング・オブ・ミュージアム(約106分)
    2. インタビュー集:小栗旬、尾野真千子、野村周平、妻夫木聡、大友啓史(約46分)
    3. イベント映像集:ジャパンプレミア舞台挨拶&初日舞台挨拶&大ヒット御礼舞台挨拶(約29分)
    4. 小栗旬×大友啓史 シーンセレクション・インタビュー(約47分)
初回仕様
  • 3面デジパック仕様
  • アウターケース
  • フォトブック(64P)
通常仕様収録内容
  • DISC1(Blu-ray / DVD)
    本編(約132分)+特報やスポットなどの映像特典(約4分)
ストーリー

ある雨の日、犠牲者を鎖で縛り獰猛なドーベルマンに生きながら食わせるという猟奇殺人事件が発生した。犬の体内から見つかったのは「ドッグフードの刑」と書かれたメモ。警視庁捜査一課の巡査部長・沢村は部下の西野とともに捜査を進めるが、今度は「母の痛みを知りましょうの刑」と名付けられた殺人が起こる。被害者は2人とも、4年前に発生した「幼女樹脂詰め殺人事件」で裁判員を務めていた。青ざめる沢村。仕事にかまけて家庭を顧みなかった彼に愛想を尽かし、息子とともに家を出ていった妻・遥もその裁判員の1人だったのだ。新たな犠牲者が出る中、必死で妻子の居所を探す沢村だったが、2人は謎の男に連れ去られてしまう。そして、焦る沢村と西野の前に突如姿を現したのは、カエルのマスクを被り自らを“アーティスト”と称する犯人だった。

キャスト
  • 沢村久志:小栗旬
  • 沢村遥:尾野真千子
  • 西野純一:野村周平
  • 菅原剛:丸山智己
  • 秋山佳代:田畑智子
  • 橘幹絵:市川実日子
  • 岡部利夫:伊武雅刀
  • 沢村の父:大森南朋
  • 関端浩三:松重豊
  • カエル男:妻夫木聡
スタッフ
  • 監督:大友啓史
  • 原作:巴亮介「ミュージアム」(講談社刊)
  • 脚本:高橋泉、藤井清美、大友啓史
  • 主題歌:ONE OK ROCK「Taking Off」
大友啓史(オオトモケイシ)

1966年岩手県盛岡市生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後NHKに入局し、1997年から2年間ロサンゼルスに留学。ハリウッドにて脚本や映像演出を学ぶ。帰国後、NHK連続テレビ小説「ちゅらさん」シリーズ、大河ドラマ「龍馬伝」などの演出を手がけ、2009年には「ハゲタカ」で映画監督デビュー。2011年4月にNHKを退局し、大友啓史事務所を設立した。同年、ワーナー・ブラザースと日本人初の複数本契約を締結し、「るろうに剣心」3部作を監督。ほか近年の公開作に「プラチナデータ」「秘密 THE TOP SECRET」がある。現在「3月のライオン」前編が公開中。4月22日には、「3月のライオン」後編が公開される。