映画ナタリー Power Push - 鈴木敏夫が語る「モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ」

ジブリを飛び立った「モンスト」脚本家に鈴木敏夫が愛の激励

宮崎駿に一目置かれた男

鈴木敏夫

まあしかし、めでたいですね。ナヨのこと、「実は中身はこうだよ」っていろいろバラしちゃマズいですか?(笑) 彼はね、関西人だからかしぶといんですよ。大学院を出て、講談社で働いて、それでサイゾーに行ったのかな。ジブリの悪口ばっかり書いてた(笑)。そうしたらある日いきなり「鈴木さんを取材するのは最後です」って言われたんですよ。「なんで?」って聞いたら、「アメリカ行くんです」って。「ちょっといろいろありまして」なんてもったいつけるから、根掘り葉掘り聞きたくなるでしょ? それで聞いてみたら、「付き合っていた女性に振られた。だからアメリカで新しい人生を歩むんです」と。でも英語ができるわけでもないし、なんの当てがあるわけでもない。「だったらジブリ来るか?」って誘って、ナヨがジブリに来ることになったんですよ。

──岸本さんからしたら、思いもよらないお誘いだったでしょうね。

これがね、彼には秘密があって……言っていいんですかね(笑)。遊んでるわけにもいかないから、「俺のアシスタントでもやる?」なんてナヨに言ったら、あいつ3カ月でジブリの社員を妊娠させたんですよ。それも、一刻も早くその子と結婚するために。ビッグニュースでしょ?(笑)それがあって宮崎駿はね……ナヨに一目置いたんですよ! 世の中ってそういうもんなんです。

──次々とすごいお話が出てきますね!

鈴木敏夫が描いた岸本卓の似顔絵。
鈴木敏夫が描いた岸本卓の似顔絵。

ナヨって一言で言うとね、気持ち悪いんですよ(笑)。僕の描いた似顔絵でそっくりなやつがあるんですけど、せっかくだから掲載したらどうだろう? そんなこともあってジブリの同世代の若者たちはものすごく刺激されて、結果、社内で大結婚ブームと大出産ブームが起こるんです。そのきっかけを作ったのがナヨ。僕、そこは評価しましたね。

──まさかジブリでそんなことが起きていたとは……。

とっておきの話をするとね、「崖の上のポニョ」って当初は保育園の物語だったんですよ。宮崎駿も絵コンテを描いていた。ところがスタッフの子供がばんばん生まれちゃって、その子たちの面倒を見なきゃいけなくなるでしょ。そうしたら宮崎駿が僕のところに来て「鈴木さん、頼みがある」って言うから「なんですか?」って聞いたら、「映画で保育園の話を作ってもしょうがない。本物を作って」と(笑)。それでジブリに保育園ができたんですよ。本物を作ることになったから、「ポニョ」の内容は変えることに。それもこれもね、全部ナヨのせいですよ(笑)。

「宮崎駿が駄目なら高畑勲にしようかな?」

──岸本さんは高畑勲監督のご担当だったとも伺いました。

ナヨが本気を出したのは「(借りぐらしの)アリエッティ」のとき。あいつがシナリオ書いてみたんだけど、宮さんからダメ出しされまくる。で、今度は高畑勲にくっつき始めて。丸2年くらいかな、高畑さんにいろいろ教わってました。まったくめげない! 宮崎駿に「お前なんか駄目だ!」って言われたら、「宮崎が駄目なら高畑にしようかな?」なんて、そういうやつ(笑)。でもけっこう気に入られるんですよ。愛嬌もありますし。そうしたらある日「(ジブリを)辞める」なんて言い出して。いつの間にやらシナリオライターになって、しかも長編デビュー? 作品にはジブリの影響が色濃く出てるし(笑)。しぶといでしょ!

──先ほど、鈴木さんのそばで働いていた人たちそれぞれに自己主張があるとおっしゃってましたが、岸本さんのクリエイターとしての自己主張はどういうものだったのでしょう。

クリエイターとしての自己主張じゃないですよ(笑)。

──あ、違うんですか(笑)。

「モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ」より。

生活力がある。生きることに対して貪欲。生きるためにはなんでもやろうって、今時珍しいですよね。ついでに言っちゃうと、団塊ジュニア世代ってみんなで1つのことをやるのが下手だと思うんですよ。横でつながらないんですよね。でもナヨはほかより少し、みんなと一緒にやっていけるタイプなんじゃないかな。だからナヨのインタビュー見ててもね、プロデューサーの指示だったりいろんなものを受け入れてますよね。そこがあいつらしいなって思います。

「モンスト」も「ナウシカ」も主人公の体験がすべて

──「モンスト」を観てほかに気付かれたことはありますか。

「モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ」より。

内容で言うとね、宮崎駿の影響を感じたんですよ。いい意味でも悪い意味でも。この映画で観客が得る情報って、基本的には主人公のレンが体験したこと、見たこと、聞いたことでしょ。客観描写がないんですよね。実を言うと、宮崎駿の映画もそうなんです。主人公の体験したことに観客が付いて行かなきゃならない。「(風の谷の)ナウシカ」なんかもそう。宮崎駿の映画も、この「モンスト」も、主人公が出ずっぱり。ひと昔前だったら主人公とライバルが別々の場所にいて、どこかで出会うっていうのがけっこうあったんですけど。最近のアニメは主人公が常に画面の中にいて、そこから観客がいろんな情報をつかんでいく。この根っこはどこにあるんだろう?って、そんなことを考えましたね。

──もとをたどるとなんの影響なんでしょう。

子供の頃、月刊マンガ誌でいろんな人が描いていたけど、主人公がすべてのコマに登場してたんだよね。もしかしたら昭和20年代、30年代のマンガの伝統が、こうやって今のアニメーションに生きているのかなと思いました。でも海外、特にアメリカと比較すると、向こうは主人公の主観で描く映画ってあまりないんですよ。

──日本ならではの描き方なんですね。

例えば「君の名は。」が今上映されているけど、あれは男の子(瀧)と女の子(三葉)、どちらかが出ずっぱりってことはないですよね。男の子の話があって、一方で女の子の話があって、そしてその2人が出会う。だからどちらかと言うと「君の名は。」のほうが西洋的。その違いは面白かったです。

CONTENTS INDEX
特集トップ・作品紹介
ジャングルポケット 斉藤慎二
ヨーロッパ企画 上田誠&角田貴志
スタジオジブリ 鈴木敏夫
超特急 リョウガ&ユーキ
大久保篤
映画「モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ」2016年12月10日(土)公開
「モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ」

小学4年生の焔レンは、3人のチームメイトとともにゲーム「モンスト」の開発に協力していた。ある日レンたちは研究所の地下で、現実世界にいるはずのないドラゴンを目撃する。弱っているドラゴンをもとの世界に戻すため、“ゲート”を目指し旅に出ることになった4人。その目的地は、かつてレンの父が失踪した場所でもあった。身勝手なレンはチームの輪を乱し仲間と衝突するが、徐々に自分が1人で生きているわけではないことに気付いていく。

スタッフ

監督:江崎慎平
脚本:岸本卓
ストーリー構成:イシイジロウ、加藤陽一
キャラクターデザイン原案:岩元辰郎
モンスターデザイン原案:近藤雅之
キャラクターデザイン・総作画監督:金子志津枝
美術監督:加藤浩、坂上裕文
色彩設計:大西峰代
チーフCGIディレクター:福島涼太
CG演出:川原智弘
音響監督:明田川仁
音楽:MONACA
撮影監督:野村竜矢
編集:長谷川舞
制作:ライデンフィルム、ウルトラスーパーピクチャーズ、XFLAG PICTURES
製作:XFLAG
配給:ワーナー・ブラザース映画

キャスト

焔レン:坂本真綾(小学生時代)/ 小林裕介(中学生時代)
水澤葵:Lynn
神倶土春馬:村中知
若葉皆実:木村珠莉
影月明:河西健吾
石橋健太郎:北大路欣也
オルタナティブドラゴン:福島潤
アーサー:水樹奈々
ゲノム:山寺宏一
エポカ:水瀬いのり

主題歌

ナオト・インティライミ「夢のありか」

鈴木敏夫(スズキトシオ)

1948年、愛知県生まれ。慶応義塾大学卒業後、徳間書店に入社。週刊アサヒ芸能などを経て、1978年、アニメ雑誌・月刊アニメージュの創刊に携わる。同誌の編集を行いながら、高畑勲らとともに1984年公開の劇場版アニメ「風の谷のナウシカ」を製作。1985年、スタジオジブリの設立に参加し、以後「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」「火垂るの墓」「魔女の宅急便」を製作する。1989年からはスタジオジブリ専従となり、「平成狸合戦ぽんぽこ」「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」「風立ちぬ」などをプロデュース。アニメ作品のほかに庵野秀明の監督作「式日」、樋口真嗣の監督作「巨神兵東京に現わる」といった実写作品も手がけている。2016年9月、プロデューサーを務めたスタジオジブリ最新作「レッドタートル ある島の物語」が劇場公開された。


2016年12月15日更新