映画ナタリー Power Push - ナタリー×Hulu 語りたくなる1本がある。

紀里谷和明編

「スカーフェイス」はバイオレンスだけどすごくロマンティック

──なるほど。それでは次の作品に。アル・パチーノの「スカーフェイス」はいかがですか。

紀里谷和明

これはね、ときどき観返しますね。脚本もアル・パチーノの演技も素晴らしいし、完璧に近い映画ですよね。いやあ、シーンのつながりが、実によくできている。物語を構築するときや脚本を書くときに参考にしています。リアルって言うとすごいチープな言い方になっちゃうんだけど、アル・パチーノやほかの俳優たちの芝居が、身につまされる感じがするっていうか。キューバからアメリカに来ている男たちの設定じゃないですか。虐げられたやつらの悔しさっていうのが、アル・パチーノの演技から見える。いわゆるデジタルではない世界で作られた映画で。まあデジタルの権化みたいに言われてる僕が言うのもなんなんだけど、やっぱりフィルムで撮っていて、カメラもそんなに性能がよくないっていう世界の中で作られたのもあってか、人の温度が伝わってくる感じがすごくするんですよね。だから、照明部の存在があんまり見えないっていうのがすごくステキだなと思います(笑)。

──映画監督ならではの考えですね。

この頃の映画は、観客と役者の間に1枚フィルターが入ってる感じがするんですよね。今の映画って、すごく近いんですよ、役者と観客が。カメラの性能も上がってきていて、全部シャープに映っちゃうし。このときはまだスターがスターに見えていた時代なんですよね。

──はい。

今は観る人たちが「CGのクオリティが」とか、「画質が」みたいなことを言うじゃないですか。でも当時は誰もそんなこと気にしてなくって、物語やお芝居が何よりも大事だったから。それが今、実は僕にとってのテーマでもあって。「ラスト・ナイツ」の次っていうのもその辺りに向かっているんですよね。僕の中では技術的なことはもういいや、っていう感じがすごくある。

──この作品で、特に印象に残ってるシーンはありますか。

いやもう、これは最初から最後までですよ! でもあえて言うならアル・パチーノが演じたトニー・モンタナが、ボスを殺して外に出るシーン。それで空を見上げると飛行船が飛んで来て、そこに「The World is Yours」って書いてあって。うわぁ……って感じ。

──しかもその描写が最後のシーンに生きるんですよね。

そうそう、その描写とかもう最高って感じですよね。その辺りはたぶん今だとCGでやるはずなんですよね。すみません、最近の私はCGのことを全否定なんですけど。

──(笑)。

「スカーフェイス」©1983 Universal Studios. All Rights Reserved.

あとバイオレンスな映画だけどすごくロマンティック。これの前に「ゴッドファーザー」シリーズがあるんだけど、僕は「スカーフェイス」のほうが好きかな。もちろん「ゴッドファーザー」も素晴らしい映画ですよ。マイケル・コルレオーネをやったアル・パチーノがこのトニー・モンタナをやってるっていうことにも、もう本当にグッとくるし。

──アツいですよね。

アツい。そういう感じがね、なんで最近はないんだろうね?

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紀里谷和明の語りたくなる作品リスト

  • イレイザーヘッド
  • 皇帝のいない八月
  • スカーフェイス
  • メタルヘッド
  • SHAME -シェイム-
  • アポロ13
  • シンドラーのリスト
  • エリザベス
  • イントゥ・ザ・ワイルド
  • ロスト・ハイウェイ

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※各作品のHuluでの配信には期限があります。

紀里谷和明(キリヤカズアキ)

1968年4月20日生まれ、熊本県出身。1994年より写真家として活動をスタートさせ、SMAP、サザンオールスターズなどのCDジャケットやMVの撮影を手がける。2004年に「CASSHERN」で長編監督デビュー。2009年発表の「GOEMON」以来6年ぶりとなる最新作「ラスト・ナイツ」が11月14日に公開される。

「ラスト・ナイツ」

「ラスト・ナイツ」

紀里谷和明のハリウッド進出作。架空の封建国家を舞台に、忠誠心や名誉、正義、尊厳などをテーマにした人間ドラマ。主君の不当な死に報いるため、彼に忠誠を誓った騎士たちが立ち上がるさまを描く。出演はクライヴ・オーウェン、モーガン・フリーマン、伊原剛志、アン・ソンギら。11月14日より全国でロードショー。


2016年1月8日更新