映画ナタリー Power Push -「ひるね姫 ~知らないワタシの物語~」神山健治×岩井俊二インタビュー

光と声が生み出すアニメの新しい実在感

古いインフラに縛られない新しい部隊(神山)

岩井 「ひるね姫」は全部手描きなんですか?

神山 はい。

岩井 はあ……やっぱりすごい技術ですね。相変わらずアニメ界は本当に……全部描いちゃうなんて。

神山 神がかったアニメーターはまだいるなって思います。でも今回、新しいスタジオ(シグナル・エムディ)を作った理由として、日本のアニメの作り方が硬直化してしまっているという危機感があって。もちろん、そのインフラが豊かな作品がたくさんできあがる環境を生んでいるんですが、それがあまりにも硬直化してしまい、さらに衰退も始まっている。これをずっと続けていても、新しいものはもう出てこないんじゃないかと思ったんです。

岩井 なるほど。

左から神山健治、岩井俊二。

神山 でもそんな中でも岩井さんの「花とアリス殺人事件」のような新しいものも出てきて。我々の常識とは違う方法で作られたからか、我々が失っているカロリーのようなものをあの作品を観たときに感じたんです。最近で言うと新海誠監督とかは初めからアフターエフェクツを使用して作品を作ってきていますよね。そういうふうに、外側にいた人たちが次々と登場してくる中で、スタジオシステムはもう限界にきているなと。とにかく編集が1回しかできないとか、音は音を作る人にしかいじれないとかそんな古い慣習は捨てようと。スタジオの設立には、古くなったインフラに縛られない部隊をもう一度作らないといけないという思いがあったんです。

映画はとんがっているうちに撮らなくては(神山)

──神山監督は「神山健治の映画は撮ったことがない」という著書で映画とは何かを問うていますね。今回、映画の正体はわかりましたか?

神山 そうですね……1個わかったことは、映画を撮るときは聞き分けがいいとダメだなと。自分でも悪いところだと思うんですけど、バランスを取ろうとするところがあって。でも映画はバランスを取っちゃダメだなということがわかりました。

岩井 たしかにそうですね。バランスを取ると予定調和になってしまう。

神山健治

神山 そうなんですよ。とんがっているところが失われたりするので。

岩井 あと、経験があると受け身を取ろうとしてしまいますよね。

神山 長くやっていればやっているほど自分の中でイメージを作ってしまうだけでなく、変にテクニックも覚えてしまいますからね。だから映画はやっぱりとんがっているうちに撮らなくてはと思いました。

夢と現実のキワキワが面白い。最後の最後まで予想できなかった(岩井)

──これから作品を観る観客に一言いただけますか?

岩井 現実と夢にそれぞれ描かれていない部分があり、かなり見慣れない、そういう意味で予定調和感がない作品です。本当に最後の最後まで、ストーリーのハラハラドキドキとは違うところでハラハラさせられました。それぞれのエピソードが面白いんですけど最後のクライマックスが……ギリギリのギリギリまで予測できなかった。夢と現実って基本的には相交わることのないものなんですが、この作品では夢と現実の間をつないでいるものがあって、その描き方が見事だった。それが1つの化学反応を起こすところが素晴らしかったです。

神山 うっかりしていると置いてきぼりになるほど、情報を詰め込んでいます。でも仕掛けた部分とかを探らなくても勢いで楽しんでもらえるとも思うし、ココネの導線だけを追っていても観られると思う。「スカート短えな」とかね(笑)。あと夢の世界と現実とは全部関連付けているので、夢の中で起きていることが現実ではなんのメタファーなんだろうと思いながら観てもらっても面白いと思います。

岩井 夢って本当は現実になんの作用もしないじゃないですか。もし夢が現実に作用してしまったら嘘になってしまう。このキワキワが面白い。それでかなり惑わされましたね。この構成だと今何が起きているかが1回観ただけでは、なかなかわからない。2度、3度と観てみたい。

神山 ありがとうございます。僕は今すごく満足しているんです。この作品が自分でも好きで。ラッシュからたぶん100回ぐらい観てるんだけどまだ観ちゃう。ぜひ多くの方に観てほしいです。

左から神山健治、岩井俊二。

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「ひるね姫 ~知らないワタシの物語~」特集
桜井日奈子×前野朋哉
神山健治×岩井俊二
「ひるね姫 ~知らないワタシの物語~」3月18日(土)全国ロードショー
「ひるね姫 ~知らないワタシの物語~」
ストーリー

岡山県倉敷市で父親のモモタローと2人で暮らしている平凡な女子高生・森川ココネ。眠ることが得意なココネは、最近ハートランドという機械作りの国のお姫様エンシェンの夢ばかり見ていた。そんな中、2020年の東京オリンピックを3日後に控える夏の日、突然モモタローが警察に逮捕され、東京に連行されてしまう。父親が悪事を働いたとは思えないココネは、次々と浮かび上がる謎を解決するため、幼なじみのモリオを連れて、東京に向かうことを決意。モリオとともにサイドカー付きのバイク・ハーツに乗り込んだココネは、いつも見ている夢の中に、事態を解決する鍵があることに気付き……。

スタッフ
  • 原作・脚本・監督:神山健治
  • キャラクター原案:森川聡子
  • 作画監督:佐々木敦子、黄瀬和哉
  • 演出:堀元宣、河野利幸
  • 音楽:下村陽子
  • 主題歌:森川ココネ「デイ・ドリーム・ビリーバー」(ワーナーミュージック・ジャパン)
キャスト
  • 森川ココネ / エンシェン:高畑充希
  • 佐渡モリオ:満島真之介
  • 渡辺一郎 / べワン:古田新太
  • ジョイ:釘宮理恵
  • 佐渡 / ウッキー:高木渉
  • 雉田 / タキージ:前野朋哉
  • 森川イクミ:清水理沙
  • 志島一心 / ハートランド王:高橋英樹
  • 森川モモタロー / ピーチ:江口洋介
神山健治(カミヤマケンジ)

1966年3月20日、埼玉県生まれ。高校卒業後、背景・美術スタッフとしてキャリアをスタート。2002年に「ミニパト」で監督デビューを果たす。同年テレビシリーズ「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」、2004年に「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」、2007年に「精霊の守り人」を監督。2009年に原作・監督・脚本を兼任したオリジナル作品「東のエデン」は、テレビシリーズから劇場版2作へと展開された。2012年にはフル3DCGアニメーション「009 RE:CYBORG」を監督、2016年に「CYBORG009 CALL OF JUSTICE」で総監督を務めた。

岩井俊二(イワイシュンジ)

1963年1月24日、宮城県生まれ。横浜国立大学卒業後、ミュージックビデオの仕事を始める。1993年、オムニバスドラマ「ifもしも」の中の1本「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」を監督。1995年に初の長編映画「Love Letter」を手がけ、その後も「スワロウテイル」「リリイ・シュシュのすべて」「花とアリス」など話題作を次々と生み出す。2015年には劇場アニメーション「花とアリス殺人事件」が公開。2016年3月に「リップヴァンウィンクルの花嫁」が封切られ、2017年2月よりショートフィルム「チャンオクの手紙」が配信を開始した。

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