映画ナタリー Power Push -「ひるね姫 ~知らないワタシの物語~」神山健治×岩井俊二インタビュー

光と声が生み出すアニメの新しい実在感

瀬戸内の波のない海が作り出す、日本らしからぬ光量(神山)

岩井 光と言えば、冒頭の町並みが印象深かったです。日陰と飛んでいるところのコントラストがきれいで。

「ひるね姫 ~知らないワタシの物語~」より。

神山 ロケ地を岡山にした理由はストーリー的な条件などいくつかあるんです。初めは自分が憧れているところ、大林(宣彦)監督をはじめとする方々が撮られてきた尾道を候補に考えて。舞台の下津井は、ロケハンで尾道に行く流れで見つけたんです。古い町並みや瀬戸内の波のない海と、瀬戸大橋とのコントラストがすごくて。港町に橋がドンとあって、すごい異物感なんです。あと、海が陽の光をすごく反射して、日本らしからぬ光量で。そこから、光量のある画にしようという意識が生まれましたね。

岩井 風景や動きなど、アニメーションとしてのクオリティにまったく隙がなく素晴らしかったです。僕も一度だけですけどアニメにトライした経験があるので、よりすごさを感じて。その経験をするまで、原画があって間を埋めればアニメになるって安易に考えていたんですけど、実際にアニメを作ってみると1枚でも下手な絵があるとダメなんですよね。当たり前だと思うかもしれませんが、1コマずつ全部絵なんですよ! それがなめらかに動くからきれいなんであって。1枚でも下手なものがあると「ん?」って引っかかるんですよ。

神山 引っかかりますね。

岩井 うまい絵描きさんたちが丹念に描いてつないでるから、ナチュラルな動きが再現されているんだと思うんです。それがやっぱり素晴らしいなと。

高畑さんの生っぽい声がよかった(神山)

岩井 ココネ役の高畑(充希)さんの声がすごくよかった。アニメで聞き慣れないキレのない感じというか。

左から神山健治、岩井俊二。

神山 (笑)。高畑さんが聞いたらとても喜ぶと思います。主人公の女の子から物語を紡いでいこうと考えたとき、生っぽさが欲しいなって思っていたんです。それで高畑さんが主人公の吹替を担当した「シンデレラ」で声を聞いたときにすごくよかったんです。こっちも「ひるね“姫”」だしね(笑)。最初はもっと活発な、どちらかと言えばギャルっぽい子のほうがいいのかなと思っていたんですけど、逆だなと。

岩井 あの声は貴重ですよね。女優さんがやるともっとアニメ声優さんと似たような声、シャキッとした声を作れると思うんです。

神山 本人にお会いしてすごくストイックで芯の強い人だなと。最初は、主役をやって主題歌も歌うというのには違和感があると言って歌うのを断られて。演じることにすごくプライドを持っている人だと思うので、おまけみたいな感じで歌をやりたくなかったんでしょうね。それを断るところもいいなと思いました。

岩井 昔放送されていた「大草原の小さな家」という海外ドラマで、主人公ローラの声を佐藤久理子さんという方が担当されていたんです。聞いたことがないような不思議な声で、意外といそうでいないんですよねそういう特徴のある声の人って。ナチュラル系というかね。実写では顔がナチュラルだとその顔に引っ張られて声もそう聞こえたりすることがあると思うんだけど、声だけ勝負になるとなかなか。ナチュラルな女優さんを使っても、意外と普通のアニメ声にしか聞こえないってことがあると思うんです。でも高畑さんは、口元が開ききってないというか……(笑)。

神山 言わんとしていることはわかります(笑)。

「ひるね姫 ~知らないワタシの物語~」より。

岩井 モゴモゴしてしゃべっている感じが、聞いていて新鮮でした。いい意味でアニメっぽくなくて、聞いていて飽きない。

神山 あんまり演技の指導はしてなくて、思うままにやってくださいとお願いしたんです。ただでさえ2役あって、意識して作り込んでしまうと持ち味が消えてしまう可能性があったので。ココネとエンシェンのチューニングの部分で彼女の勘のよさを感じましたね。

岩井 実写でもキャストを選ぶときに声は重要。声の説得力というものがあるので。女優さんですごいなと思う人には、天は二物を与えているというか、見栄えも声も素晴らしいというね。自分が小学校から大学まで普通の人として歩んできた中では出会わなかった声の持ち主がいるんですよ。こんな声の人が自分のクラスや自分の兄妹とかにいたら困るよなっていう(笑)。そんな中でも個性というものがあって、共感されやすかったりされにくかったりしてね。

神山 確かに、素敵だけど共感されない声というのもありますよね。

岩井 今回の渡辺(一郎)とか出てきた途端に共感できないじゃないですか(笑)。

神山 (笑)。

「ひるね姫 ~知らないワタシの物語~」より。

岩井 でもよくよく考えてみるとああいう顔の人いますよね。この差ってなんだろう? 実際こういう顔の人は現実にもいて、しかも全然悪い人じゃないですからね。映画の中の役割で出てくると、これ許せないよなって顔に見えるというのが不思議だなと思いましたね。

神山 僕は今まで、オーディションでは資料はほとんど読まず、できるだけ声だけを聞くようにしていたんです。だからなのか、声だけで体型や年齢を当てられるようになりました。

岩井 ははは、それすごい特技ですね。

神山 やっぱり声にはパーソナリティが乗っかっているんですよ。きれいな方って、自分がきれいだということをだんだん自覚していくと思うので、それが声に乗っていくんでしょうね。

「花とアリス殺人事件」は役者が演じることで計算では解読し切れないものが入ってきた(岩井)

──岩井監督が手がけられたアニメーション映画「花とアリス殺人事件」の制作は神山監督がCEOを務めているスティーブンスティーブン(現クラフター)が担当していますね。

神山 初期段階では僕もお手伝いをしていたんですけど、途中から自分でもよくないと考えているアニメの作り方を押し付けてしまっているように感じて。作り方のコツみたいなものをアドバイスできればという思いだったんですけど僕は途中で抜けて、離れたところからのぞき見してました。

岩井 ロトスコープと3DCGを合体させて作ったんですけど、大変でした。すべてが初めてだったので。神山さんが作られた「009 RE:CYBORG」が出てきたあと、3Dアニメが次々とできあがるのかなと思っていたら意外とそうでもなくて。完成品だけ観ていると、作り方も予想できていたんですけど、実際に作ってみると変なものが顔から出ていたりして(笑)。ちょっと待ってくれよって。

神山 3Dだから楽に作れるんじゃないかって最初は思うんですよね(笑)。実は全然そうではないっていう。

岩井 矛盾や破綻が画像上に起こるんですよね。庵野(秀明)さんのスタジオ、カラーに遊びに行ったときに3Dアニメを作っていたんですけど、苦労しているようでしたね。いわゆるアニメ的な顔で斜め横を向いているモデルとかで、口がこのへん(こめかみあたりを指差し)に付いていたり(笑)。

神山 その角度用にモデルを作っていくんですよね。

岩井俊二

岩井 こんなになっちゃっているんだって(笑)。それを見たとき、なんで僕たちこんなのを普通だと思っちゃっているんだろう。口、こんなところに付いちゃってるのに。それで3DCGは人形アニメに近いなと。人形という発想から考えたほうがいい。いっそ3Dじゃなくてパペット人形を動かして、それを取り込んでアニメにするのも面白いなと思ったりしましたね。あと実写映像をベースにしてアニメを作り上げるロトスコープという技法は、僕の場合実写から入って土台を作ったほうがいいだろうと思って選びました。役者さんにお芝居付けるのは得意中の得意なんで(笑)、それを撮って戻すというね。

神山 あれはモーションキャプチャじゃなかったから、魅力的なんですよね。同じ役者さんがモーションキャプチャで演じてもあそこまで魂があるようには見えなかったと思う。

岩井 PC上の計算式では生じないような情報が、役者が演じることで入っているわけですよね。解読し切れないものが入ってくるという。そのノイズが面白かった。

神山 今までのアニメにはないポーズがたくさんあってよかったです。手描きでは見つけられないようなポーズがいっぱい入っている。「ひるね姫」を作るときに観直させていただいて、刺激を受けました。

「ひるね姫 ~知らないワタシの物語~」特集
桜井日奈子×前野朋哉
神山健治×岩井俊二
「ひるね姫 ~知らないワタシの物語~」3月18日(土)全国ロードショー
「ひるね姫 ~知らないワタシの物語~」
ストーリー

岡山県倉敷市で父親のモモタローと2人で暮らしている平凡な女子高生・森川ココネ。眠ることが得意なココネは、最近ハートランドという機械作りの国のお姫様エンシェンの夢ばかり見ていた。そんな中、2020年の東京オリンピックを3日後に控える夏の日、突然モモタローが警察に逮捕され、東京に連行されてしまう。父親が悪事を働いたとは思えないココネは、次々と浮かび上がる謎を解決するため、幼なじみのモリオを連れて、東京に向かうことを決意。モリオとともにサイドカー付きのバイク・ハーツに乗り込んだココネは、いつも見ている夢の中に、事態を解決する鍵があることに気付き……。

スタッフ
  • 原作・脚本・監督:神山健治
  • キャラクター原案:森川聡子
  • 作画監督:佐々木敦子、黄瀬和哉
  • 演出:堀元宣、河野利幸
  • 音楽:下村陽子
  • 主題歌:森川ココネ「デイ・ドリーム・ビリーバー」(ワーナーミュージック・ジャパン)
キャスト
  • 森川ココネ / エンシェン:高畑充希
  • 佐渡モリオ:満島真之介
  • 渡辺一郎 / べワン:古田新太
  • ジョイ:釘宮理恵
  • 佐渡 / ウッキー:高木渉
  • 雉田 / タキージ:前野朋哉
  • 森川イクミ:清水理沙
  • 志島一心 / ハートランド王:高橋英樹
  • 森川モモタロー / ピーチ:江口洋介
神山健治(カミヤマケンジ)

1966年3月20日、埼玉県生まれ。高校卒業後、背景・美術スタッフとしてキャリアをスタート。2002年に「ミニパト」で監督デビューを果たす。同年テレビシリーズ「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」、2004年に「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」、2007年に「精霊の守り人」を監督。2009年に原作・監督・脚本を兼任したオリジナル作品「東のエデン」は、テレビシリーズから劇場版2作へと展開された。2012年にはフル3DCGアニメーション「009 RE:CYBORG」を監督、2016年に「CYBORG009 CALL OF JUSTICE」で総監督を務めた。

岩井俊二(イワイシュンジ)

1963年1月24日、宮城県生まれ。横浜国立大学卒業後、ミュージックビデオの仕事を始める。1993年、オムニバスドラマ「ifもしも」の中の1本「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」を監督。1995年に初の長編映画「Love Letter」を手がけ、その後も「スワロウテイル」「リリイ・シュシュのすべて」「花とアリス」など話題作を次々と生み出す。2015年には劇場アニメーション「花とアリス殺人事件」が公開。2016年3月に「リップヴァンウィンクルの花嫁」が封切られ、2017年2月よりショートフィルム「チャンオクの手紙」が配信を開始した。

瀬戸大橋へVR上でトリップし、ハーツに乗って上空へ!?
主人公のココネやモリオの追体験が楽しめるトリップ・スポットを特設。

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