映画ナタリー Power Push - 「秘密 THE TOP SECRET」

神山健治が語る「秘密 THE TOP SECRET」心惹かれる“秘密”という名のジレンマ

「東のエデン」は記憶を消したいという気持ちで描いた

神山健治

──先ほど「記憶に魅入られる」というお話が出ましたが、神山監督の作品において“記憶”は一貫して取り扱うキーワードになっているのでしょうか? “記憶”にまつわるストーリーを手がけることに理由はありますか?

記憶ってどこか懐かしさがあり、さらに個人を規定するうえで絶対必要なものなんだけど、それが武器になる場合と弱さになる場合が必ずある。知らないからこそできることってあるけど、逆に一度知ると尻込みしてしまうこともありますよね? 僕がまだ新人監督だったときは知らないからできたけど、今はもうできなくなったことってたくさんあると思うんです。前へ踏み出そうとするときに記憶が邪魔をする場合もあるから、「記憶を自在に消したりできたら、またあの新鮮な気持ちで臨めるのかな?」って。「東のエデン」なんかはそのような思いがあって、主人公が記憶を無くしているという設定の話を描きました。作品のテーマに“記憶”を絡めるのはそういう気持ちから来ているのかもしれません。

──ここ何年かで、記憶を消したり書き換えたりする実験が海外で成功したという事例も発表されています。将来的にそのような技術が実現可能になったとして、死者の脳をのぞくという捜査方法が用いられることはあると思いますか?

「秘密 THE TOP SECRET」より。

どうでしょうか……。捜査で使用されるかはわかりませんが、実はもう秘密をのぞき見られるということは始まっているんじゃないでしょうか。スマホやパソコンが普及してこれだけメールが飛び交っていれば、きっとのぞこうと思えば全部のデータをのぞけるじゃないですか。みんな薄々気付いているけど、自覚的にのぞかれてるわけじゃないから誰も怒らない。つまり「あなたのスマホのデータをのぞいていますよ」とは言われないだけで、実際に「秘密」で描かれているのと同じようなことが起きているわけですよね。

──確かに直接脳にアクセスしなくても秘密をのぞき見ることが可能な世の中になっていますね……。ちなみに神山監督が脳をのぞいてみたいと思う人はいますか?

特定の誰かの秘密を知りたいとはそんなに思わなくて。それよりこの作品と同じように、未解決事件に惹き付けられるということはありますね。未解決事件ってなんでこんなに人を魅了するのかと思うと、謎が解けないからなんです。だからそこは僕も、もしのぞけるものなら真相を知りたいっていう気持ちはあります。解決しちゃうと大したことなかったっていうことも多々あるんですけど。でも「秘密」に惹かれたのはやっぱりそこなんですよ。誰彼かまわず人の秘密を知りたいということではなく、誰にもわからないことをのぞいてみたい、真相を知りたいということ。連続殺人事件の犯人とかでなくても、例えば恋人にフラれた理由みたいなミニマムなものも含めて、人はわからないと知りたくなる。その究極が死者の記憶ってことなんでしょうね。

「秘密」を監督するなら実写で

──ここまで作品の魅力についてたっぷり語っていただきましたが、原作を読まれたときにご自身でアニメ化したいとは思いませんでしたか?

「秘密 THE TOP SECRET」より。

好きなストーリーだったのでアニメ化したいという思いは当然ありました。ただアニメでやるのは大変そうだなと(笑)。やっぱりアニメ向きのものと実写向きのものって絶対あるんですよ。「秘密」で言えば、もし「監督してください」という話が僕のところに来たら実写で撮りたいと答えたんじゃないですかね。

──それはなぜですか?

想像するに、人の記憶を映像化していくのは絶対に実写のほうが向いていると思ったんですよ。実写とアニメの映像は似ているようで意味性が真逆。アニメって全部が嘘だから、ちょっと本当っぽいことをやればリアルに近付くんだけど、リアルなことをやろうとすればするほどお金がかかるんです。でも人の記憶ってあえて作り込まなくても、時間をかけてカメラを回し続けることで撮れるものがあるんだろうなと思って。

──では作品がアニメより実写向きだと思ったら、いつか実写作品の監督も……。

そういう機会をいただければやると思いますね。

──いつか観られる日を楽しみにしています! 現在制作中の「ひるね姫 ~知らないワタシの物語~」も記憶や夢にまつわるストーリーということですが。

そこは肝になるのであまり言えないんですけど(笑)。実は夢や記憶の中にヒントがあったというお話です。楽しみに待っていていただければ。

神山健治
「秘密 THE TOP SECRET」2016年7月6日全国ロードショー

「秘密 THE TOP SECRET」

ストーリー

被害者の脳に残った記憶を映像化し、迷宮入り事件を解決するMRI捜査。その特殊な捜査方法が導入された警察庁の特別機関・通称「第九」で若くして室長を務める天才・薪剛や新人捜査官の青木一行らは、行方不明の少女の捜索に取り掛かる。単純な捜査かと思われたが、事件は次々と連鎖し、やがて決して触れてはならないとされる日本を震撼させた貝沼事件へとつながっていく。そこには、第九捜査官であり、今は亡き薪の親友・鈴木が命を懸けて守ろうとした“第九最大の秘密”が隠されていた……。

スタッフ

監督:大友啓史
脚本:髙橋泉、大友啓史、イ・ソクジュン、キム・ソンミ
原作:清水玲子
主題歌:SIA「ALIVE」

キャスト

薪剛:生田斗真
青木一行:岡田将生
貝沼清孝:吉川晃司
鈴木克洋:松坂桃李
三好雪子:栗山千明
露口絹子:織田梨沙
斎藤純一郎:リリー・フランキー
露口浩一:椎名桔平
眞鍋駿介:大森南朋
今井孝史:大倉孝二
天地奈々子:木南晴夏
岡部靖文:平山祐介

神山健治(カミヤマケンジ)

1966年3月20日生まれ、埼玉県出身。アニメーション監督。高校卒業後、背景・美術スタッフとしてキャリアをスタート。2002年にテレビシリーズ「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」、2004年に「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」、2007年に「精霊の守り人」を監督。2009年に原作・監督・脚本を兼任したオリジナル作品「東のエデン」は、テレビシリーズ、劇場版2作へと展開した。2012年、フル3DCGアニメーション「009 RE:CYBORG」を発表。現在、2017年公開予定の劇場アニメ「ひるね姫 ~知らないワタシの物語~」を制作中。


2016年8月3日更新