「ベイビー・ドライバー」|エドガー・ライト、カーアクション、音楽──3つのキーワードで徹底解説 赤ペン瀧川の解説動画も

長谷川町蔵が解説! キーワード2:カーアクション

iPodから流れる曲とシンクロしたアクション

「ベイビー・ドライバー」より。 「ベイビー・ドライバー」より。

「映画の冒頭シーンなんて、どうせタイトルバックのあとに展開される大きなストーリーの予告編的なものだろ」

もし君がそう考えているのなら言っておきたい。「ベイビー・ドライバー」は最初からフルスロットル状態だと。冒頭に映るのは、停車した車の中でiPodを聴く童顔の青年だ。一見、どこにでもいそうに見えるけど、その青年“ベイビー”が非凡な才能の主であることがすぐに判明する。なぜなら車が停まっているのは銀行の前で、彼はその銀行を襲撃した3人の男女を乗せると、パトカーを難なく振り切り、無事アジトまで送り届けてしまうのだから。

すごいのは、この一連のシーンのアクションが、彼がiPodで聴いているジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンの1994年の曲「ベルボトムズ」のビートやフレーズと完全にシンクロしていること。しかもこうした演出は映画のラストまで続くのだ! まさにスタイリッシュカーアクションである。

原則ノーCGの“カーチェイス版「ラ・ラ・ランド」”

「ベイビー・ドライバー」より。 「ベイビー・ドライバー」メイキングカット

もちろん音楽に合わせてカーアクションを展開した映画は、これまでにも存在した。でもそれはカーアクションを短いカットに切り刻んだうえで、音楽に合わせて編集することで作られたものだった。

でも「ベイビー・ドライバー」はそうした作品とはまったく違う。カーアクションの多くは長めのショットで構成されている。なのに、その間も動くワイパーは曲のテンポと合っているし、車が激突するのもきっちりビートの拍頭だったりする。

つまり本作は、自動車のアクションのほうを音楽に合わせるという、ミュージカルのような手法でカーアクションを撮影した映画なのだ。しかもカーアクションは原則ノーCG、ロケ撮影だという。気が遠くなりそうな仕事ぶりである。本作が“カーチェイス版「ラ・ラ・ランド」”と評された理由はまさにそこにあるのだ。

エドガー・ライトが影響を受けた元ネタたち

「ベイビー・ドライバー」メイキングカット 「ベイビー・ドライバー」より。

そんな「ベイビー・ドライバー」のアナログな手触りには、1971年の「バニシング・ポイント」や1974年の「ダーティ・メリー、クレイジー・ラリー」といった、CG普及以前のカーアクション映画へのオマージュが濃厚に感じられる。特に後者のピーター・フォンダとスーザン・ジョージは本作のベイビーとデボラを彷彿とさせる。またコメディ要素という意味では1977年にロン・ハワードが監督兼主演を務めた「バニシング IN TURBO」や1980年の「ブルース・ブラザース」からの影響も見逃せないだろう。

そしてあまり有名ではないけど、元ネタとして絶対外せないのが1978年の「ザ・ドライバー」という作品。カーアクションもさることながら、ライアン・オニール扮する主人公が犯罪者を車に乗せて逃亡させるプロで、劇中では“ドライバー”としか呼ばれていないという設定でもう決まりって感じだ。ちなみに同作の監督兼脚本だったウォルター・ヒルは「ベイビー・ドライバー」に看守役で特別出演している。エドガー・ライトのリスペクトの表れだろう。

「ベイビー・ドライバー」
2017年8月19日(土)より全国ロードショー
「ベイビー・ドライバー」

ストーリー

子供の頃の交通事故で両親を亡くし、後遺症の耳鳴りに悩まされ続けている青年・ベイビー。しかし彼は音楽を聴くことで耳鳴りをかき消し、天才的な運転テクニックを覚醒させてイカれたドライバーに変貌する。銀行や現金輸送車を襲う組織で“逃し屋”として仕事をこなしていたベイビーだったが、ある日行きつけのダイナーのウェイトレス・デボラと恋に落ちる。組織に彼女の存在を嗅ぎつけられたベイビーは、危険な仕事から足を洗うことを決意。自ら決めた最後の仕事として、郵便局の襲撃に挑むが……。

スタッフ / キャスト
監督・脚本:エドガー・ライト
キャスト:アンセル・エルゴート、リリー・ジェームズ、ケヴィン・スペイシー、ジェイミー・フォックス、ジョン・ハム、エイザ・ゴンザレス、ジョン・バーンサル、CJ・ジョーンズ、フリー、スカイ・フェレイラ、ラニー・ジューンほか