Amazonビデオ ミニシアター特集|第1弾はアン・リー監督最新作!“おうち映画館”で海外のレア作品をいち早くチェック

Amazonビデオ ミニシアター第1弾作品
「ビリー・リンの永遠の一日」

「ビリー・リンの永遠の一日」

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  • 監督:アン・リー
  • 出演:ジョー・アルウィン、ヴィン・ディーゼル、クリステン・スチュワート、ギャレット・ヘドランド、クリス・タッカー、スティーヴ・マーティン

©2016 Columbia Pictures Industries, Inc., LSC Film Corporation and S8 Billy Lynn, LLC. All Rights Reserved.

「グリーン・デスティニー」「ハルク」「ブロークバック・マウンテン」「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」など、あらゆるジャンルの作品を手がけてきたアン・リーの新作。ベン・ファウンテンのベストセラー小説をもとに、イラク戦争の英雄になった19歳の若き兵士ビリー・リンの葛藤が描かれる。ビリー役には新人俳優のジョー・アルウィンが抜擢された。

繊細なまなざしで描かれる“個人と戦争”のゆがみ

文 / 森直人

「ビリー・リンの永遠の一日」

冒頭シーンは2004年10月23日。イラクの戦場アル・アンカサール運河で「人生最悪の一日」を体験した19歳の兵士ビリー・リン(ジョー・アルウィン)が、地元テキサスの凱旋ツアーで「英雄」として祭り上げられる──。

原作は2012年に全米批評家協会賞を受賞したベン・ファウンテンの同名小説。中東からの帰還兵士に表れるPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状と、戦意昂揚を煽るメディアや大衆の熱狂を対比的に描く内容は、クリント・イーストウッド監督の「父親たちの星条旗」と「アメリカン・スナイパー」を合わせたものと言えばわかりやすいか。監督を務めたアン・リーは、極めて繊細なまなざしで“個人と戦争”のゆがみ、心と現実のギャップを丁寧に見つめていく。

「ビリー・リンの永遠の一日」

この映画で描かれることは、ビリーにとって「汚れた通過儀礼」とでも呼べるかもしれない。素朴で無垢だった男子(劇中で童貞であることが強調されるのは明らかに意図的)が、わずかな間に世界の仕組み(からくり)を知ってしまう。彼は我が身に起こった混沌をそのまま映し出すニュートラルな存在だ。米南部の保守的な家庭に育ちながら、唯一リベラルな反戦意識を持った姉(クリステン・スチュワート)と仲良く通じ合いつつ、一方で「英雄」を崇拝する愛国チアリーダーの女子に恋心を抱く。さらには亡き軍曹(ヴィン・ディーゼル)に教えられたヒンドゥー教の「業(カルマ)」という言葉が忘れられない。

「ビリー・リンの永遠の一日」

そしてビリーは「ブラボー隊」の仲間たちとともに、地元の資本家(スティーヴ・マーティン)が主催するスタジアムでのイベントでデスティニーズ・チャイルド(3人の女優が演じる形で登場)と共演する。ド派手なショーアップの中、彼が想い出すのはイラクの戦場で“本当に自分たちがやったこと”だ。なんたる空疎な茶番。こうしてビリーは「問い」そのものの主人公となる。

最大のキーワードは「物語」だろう。アメリカは「物語」を欲するんだ、そのためにビリーやブラボー隊の英雄的行動が必要なんだ、という“消費の構造”が劇中で何度も示唆される。ブラボー隊には映画化の話まで持ち込まれている。この狂騒を正気に戻すのは、戦争とは人殺しである、というシンプルで残酷な現実認識しかない。

「ビリー・リンの永遠の一日」

アン・リーは平易な語り口を守りつつ、わかりやすい「物語」には還元不可能な精神の複雑さ、理屈では割り切れない「個人」の有機性を大切にしている。これは重要なポイントだ。もちろん事態はイラク戦争だけにとどまらない。我々は世界情勢が緊迫してくると、国家間のパワーゲームという「物語」で戦争を語りがちになる。しかしそれは、完全に本質を取り逃している。本作は「個人」を蹂躙する「物語」という巨大な装置に疑問符を突きつけるのだ。

常に新しいことに挑戦するアン・リーの姿勢

文 / 猿渡由紀

「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」でキャリア2度目のオスカー監督賞を受賞したアン・リーが次に選んだのは、現代のアメリカを19歳の青年の視点から見つめる物語。

「ビリー・リンの永遠の一日」

時代は、2004年。主人公ビリーは、イラクの戦地で、敵と銃撃戦の最中に負傷した仲間を、勇敢にも救った。その映像が母国アメリカで出回り、彼は一躍、ヒーローとして祭り上げられる。注目の人となった彼は、戦友たちとともに一時帰国し、フットボールの試合のハーフタイムショーに出演することに。久々に会った家族は、 誇りを持って彼を迎え入れるが、唯一、姉だけは、戦争に関する皮肉な言葉を発して、家族からひんしゅくを買うのだった。

「ビリー・リンの永遠の一日」

映画は、試合の行われる1日を舞台に、その銃撃戦の日や、軍隊でのトレーニングの様子などを、フラッシュバックで入れつつ展開する。彼らとイラクの人々が日常にさらされている恐ろしい状況と平和ボケしたアメリカの極端な違いが浮き彫りにされる中、映画はまた、兵士たちをプロパガンダに使おうとする人々の思惑や、戦争の本当の目的への疑問、軍隊に志願する若者たちの置かれた状況などをも、さりげなく指摘していく。そのさりげなさはリーが意図したところであろうが、もう少しドラマチックにしてもよかったのではという感じもぬぐえない。

「ビリー・リンの永遠の一日」

「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」同様、今作でもリーは、数多くの無名俳優の中から主演男優を抜擢した。今作で映画デビューを飾ったジョー・アルウィンは、イギリス出身の26歳。完璧なアメリカ英語でセリフをこなしている彼を見て、共演のスティーヴ・マーティンは、長い間彼をアメリカ人だと思い込んでいたそうだ。このあとにも、ヨルゴス・ランティモス監督(「ロブスター」)の「The Favourite(原題)」や、シアーシャ・ローナン、マーゴット・ロビーらと共演する「Mary Queen of Scots(原題)」などが控えており、期待される存在である。

今作は、1秒に120フレームを撮影するという画期的な技術を取り入れたことも話題になった。そのことには賛否両論の意見が聞かれ、実際には、そのバージョンはニューヨークとL.A.の映画館でしか上映されていない。それでも、常に新しいことに挑戦するリーの姿勢は、評価したいところだ。

今後のラインナップ

  • 「ホーンテッド・メモリーズ 戦慄ノ館」
    2017年11月1日(水)~28日(火)独占配信予定

    2016年 アメリカ
    監督:トーマス・デッカー
    出演:ロリー・カルキン、ブリット・ロバートソン

    マコーレー・カルキンの弟、ロリー・カルキンが主演を務めたホラー。父の事故死を機に、家族の秘密が明らかになっていく。

    「ホーンテッド・メモリーズ 戦慄ノ館」
    「ホーンテッド・メモリーズ 戦慄ノ館」
    「ホーンテッド・メモリーズ 戦慄ノ館」
  • 「バンド・エイド」
    2017年11月29日(水)~12月26日(火)独占配信予定

    2017年 アメリカ
    監督:ゾーイ・リスター=ジョーンズ
    出演:ゾーイ・リスター=ジョーンズ、アダム・パリー

    いつも喧嘩してばかりの夫婦がロックバンドを結成し、離婚の危機を乗り越えようとする姿を描いた音楽コメディ。

    「バンド・エイド」
    「バンド・エイド」
    「バンド・エイド」
  • 「Man From Reno(原題)
    2017年12月27日(水)~2018年1月23日(火)独占配信予定

    2014年 アメリカ
    監督:デイヴ・ボイル
    出演:藤谷文子、北村一輝

    サンフランシスコに滞在中の日本人ミステリー作家が、ある日本人男性の失踪事件に巻き込まれる。

    「Man From Reno(原題)」
    「Man From Reno(原題)」
    「Man From Reno(原題)」