映画ナタリー Power Push - 「64-ロクヨン-」

世代を超えた俳優たちの白熱演技バトル

まだまだ共演し足りない(三浦)

──佐藤さんと三浦さんがガッツリ共演されるのはかなり久しぶりだそうですが。

佐藤 三浦さんが出演された相米慎二監督の「台風クラブ」に、どこにいるのかわからないような役で僕が出たり。それから同じ相米監督の「あ、春」のワンシーンで共演させていただいたことはあったんですけど、面と向かってお芝居をさせていただいたのは33年ぶりぐらいですね。

──こうして久しぶりに面と向かって共演された感想は?

左から佐藤浩市、三浦友和。

佐藤 ありがたかったですね。33年経って、こういう形でまた一緒にお仕事ができるというのは。縁がない人は一生縁がないし、そこがこの仕事の不可思議なところです。

三浦 まあでも、今回の共演もまだまだ食い足りなかったよね(笑)。もっと四つに組んでやるような仕事が、この先あったらいいなと思います。

浩市さんという大きな器に潜り込んでやろう(瑛太)

──瑛太さんが演じられた新聞記者・秋川は記者クラブを代表して三上と対立する存在でしたが、演じるうえでは面白い役だったんじゃないでしょうか?

瑛太 そうですね。浩市さんという人の大きな器の中にどんどん潜り込んでやろうという気持ちでやっていました。初日の1シーン目を撮ったときに、秋川として何をやっても浩市さんが受け止めてくれるということを確信したので、正面切ってぶつかれるチャンスだなと思ってやっていました。

──秋川が三上を挑発するようなシーンもありましたね。

瑛太 人と人の間のしかるべき距離感みたいなものを越えていったらどうなるんだろう、ということをずっと考えながら演じていました。そうして対峙しているうちに、ただ熱くあればいいというわけではないことを三上から学ぶこともあって。そういった経験の1つひとつが楽しかったですね。

──佐藤さんはあんなに挑発されて、演技とはいえ頭に来たりしなかったですか?

「64-ロクヨン- 前編」より。

佐藤 瑛太とは久しぶりの共演だったんだけど、彼自身が役を演じるときの葛藤がガーッと目に見えるんですよ。それが面白くて、次はどう来る?とワクワクした。おっ、投げてくるか、紙くず? どうする?って。まあまだまだ僕には彼を受け止める余裕がありましたけどね(笑)。

瑛太 まだまだです(笑)。

──佐藤さんと三浦さんは、綾野さんや榮倉さん、瑛太さんと共演されて何か刺激を受けたりしましたか?

佐藤 僕や三浦さんにはわかることなんだけど、体力は徐々に衰えていくんですね。(少し離れた床を指さし)若いときはあそこまで飛べたのに、その半分しか飛べなくなるみたいな。だから若い人たちが持っている肉体的な瞬発力と柔軟な思考はうらやましいですよ。その反面僕らには、長年培ってきた経験というものがある。若い俳優たちとベテランの自分たちがお互いにうまく反応し合えれば面白い結果が出ることはわかっていました。それは今回の「64-ロクヨン-」をやっているときも実感したし、観てくださる方にも伝わると思います。

三浦 僕は若い人たちとの共演シーンがあまりなかったのでね(笑)。でも皆さん本当に素晴らしいので、何も言うことはないですよ。

まだまだ“足りない”ことの喜び(綾野)

──綾野さんたちは、佐藤さんや三浦さんたちからどんなことを学ばれましたか?

綾野 本当に、自分はまだまだ足りないことだらけだなと。ただ僕にとってはそれ自体が喜びでもあります。30代前半から半ばというのは俳優として一番脂が乗っている時期で、パワーもあると思うんです。でも今回「64-ロクヨン-」の前後編を観終えたときに、浩市さんたちにはまだまだかなわないなと思って。そのことに気付けたこと自体が、役者をやっていくうえでの財産になりました。

榮倉 先輩方に対しては、本当に「カッコいいな」という一言しかないですね。与えられた役に熱意を注ぎまっとうする姿勢から多くのことを学ばせていただきました。さっき少し話に出ましたけど、前編で記者クラブを相手に熱く語る三上の姿は、「64-ロクヨン-」という作品に対峙している浩市さん自身の姿と重なりました。私もこんな器の大きな大人になれるんだろうか、と思いました。

左から榮倉奈々、綾野剛、瑛太。

瑛太 僕は俳優を続けていくということの素晴らしさを、たくさん感じさせてもらいました。どんなことでも、続けていくということは大変ですよね。僕だっていつ仕事がなくなってしまうか、正直わからない。でも浩市さんや友和さんと今回共演させていただいて、大先輩のお二人でもまだ途上にいらっしゃるんだということがわかって。見えない答えみたいなものを探ったり、あるときは何かをぶっ壊したりしながら突き進み続けてらっしゃるんだなということを感じたんです。そんな姿を目の当たりにして、僕も続けられる限り俳優という職業を続けていきたいと思うことができました。

食わず嫌いせず若い人にも観てほしい(佐藤)

──最後に佐藤さんから、これから「64-ロクヨン-」をご覧になる皆さんへのメッセージをお願いします。

佐藤浩市

佐藤 我々の世代は先人の映画を観て「おお!」とか「へえ!」って思ったものだけど、最近の若い人たちは自分が感情移入できそうなものしか観ない傾向にありますよね。でもそれではもったいないし、食わず嫌いにならずにこういった作品に目を向けてほしい。思ってもいなかった“お土産”がもらえると思いますよ。その結果日本映画のジャンルの幅が広がれば、観客の皆さんにとっても作品を選ぶ選択肢が増えますよね。「64-ロクヨン-」がそんなきっかけを作る1本になったらうれしいです。

「64-ロクヨン- 前編」公開中 / 「64-ロクヨン- 後編」2016年6月11日より公開

「64-ロクヨン-」

平成14年12月。県警の警務部秘書課広報室で広報官を務める三上義信は、ある交通事故の加害者の氏名を匿名で発表したため記者クラブからの突き上げに遭っていた。そんなある日、昭和64年に起こった未解決誘拐殺人事件「64(ロクヨン)」担当捜査員を激励するために、警察庁長官が視察に訪れるという通達を受け取る三上。長官の予定に被害者遺族の慰問が含まれていることから、殺された少女の父親・雨宮芳男の了解を取り付けろという命令が下される。かつて刑事部に所属し上司の松岡らとともに捜査に加わった「ロクヨン」発生時以来14年ぶりに被害者宅を訪れた三上だったが、雨宮は長官の慰問を拒否。匿名問題を巡り記者クラブとの緊張が高まる中、三上は雨宮が長官の慰問を拒絶する理由を探るため「ロクヨン」の捜査関係者を訪ねて回るが……。

スタッフ

監督:瀬々敬久
原作:横山秀夫「64(ロクヨン)」(文春文庫刊)
脚本:久松真一、瀬々敬久
主題歌:小田和正「風は止んだ」

キャスト

三上義信:佐藤浩市
諏訪:綾野剛
美雲:榮倉奈々

三上美那子:夏川結衣
目崎正人:緒形直人
日吉浩一郎:窪田正孝
手嶋:坂口健太郎
蔵前:金井勇太
辻内欣司:椎名桔平
赤間:滝藤賢一
荒木田:奥田瑛二
二渡真治:仲村トオル
幸田一樹:吉岡秀隆
秋川:瑛太

雨宮芳男:永瀬正敏
松岡勝俊:三浦友和

1989年の映像を観て当時の空気を感じよう。

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佐藤浩市(サトウコウイチ)

1960年12月10日生まれ、東京都出身。1980年にテレビドラマ「続・続 事件 月の景色」で俳優デビューし、1982年の「青春の門 自立篇」で映画初主演を果たした。1994年には「忠臣蔵外伝 四谷怪談」で第18回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。その後も「ホワイトアウト」「ザ・マジックアワー」「誰も守ってくれない」「起終点駅 ターミナル」などで幅広い役柄を演じてきた。茶人・千利休役を務める「花戦さ」の公開を2017年に控えている。

綾野剛(アヤノゴウ)

1982年1月26日生まれ、岐阜県出身。2003年に俳優デビューし数々の映画やテレビドラマに出演する。2013年に「横道世之介」と「夏の終り」で第37回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。2014年公開の「白ゆき姫殺人事件」「そこのみにて光輝く」で第88回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞に輝いた。2016年6月25日に白石和彌監督作「日本で一番悪い奴ら」、9月17日に李相日監督作「怒り」、秋に「闇金ウシジマくん Part3」「闇金ウシジマくん ザ・ファイナル」の公開を控えている。

榮倉奈々(エイクラナナ)

1988年2月12日生まれ、鹿児島県出身。2004年のテレビドラマ「ジイジ~孫といた夏~」で女優デビュー。その後「メイちゃんの執事」「Nのために」などに出演。現在はTBS系ドラマ「99.9-刑事専門弁護士-」に出演中。近年の主な映画出演作は「余命1ヶ月の花嫁」「アントキノイノチ」「娚の一生」「図書館戦争 THE LAST MISSION」など。

瑛太(エイタ)

1982年12月13日生まれ、東京都出身。2002年の「青い春」でスクリーンデビュー。近年の主な映画出演作は「まほろ駅前多田便利軒」「大鹿村騒動記」「一命」「ワイルド7」「僕達急行 A列車で行こう」「モンスターズクラブ」「まほろ駅前狂騒曲」「殿、利息でござる!」など。

三浦友和(ミウラトモカズ)

1952年1月28日生まれ、山梨県出身。1972年にテレビドラマ「シークレット部隊」で俳優デビューし、1974年の「伊豆の踊子」で映画初出演を果たす。近年の主な映画出演作は「アウトレイジ」「アウトレイジ ビヨンド」「死にゆく妻との旅路」「RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ」など。2016年6月18日より主演作「葛城事件」が公開される。