コミックナタリー PowerPush - ウィングス

老舗少女誌・ウィングスがリニューアル!初登場の売野機子が、新連載に込めた思いとは

シルバニアファミリーで大河ものを構想してた

──マンガやアニメに触れず、青春時代はどう過ごしていたんですか?

中学生のときに、頭がおかしくなっちゃって。

──えっ。

気が狂って、学校を辞めなきゃいけなくなっちゃったんです。映画が好きだったから映画を作りたいと思って、通信制の高校に行きながら映像の専門学校に行って、かなり真面目に授業を受けてました。

──ちなみにどんな映画が好きでしたか。

ガス・ヴァン・サントとか、洋画を。ミニシアターが当時流行ってて、学校が恵比寿で、中学も渋谷だったからたくさん観てましたね。卒業後は映像の制作会社に入ったけど、あまりに忙しすぎて1年で辞めちゃった。

──映画監督とかを目指していたんでしょうか?

監督になりたかったですね。でも人をまとめたり、大きな声を出したりとかできなくて、全然向いてなかった(笑)。

「かんぺきな街」カラーイラスト

──1人ですべてをこなすマンガ家とは、真逆のお仕事ですよね。

でも自分の物語を作りたいっていう部分では、ほとんど同じじゃないですか?

──なるほど。売野さんの中では、物語って自然に湧き出てくるものですか。

はい、降りてくるものですね。小さい頃からそうで、シルバニアファミリーのお人形で大河ものを構想したりしてました。何世代にもわたって生き別れたりする、壮大な物語を。

──ウサギ家とクマ家の壮絶な争い、みたいな(笑)。

そうそう(笑)。でも人形がひと家族分とお家しかなくて。四角い積み木までキャラクターに見立てて、毎日長い長いストーリーを練ってました。ひとりっ子だったので、ひたすら黙々と。あとはMacの「キッドピクス」ってお絵描きソフトで映画の予告編を作ったり、架空のパーティの招待状を作ったり。

──小さい頃から、自分の脳内にあるものを積極的に形にしてきたんですね。

ウィングスは「自由にやらせてくれる雑誌」

──これまで楽園、(月刊コミック)@バンチ(新潮社)、フィール・ヤング(祥伝社)、BE・LOVE(講談社)と多様な雑誌で活躍してきましたが、それも売野さんが幅広くマンガを読んできたからこそなのかもしれないと思いました。今はオファーがあれば、媒体は選ばず描くスタンスですか?

基本的にはそうですね。雑誌のターゲット層が見えない場合は断ったこともありますけど。

──雑誌の想定読者に合わせて描いている?

「MAMA」1巻

ある程度は。絵柄は意識はしてないですけど、周りから「(媒体に合わせて)変えてるよね」とは言われますね。できるだけ前の作品を反省してるんです。「今回顎が長かったね」って突っ込まれれば、短くしたり。あと掲載誌を見て「私だけどうしてこんなに線が太いんだ……」って恥ずかしくなって細くしたりとか、そういうことはします。加えて編集さんから「この要素を入れてほしい」っていうリクエストはどうしても出てきますしね。「MAMA」のときは、背景はアシスタントに任せなさいって言われて、初めてしっかりアシさんを入れてやるようになりました。

──編集さんからビシバシ指摘を受けながら描いていくほうが向いている人と、自分の好きに描くほうが好きな人といると思うんですが、売野さんはどちらかというと……。

結局どっちもストレスなんですよね。自由にさせてもらうのも不安だし、細かく言われるのも不安……っていうか怒っちゃうし(笑)。ちょうどいい編集さんとの関係性は、まだ模索中です。

──今回ウィングスに執筆するのは、どういった経緯で?

他誌での連載の話が1つ棚上げになった日に、ちょうどメールをいただいたんです。「来年予定してる連載まで、単行本1冊くらいの仕事しておかないと生きていけないから何かやらなきゃ」と思ってたときだったので、描かせていただこうと。って、身も蓋もなくてすみません……(横を見やる)。

獣木野生「パーム」は最終章「TASK」が連載中。

担当編集 いえ、大丈夫です(笑)。

──ウィングスは読んでいましたか?

ごめんなさい。雑誌は……。でも単行本ではたくさん読んでました。よしなが(ふみ)先生とか、西(炯子)先生とか。あともちろん「少年魔法士」「パーム」も好きでした。

──長期連載が多い雑誌ですよね。

はい。案外ファンタジー一色でもないし、意外とギャグ層が厚かったり。「パーム」は本誌のサイズで見ると、よりいいなあと思いました。デジタルであのペンタッチが出せるって、本当にすごい。獣木(野生)先生は時代がどうこうじゃなくて、ご自分の描きたいビジョンをちゃんと具現化していらっしゃるなあと。

──のびのび描かれている。

うんうん。「ウィングスさんは自由にやらせてくれる雑誌だ」と勝手に思ったので、今回は私も自分らしく描こうっていうところに立ち返ってます。一番自分が描きやすい絵、ペンタッチで描こうと。

「ウィングス」6月号/ 2015年4月28日発売 / 724円 / 新書館
ラインナップ
  • 売野機子「かんぺきな街」
  • 尚月地「艶漢」
  • 私屋カヲル「猫とごはんと装丁家」
  • 松本花(原案:毛利亘宏[劇団「少年社中」]、原作:井原西鶴)「贋作・好色一代男」
  • チノク「一炊の三馬鹿」 
  • 荒川弘「百姓貴族」
  • 篠原烏童「ファサード カリカチュア」
  • 碧也ぴんく「天下一!! 番外篇・君と我とは」
  • なるしまゆり「少年魔法士」
  • 草間さかえ「魔法のつかいかた」
  • りさり「子はかすがい」
  • 獸木野生「〈PALMシリーズ〉TASK」
  • 箱知子「ブレーメンの音楽隊」
  • 池田乾「戦う! セバスチャン♯」
  • 池田乾「少年セバスチャンの執事修行」
  • 金色スイス「佐藤君の柔軟生活」
  • 御手洗直子「31歳ゲームプログラマーが婚活するとこうなる」
  • 街子マドカ「かわうそは僕の嫁」
  • カラスヤサトシ「VS孫子」
  • ミキマキ「少年よ耽美を描け」
  • 花園あずき(原案・キャラクターデザイン:ぼへ 協力:CROWN WORKS)「魔法☆中年 おじまじょ5」
  • 堀江蟹子「ご先祖様とアタシ」
  • 西谷ミツマル「ド真ん中ストレート!」
  • 菅野彰 (カット:南野ましろ)「帰ってきた海馬が耳から駆けてゆく」
特別付録

尚月地「艶漢」描き下ろしタトゥーシール

売野機子(ウリノキコ)
売野機子

1985年9月9日生まれ。O型乙女座。2009年に楽園 Le Paradis [ル パラディ](白泉社)に掲載された「薔薇だって書けるよ」でデビューを果たす。楽園 Le Paradis [ル パラディ](白泉社)、フィール・ヤング(祥伝社)、BE・LOVE(講談社)などさまざまな雑誌で執筆し、現在は月刊コミック@バンチ(新潮社)にて「MAMA」を連載中。「かんぺきな街」でウィングス(新書館)初登場。ほか著作に「薔薇だって書けるよー売野機子作品集ー」「同窓生代行ー売野機子作品集2ー」「しあわせになりたいー売野機子作品集3ー」「ロンリープラネット」など。