「月が導く異世界道中」あずみ圭(原作者)×伏瀬(「転生したらスライムだった件」原作者)|同世代の2人が初対談、それぞれの創作のルーツやあえて“古さ”を取り入れた「ツキミチ」の裏側に迫る

放送中のTVアニメ「月が導く異世界道中」は、勇者として異世界に召喚された男子高校生・深澄真が、女神に「顔が不細工」と罵られた挙句に勇者の称号を剥奪され、最果ての荒野に飛ばされてしまうことから始まる“異世界世直しファンタジー”。あずみ圭による原作小説が第16巻、コミカライズ版が第9巻までアルファポリスより刊行されており、シリーズ累計発行部数は200万部を突破している。

コミックナタリーではあずみと、第2期が放送中のアニメ「転生したらスライムだった件」原作者・伏瀬の対談を実施。ほとんど同時期にWeb小説の投稿をはじめ、ともに異世界転生ものを代表作とする2人に、創作活動や自作のこと、アニメ「月が導く異世界道中」の魅力についてトークしてもらった。真を不細工扱いされるキャラクターに設定した理由、亜空の元ネタ、時代劇の要素を取り入れた意図など、あずみによって次から次へと明かされた設定裏話は必見だ。

取材・文 / 齋藤高廣

アニメ「月が導く異世界道中」キービジュアル

月が導く異世界道中

ある事情から勇者として異世界に召喚された男子高校生の深澄真は、その世界の女神に「顔が不細工」と罵られた挙句に、勇者の称号を剥奪され、最果ての荒野に飛ばされてしまう。そこで真が出会ったのは、竜や蜘蛛、オークやドワーフといった人ならざる種族。真は彼ら人外の種族たちを仲間に、そして常識外の魔術と戦闘力を武器に、この世界を生きていくことになるのだが……。真役を花江夏樹、ヒロインである巴役を佐倉綾音、澪役を鬼頭明里が務め、ほかのキャストも豪華な顔ぶれが揃っている。

不細工として扱われる真と美形のリムル、設定のルーツは

──まずはおふたりに、それぞれの創作活動についてお聞きしたいと思います。創作をはじめたきっかけや経緯を教えていただけますか。

あずみ圭 創作活動を始めたきっかけは小説投稿サイトである小説家になろうの存在を知ったことですね。その当時、同サイトで全盛期だった異世界ものを読んでいて「5000文字ぐらいで少しずつ投稿できるみたいだし、それなら自分も作品を書いてみようかな」と思って。それまでは“読み専”でした。

──伏瀬先生は2013年に小説家になろうで投稿を始めた「転生したらスライムだった件」がデビュー作ですが、以前にも作品を書いていたことはあったのでしょうか。

伏瀬 僕は大学時代に一度、応募用の作品を完成手前まで書いていたんですが、就職と重なり原稿は完成せずお蔵入りになったんです。その後就職したりでいろいろあったんですが、暇な時間ができるようになって、そのタイミングで小説家になろうの存在を知ったんですよね。それで2012年はずっと小説家になろうに投稿された作品を読んで過ごしましたが、2013年になってようやく、自分の作品を投稿してみようと思った流れですね。

あずみ 僕が投稿を始めたのは2012年なので、同じような時期ですね。

──「月が導く異世界道中」も「転スラ」も長いシリーズですが、創作のモチベーションはどのように維持しているのでしょうか。

あずみ 書き始めた当初は読者から好意的な評価や「続きを待っています」というコメントに乗せられてやる気を出していました(笑)。そのあとはもともと「月が導く異世界道中」が習作のつもりだったこともあり、書きたい展開や状況を実際に書いて試してみたい、という気持ちもモチベーションになっていましたね。「こういうの書いてみたい、書いちゃえ」みたいな。

伏瀬 同じです。僕も「転スラ」は練習のつもりで書き始めたんで、好き放題にいろいろと試せるのがよかった。

──「転スラ」「月が導く異世界道中」を書くうえで、それぞれ影響を受けた作品はありましたか?

TVアニメ「月が導く異世界道中」より。

伏瀬 明確にこれという作品はないですが、突き詰めれば「このシーンはあの作品の影響を受けているよね」と言えるシーンはけっこうあると思う。「ドラゴンボール」を筆頭とするジャンプ作品、あとは永野護先生の「ファイブスター物語」とか丸山くがね先生の「オーバーロード」の影響も大ですね。当然、ほかにも思い出せないほど多くの作品から影響を受けています。

あずみ 僕もそんな感じですね。2012年、2013年の小説家になろうでは今の異世界ものの雛型みたいな作品がたくさん掲載されていて、「異世界迷宮でハーレムを」「理想のヒモ生活」などほかの投稿作品を読みながら「異世界ものってこういうものかな」といいとこどりをして書いていました。僕が投稿を始めた頃は「アルカナ・オンライン」をはじめとしたデスゲームものやVRMMORPGものも流行っていましたから、その影響も受けています。ほかにも金属製の糸を使って戦うキャラクターが活躍する作品を読んで「カッコいいな」と思ったり。

伏瀬 金属製の糸を使って戦うといえば、僕は菊地秀行先生の「魔界都市ブルース」(※)にも影響を受けていますね。菊地先生の作品を読んで育ったので「主人公は美形」という考え方が土台にあるんです。

※菊地秀行の小説「魔界都市ブルース」は、謎の地震である“魔震”によって妖獣や異能の犯罪者が巣食う“魔界都市”へと変貌した新宿を舞台に、せんべい店を営むかたわら人捜し屋としても働く美青年・秋せつらの活躍を描くシリーズ作品。せつらは“妖糸”と呼ばれるチタン合金製の糸を使って戦う。

あずみ 確かに菊地先生の作品は、天野喜孝先生が描きそうな中性的な美形が多いですよね。

伏瀬 そうそう、あずみ先生にお聞きしたかったんですが、「月が導く異世界道中」で異世界に転移した主人公が不細工として扱われる設定にしたのはなぜなんですか?

TVアニメ「月が導く異世界道中」より、深澄真(CV:花江夏樹)。

あずみ 僕が「月が導く異世界道中」を書こうと思った頃はVRMMORPGものなど未来的な題材を扱ったWeb小説が多かったので、逆にあえて“古さ”を取り入れようと思って、僕が学生の頃に読んでいた小説やマンガの雰囲気が感じられるものを書こうと考えたんです。それで椎名高志先生の「GS美神 極楽大作戦!!」のように、ギャグとシリアスを織り混ぜつつ、横島のような美形ではないキャラクターを活躍させたいと思ったのがきっかけでした。

伏瀬 そういうことだったんですね。

あずみ あとRPGの登場キャラクターはサブキャラクターに至るまで誰も彼も美形ということが多いと思うんですが「そんなRPG世界のようなところに転移するんだったら、主人公の容姿は相対的に不細工に見られるだろう」という考えもありました。「きれいな人たちに囲まれることで、普通の人が不細工として扱われて理不尽さを感じる」という展開を書きたくて。

──先ほど伏瀬先生は「『主人公は美形』という考えが土台にある」とおっしゃっていましたが、とはいえ「転スラ」の主人公であるリムルは当初スライムの姿ですよね。シズさんを取り込んで、美形の人間の姿になるところまで想定して書いていたのでしょうか。

伏瀬 最初からリムルを美形にする予定はありましたが、その段階では具体的にどうやって美形にするかということは考えていませんでした。作品を書き進めるうちに、リムルを美少女の見た目にするための舞台装置として、シズさんというキャラクターを思いついたんです。当初は「リムルが老婆を取り込んだら、彼女の若い頃の姿になった」という展開が書きたかったので、Web版のシズさんは登場する時点で老婆でしたし、火傷の痕ももっと生々しいものにするつもりでした。

──どのような経緯があって、現在の設定に落ち着いたのでしょうか。

伏瀬 書籍化の際に担当編集の意見で、最初から若い姿で登場させることにしたんです。その後、コミカライズを担当している川上(泰樹)先生が描いたシズさんを見て、「担当編集の意見を聞いてよかった」と思いました(笑)。そうした変更を反映させて、書籍版の4巻以降からようやくシズさんと向き合った形です。シズさんはまさに、僕の手を離れて育ってくれたキャラの代表ですね。そんなシズさんの外見だけでなく意思まで受け継いだからこそ、リムルもよりよいキャラになったのだろうと思っています(笑)。

最初に生まれたキャラクターは巴

──おふたりの作品には「魔物のコミュニティを物語の軸に据えている」という共通点があるかと思うのですが、異世界ものの中でもこのような作品は少ないですよね。おふたりはどうして魔物のコミュニティを描こうと思ったのでしょうか。

TVアニメ「月が導く異世界道中」より。

伏瀬 僕のほうは「流れ」ですね(笑)。「転スラ」を始めるときに「とりあえず主人公はスライムがいいかな」「きっと討伐しようと襲ってくる奴がいるから、そいつを仲間にしよう」「ゴブリンたちは登場させるとして、部下にして従えたらいいかなあ」という感じで発想して、主人公とその仲間や部下を合わせて、だいたい100人規模の集落を作らせようと考えていったんです。国の規模になるのは想定外でした。あと、人間ではなく魔物のコミュニティにした理由は「人間たちのコミュニティだったらこんなにうまくまとまっていくはずないんだよな」という考え方からですね。「弱肉強食」という魔物の理があるからこそ成り立っているところはあって、人間の場合は裏表があってもっとややこしいですからね。

あずみ 確かにそうかもしれないですね。僕の場合は悪魔を召喚して戦う某RPGをヒントにしました。このゲームに登場する悪魔たちは普段は異空間にいて、戦闘のたびに主人公たちの世界に呼び出されます。この設定について考えていたときに、ふと「異空間にいるときの悪魔たちはどうしているんだろう。会話していたりコミュニティを作っていたりしたら面白いな」と思って。そこから「主人公が最初に出会うドラゴンに、魔物を別の空間に入れておける能力を持たせよう」と考えた結果、亜空が生まれました。

伏瀬 普段は魔物たちを亜空で生活させておいて、主人公が困ったら呼び出すような形にしようと。

あずみ そうです、そうです。

──それに加えて「一方その頃……」的なエピソードを描きたかったということですね。

あずみ そうなんです。

──あずみ先生にはこれまで真や亜空の設定裏話について語っていただきましたが、そもそも「月が導く異世界道中」を書き始める決め手になったアイデアはなんだったのでしょうか。

あずみ 先ほども言ったように、「月が導く異世界道中」の構想は“古さ”を取り入れようという発想から膨らませていったのですが、その過程で「俺は時代劇が好きだな、時代劇が好きなキャラを作ろう」と閃いたんです。でも時代劇鑑賞を高校生のような若者の趣味にするのは少し無理があるので、異世界のヒロインに興味を持たせてみればいいんじゃないかと考えて巴の設定が生まれた。そのときに「あ、このヒロインを出せば話が書けそうだ」と思いました。

──ということは、キャラクター設定が最初に固まったのは巴だった?

あずみ そうです。巴が最初に浮かんで、次に主人公の真。そこまで考えたときに「最近のWeb小説にはヒロインがいっぱいいるな、もうちょっと増やすか」と思って(笑)。「シンプルに巴と正反対のキャラにしよう」という発想から澪が生まれました。巴のように真を試したり、自分で勝手に動いたりするのではなく、真に従うタイプを考えたんです。

──なるほど、巴は真の話を聞かないで暴走するキャラで、澪は……。

あずみ 愛で暴走するタイプ(笑)。

──両方とも暴走路線ではあるんですね(笑)。

あずみ はい。暴走の方向が変わる感じです(笑)。

──ちなみに時代劇が好きだとおっしゃっていましたが、その理由や時代劇の魅力を教えていただいてもよろしいですか。

あずみ 好きな理由は、もともと歴史を学ぶことが好きだからですね。あとは子供の頃、年末にTVドラマの「赤穂浪士」をよく観ていたんですが、実家が愛知なので吉良家と縁があって、身近に感じていました。時代劇の魅力は勧善懲悪の要素があるところでしょうか。「水戸黄門」をはじめ勧善懲悪の物語はみんな好きですよね。あれだけ昭和を通して多くの人に愛された構図がウケないはずがないので、「月が導く異世界道中」を書くときにもいろんなところに勧善懲悪を取り入れてみたいなと思っています。

伏瀬 そういえば「水戸黄門」には黄門様が印籠を取り出して正体を明かし、助さんと格さんが悪役を成敗するお決まりの展開がありますが、「転スラ」のストーリーもよくネットで「これは『水戸黄門』の構図だよな」と言われています。「水戸黄門」の印籠のシーンは毎回同じことをやっているのに、それでも長らく支持されているから、ウケる要素が盛り込まれているんだろうなと思いますね。


2021年9月1日更新