「吸血鬼すぐ死ぬ」盆ノ木至が、師匠である「モブサイコ100」のONEと対談!ONEによる描き下ろしイラストも

週刊少年チャンピオン(秋田書店)で連載中の「吸血鬼すぐ死ぬ」は、吸血鬼ハンターのロナルドと、彼とコンビを組むことになった吸血鬼・ドラルクを中心にしたギャグマンガ。単行本は現在18巻まで発売中で、10月からはアニメも放送されている。

そんな「吸血鬼すぐ死ぬ」の作者・盆ノ木至は、かつて「モブサイコ100」「ワンパンマン」で知られるONEのアシスタントを務めていたという。コミックナタリーではこの2人の師弟対談を実施。「今の僕があるのは師匠のおかげ」という盆ノ木、「何も教えていない」というONEのやり取りを楽しんでほしい。ONEには「吸血鬼すぐ死ぬ」のキャラを描き下ろしてもらったので、そちらも注目だ。

取材・文 / 松本真一

「吸血鬼すぐ死ぬ」とは?

「吸血鬼すぐ死ぬ」1巻

「吸血鬼すぐ死ぬ」1巻

吸血鬼ハンター・ロナルドは、ある城で“真祖にして無敵”と恐れられていた吸血鬼・ドラルクと出会う。しかしドラルクは、ちょっとしたダメージですぐ死んで砂になるザコ吸血鬼だった。城が崩壊したドラルクは、なりゆきでロナルドの事務所に住み着いてコンビを結成。新横浜にある事務所を訪れる依頼人、街をうろつく吸血鬼、彼らと戦うハンター……次々に登場するクセの強いキャラクターたちが巻き起こす事件を描いた、ハイテンションなギャグマンガだ。

盆ノ木至×ONE対談

マンガを描いてる人間で、ONE先生のファンにならない人っていますか!?(盆ノ木)

盆ノ木至 そもそも僕はこういうインタビュー自体が初めてで、しかも相手が師匠なので緊張しますね……。ONE先生、ご無沙汰しております。

ONE はい、今日はよろしくお願いいたします。直接はしばらく会えてないですね。

──この対談は盆ノ木先生からの、「師匠であるONE先生と、ぜひ」というご指名でした。

ONE 全然、師匠感はないんですけどね。

盆ノ木至がアシスタントをしていた「モブサイコ100」。単行本は全16巻で発売中。©ONE/小学館

盆ノ木至がアシスタントをしていた「モブサイコ100」。単行本は全16巻で発売中。©ONE/小学館

──「モブサイコ100」の頃に盆ノ木さんがアシスタントをされていたそうですね。主戦場にしている出版社は違いますが、そもそもどういったきっかけでアシスタントに?

盆ノ木 僕は最初、週刊少年チャンピオン(秋田書店)の新人まんが賞に応募した「吸血鬼すぐ死ぬ」が佳作をいただいて、それが読み切りで掲載されたんですが、セカンドデビューができなくて苦しんでいたんです。マンガを全然描けないその状態のときに、たまたまONE先生が「モブサイコ100」のアシスタントを募集されてまして。そのときから大ファンだったので、ダメ元というか、矢も盾もたまらず「応募だけでも」という感じで原稿を送りました。そのあと、ちょうどファミレスで親から「あんた、進路どうすんの?」って怒られてたときに急に携帯が鳴って、出たら「もしもし、ONEですけど……」って。

──すごいタイミング。そんな運命の分かれ道があったんですね。

盆ノ木 自分では採用していただけると思ってなかったんで、「えっ!」ってファミレスで叫んで「ちょっと外でしゃべってくるから!」って親に言って電話しましたね。それが最初です。

──なるほど。ONEさんのことはアシスタントをする前から普通にお好きだったと。

盆ノ木 いやー、だって……マンガを描いてる人間で、ONE先生のファンにならない人っていますか!?

ONE いやいや、言い過ぎです(笑)。

盆ノ木 「ワンパンマン」も「モブサイコ100」も夜中までかじりついて読んでましたから。そこからまさか、アシスタントにしていただけるとは……。

──いきなり好きな作家のアシスタントってなかなかないですよね。

盆ノ木 本当に驚天動地というか……。

小学生時代は、ずっと正座してノートに落書きしていた(ONE)

──そういえば「モブサイコ100」を読み返していたら、9巻で霊幻が記者会見したあと、テレビに「しばらくお待ち下さい」って表示されるシーンがありますよね。そこにアルマジロが描かれてたんですが、もしかしてこれはアシスタント時代の盆ノ木さんの絵ですか?

盆ノ木 はい。「好きな動物描いていいよ」って言われたんですよ。

「モブサイコ100」より。テレビ画面の中にアルマジロを見ることができる。©ONE/小学館

「モブサイコ100」より。テレビ画面の中にアルマジロを見ることができる。©ONE/小学館

──「吸血鬼すぐ死ぬ」はアルマジロのジョンというキャラが人気ですが、読み切り版にはいませんでした。普通にアルマジロがお好きなんですね。

盆ノ木 そうなんです。それにしても僕は当時、コミスタ(ComicStudio)の経験が浅かったのに、先生は本当によくしてくださって。

ONE いえいえ。送っていただいた原稿を見て「プロみたいな人から応募が来たな」と思いましたよ。当時からずっとリモート作業だったんですよね。Skypeで「ここに背景を」「ここにモブキャラを」とか指示する感じの。

──それなら雑談はあまりしてないですか?

盆ノ木 たまーにですね。お話ししていただける機会があったら「やっほーい!」って感じで僕ばっかり質問しちゃってました。絶対教えてもらえないだろうと思いつつ「『モブサイコ』って今後どうなるんですか」って聞いたら「ああ、今後はですね……」ってあっさり教えてくれて「先生ーー!」ってなったことも(笑)。あと覚えてるのはONE先生が「宇宙があってよかったな」って言ってたことです。

──宇宙があってよかった……?

盆ノ木 地球はもう、いろんなところに先に行かれてるじゃないですか。マンガにもいろんな場所が描かれてるし。だから「もし宇宙がなかったら、攻略し終わったあとのドラクエやるみたいなもんだから、宇宙があってよかった」という話をされていて。「この人のスケール、宇宙だ!」と。

ONE あはははは。

盆ノ木 ほかに覚えてるのは、僕が(セカンド)デビュー前にドン詰まっていたので、「ONE先生ってデビューするまでにどれぐらいマンガ描いてるんですか?」と伺ったんですよ。そしたら「大学ノート50冊ぐらいかなあ」って言われて。ノートって1冊100枚あって、表と裏があるから、1冊200ページですよね。だから50冊だと1万ページあるんですよ。「盆ノ木さんもノートに落書きしたことあるでしょ、それと一緒だよ」っておっしゃったんですけど、一緒なわけないじゃないですか!

ONE 僕のは一応コマ割りしてマンガ形式ではあるものの、本当に落書きでしたよ。小学生のときに畳の部屋で正座して、ずっとノートに描いてたんです。気が付いたら外が暗くなってるみたいな。誰に見せるためのものではなく、やることないからやってたみたいな感じなんですけどね。

盆ノ木 その話を聞いたときは、自分の尊敬する人が、絶対に追いつけない場所にいるのがうれしくて。僕は今「吸血鬼すぐ死ぬ」を265話ぐらいまで描いてるんですけど、まだONE先生がデビュー前に描いた1万ページすら全然追いついてないんです。

ONE いえいえ、完成原稿を仕上げた数なら超えられてますよ。

──盆ノ木さんのアシスタント時代、ONEさんからは何かアドバイスはされましたか?

ONE いや、もう完成されてましたからね。だから僕から言うことはなくて、最初から細かい指示はしなくてもいい感じに背景とかを描いてくれたから、頼るだけでした。「吸血鬼すぐ死ぬ」を連載する前の短期集中連載「マリリーン大魔法研究所」も読んだんですけど、キャラクターもギャグも、最初から自分で答えを持ってたと思います。あとはそれをいつ公開するかだけ、みたいな。だから「体に気をつけましょうね」とかそういう話しかしていない(笑)。

盆ノ木 先生は「何も教えてない」っておっしゃいますけど、コミスタの使い方も教わりましたし、「完成原稿に仕上げるためには、アシスタントさんにどういう指示をすればいいのか」という知識は、すべてONE先生からいただいたものです。

──もっと具体的なマンガのスキルに関しては、ONEさんは何も教えてないと言ってますが、いかがですか?

ONE 何か教えたかなあ……。

盆ノ木 教わったと言うよりは、僕が必死に先生のマネをしようとした部分はありますね。例えば画面の作り方は、ONE先生は本当に構図の魔術師というか。情報が多いのに読みやすいし、すべてがちゃんと、スッと頭に入ってくる。あとは「キャラクターがこの位置とこの位置にいて、こう戦うからこっちに移動して……」みたいなカメラワークがめちゃくちゃわかりやすい。そういうのを少しでも盗めたらと思って、何度も模写しましたね。ストーリー作りにしても、口で言うと陳腐になっちゃうんですけど、緩急があって、めちゃくちゃつらい展開が来たあとに、ワッとカタルシスが来るとか。1万分の1も勉強できてないですが……。

ONE ありがとうございます。

「モブサイコ100」より。©ONE/小学館

「モブサイコ100」より。©ONE/小学館

──「吸血鬼すぐ死ぬ」でもたまにバトルシーンがありますけど、ONE先生のエッセンスがあるわけですね。

盆ノ木 そういうふうに言うと、明らかにONE先生に失礼になっちゃうので……。

ONE そんなことないですよ(笑)。

「吸血鬼すぐ死ぬ」より。

「吸血鬼すぐ死ぬ」より。

盆ノ木 僕の作品はつま先から頭までONE先生にめちゃくちゃ影響を受けてるんですよ。先生のアシスタントをさせていただかなかったら、「吸血鬼すぐ死ぬ」はあの形にならなかったというか。ロナルド吸血鬼退治事務所って完全に「モブサイコ100」の霊とか相談所だし……。

ONE いやいや、ああやって事務所があって、そこに依頼人が来るって、ある種のお話のセオリーでしょう(笑)。

「モブサイコ100」は霊幻の営む霊とか相談所、「吸血鬼すぐ死ぬ」はロナルド吸血鬼退治事務所に、それぞれ悩みを抱えたキャラクターが訪れることが物語の起点になることが多い。©ONE/小学館

「モブサイコ100」は霊幻の営む霊とか相談所、「吸血鬼すぐ死ぬ」はロナルド吸血鬼退治事務所に、それぞれ悩みを抱えたキャラクターが訪れることが物語の起点になることが多い。©ONE/小学館

盆ノ木 ハンターたちが街でわちゃわちゃやってるっていうのも完全に「ワンパンマン」だし。「オマージュ」とか「影響受けてる」とかじゃ済まされないですよね、本当にすみません……。

ONE 全然そんなことないです(笑)。