コミックナタリー Power Push - はっとりみつる×西尾維新「少女不十分」特集

プロになれる人となれない人の差はどこなのか? はっとりみつるが贈る“クリエイター志望者のための物語”

作業が楽しいから寝るのがもったいない

──作画する上で苦労している点はありますか?

はっとり それが、苦労ってあまりないんですよね。作画と演出に専念して職人に徹することが面白くて。特に連載を始めた初期は、作業が楽しいから寝るのがもったいないくらいで。文字通り「寝食を惜しむ」という感覚を久々に味わいました。

──そんなに!

はっとり やってることは地味なんですけど。きっと向いてるんでしょうね。

──見せ方でどんな点を工夫していますか?

「少女不十分」第1話より。

はっとり 原作の本筋やセリフ回しは変えずに、トラックに轢かれるシーンを冒頭に持ってきたり、構成や順番は考えました。あと、監禁されて物置の中に入ってからは、主人公の視点は基本的に真っ暗な物置の中か、隙間からちょっと見えている外だけなんですよね。

──そういった動きや展開の少なさが、コミカライズしにくいと思われる理由のひとつですよね。

はっとり それではさすがに絵的にもたないので、原作にはなかった少女Uからの視点や、2人が背中合わせになっているイメージシーンなどを入れたり。こういうのは小説ではできない表現ですから。

──これから先、少女Uの小学校での様子を描いたオリジナルのエピソードも登場しますよね(2巻収録予定)。

はっとり ええ、それはぜひやりたくて、西尾さんに送った最初の企画書の段階から提案していました。原作にないオリジナル要素を入れて批判されるのって、もともとのキャラクターの関係性を壊してしまったときだと思うんですよ。AとBという関係性に、Cというオリジナルキャラが現れて2人の関係性を変えてしまったらダメ。だから、AとBの関係性を別アングルで補完するようなオリジナル要素なら、受け入れてもらえるだろうと思ってます。

「少女不十分」第1話より。

──そういえば、「さんかれあ」の頃と比べると、作画のタッチが変わったように思うのですが……。

はっとり はい、それは意図的に変えていますね。最初の企画書にも、「トーン処理を抑え、白黒と罫線をメインにし、コントラスト高めで主線が白飛びするような、実写風の画面作り」と書いていました。

──なるほど、最初から狙って変えていたんですね。

はっとり たとえば、首の下の影をトーンではなく縦線で処理する描き方とかは、「イヌっネコっジャンプ!」の頃のやり方なんですよ。原作の時代設定が2000年代初頭なので、絵柄もその頃に戻そうと思って。1話目のペン入れした原稿を見せたら、担当編集さんに「絵がシブい」って言われましたけど(笑)。

──確かに、トーンがほとんど使われていないんですね。

少女Uのくちびるにはトーンが使われている。

はっとり いわゆる普通のアミトーンは、少女Uのくちびるぐらいにしか使ってないんじゃないかな。光の表現も、「さんかれあ」のときはエアブラシ的なデジタル処理でピカーッとさせてたんですけど、今回はすべて手描きで同じことを表現していて。機材は液晶タブレットとクリップスタジオを使ってますが、やってることは紙の原稿と同じ描き方です。

──それって、だいぶ手間がかかるのでは……?

はっとり そうですね、アシスタントへの指示の出し方が難しいので、最初の頃は背景もだいぶ自分で描いていました。でも、そのおかげで作業への没入度が高まったというか。なんだかんだ自分で全部描きたいタイプなんで、背景を描くのも好きなんですよ。自分が気に入るキャラクターを描いてくれる人がいたら、自分は背景に回りたいとすら思います(笑)。

──そんなに背景描くのがお好きなんですか(笑)。

はっとり 「さんかれあ」がアニメ化されたときも、背景美術の手伝いに行きたいってずっと言ってましたから。まあ、実際に行っても迷惑をかけちゃうだけでしょうけど。アニメの背景美術集とかもあると買っちゃうし、「背景萌え」なのかも。

いい意味で僕の偏見が混ざったほうが面白い

──はっとりさんは、西尾さんと交流があるんですか?

はっとりみつる

はっとり これは言っていいのかな……実は僕、西尾さんとはまだ一度も直接お会いしたことがないんです。

──そうなんですね。

はっとり 原作は、主人公の「僕」が西尾さんのことなのか、虚実があいまいなところが肝ですよね。だからコミカライズも、いい意味で僕の偏見が混ざったほうが面白いと思って。西尾さんの全作品を読んだり、インタビューを読んだりは、あえてしていないんです。

──なるほど。では、最後に読者の方にメッセージをお願いします!

はっとり 原作の愛読者も、雑誌連載で読んでくれていた方も、単行本で読むとまた印象ががらっと変わると思います。最近流行りのパニックものやデスゲーム系のマンガと比べると、「少女不十分」は本当にゆっくりじわじわと展開していくタイプの作品ですが、そこに新しい面白さを発見してもらえるとうれしいですね。

原作:西尾維新 マンガ:はっとりみつる「少女不十分①」 / 2016年5月6日発売 / 講談社
「少女不十分①」表紙
610円
Kindle版 / 540円

作家志望の大学生だった僕が通学中に見た衝撃の光景。それは交通事故の瞬間だった。トラックに轢かれた小学生。だが本当の衝撃はその後だった。一緒にいたもう1人の少女は、ゲームをセーブしてランドセルにしまい、それから友達の死体に駆け寄ったのだ。何かがおかしい……!! これが僕とUという少女の不十分な無関係の始まりだった。

はっとりみつる

三重県出身。ヤングマガジンアッパーズ2000年9号(講談社)に掲載された「イヌっネコっジャンプ!」にてデビューを飾る。2009年から2014年まで別冊少年マガジン(講談社)にて連載された「さんかれあ」は全11巻で刊行され、テレビアニメ化も果たした。