コミックナタリー PowerPush - ナタリー×「龍三と七人の子分たち」

ジジいいね! 龍三と七人の応援団

清野とおる編

歳も取ったしお金もないのに、何だか楽しそう

──「龍三~」では、どのシーンが印象的でした?

サウナの休憩スペースでビールを飲みながら談笑する一龍会の面々。

素敵なシーン、たくさんありました。パッと思い浮かぶのは、一龍会を結成した8人がサウナに出かけるところかな。みんなで休憩スペースに陣取って、わいわい喋りながら「ビール遅いぞ!」って店員さんに絡んだりして。昔の仲間がようやく勢ぞろいし、表情が生き生きしている。歳も取ったしお金もないのに、なんだか楽しそうに見えるんですよね。あとは息子家族がいなくなった家に、龍三がマサとモキチを呼び込んで家飲みするところもよかったなぁ。昼間から酔っぱらって、互いに文句を言い合って……って。

──友達っていいよなって、素直に思えるシーンですね。

僕の観察だと、お婆ちゃんは比較的いくつになっても集まってワイワイしてるんですよ。極端な話、たまたま隣にいた人とでもお喋りしちゃうし、結構にぎやかなイメージがある。でも男性は、歳を重ねるにつれて友人が減ってく傾向にあるみたいで……。うちの親父なんか基本ずっと1人で飲んでるし、赤羽のスナックや居酒屋で出会った爺さんたちも、大抵は単独で来ています。しかも、みんなちょっと寂しそうなんですよ。まあ僕なんか、それをいいことになんとなく親しくなって、マンガに描かせてもらってるわけですが……。

──たしかに龍三と子分たちも、1人でいる場面ではみんな孤独の影を背負っていました。

品川徹が演じる早撃ちのマック。病院でも愛銃を肌身離さず持ち歩いているが、看護婦からはいつもモデルガンで遊んでいるとからかわれている。

そうそう。かつて敵から恐れられた殺し屋が老人ホームでオムツをはかされてたり、病院で邪険に扱われてたりね。主人公の龍三も、普段は息子家族から邪魔もの扱いされてますし。だからこそ再会して中学生みたいに騒いでる表情を観ると、そのギャップにやっぱりグッときてしまう。北野監督の優しさを感じますよね。僕も、知人と呼べる男は結構多い方だと思いますが、友達と呼べる男はそんなに多くないので、今のうちから大事にしなきゃなって、改めて感じました(笑)。ただ、そうやって単体ではおとなしい爺さんたちが、ひとたび徒党を組むと恐るべきグルーヴを醸し出すというのもまた事実でして。

──集団になった老人ほど恐ろしいものはない、と。

「龍三と七人の子分たち」でも、後半からクライマックスにかけての怒濤の展開はメチャクチャでしたもんね(笑)。あんな修羅場とは違いますけど、僕も似たようなグルーヴを目の当たりにしたこと、ありますよ。

──ちょっと聞くのが怖い気もしますが……。それはどんな?

6、7年くらい前だったかなぁ。知り合いのマスターに誘われて、スナックの常連客ツアーにご一緒したんです。参加者はほぼ高齢者。バスを1台まるまる貸し切って、さくらんぼ狩りに行ったんですが……その車内がまあすごかった。年寄りの声だの咳だのがわんわん響き、あちらこちらで小競り合いが勃発したりして。帰ってきたらヘトヘトに疲れ果ててました。ある意味、若者よりよっぽどパワフルというか、絶対に敵には回したくない集団です(笑)。

龍三と仲間たちも、赤羽で会ったら面白い話が聞けそう

──一龍会のメンバーの中で、お気に入りのキャラクターはいましたか?

藤竜也演じる龍三は、一龍会の全員をまとめる親分。

自分がなりたい顔という意味では、やっぱり藤竜也さん演じる龍三でしょうね。かっこいいんだけど、ちょっと間が抜けてて。渋さの中に哀愁がある。ああいうジジイになれたらいいなって、単純に憧れます。ただ、もし赤羽のスナックで隣り合わせても話しかける勇気はないかな(笑)。龍三だけじゃなく、他の7人も同じ。すぐ拳銃をぶっ放すジジイ(早撃ちのマック)とか、怪しげな仕込み杖を持ってるジジイ(ステッキのイチゾウ)とか、見るからに僕の手には負えません(笑)。強いて言うなら、中尾彬さん演じるモキチなら話しかけられるかも……。

──そう思えるポイントは?

中尾彬演じるモキチは、通りがかる人に話しかけお金を騙し取る寸借詐欺師。路上で仕事をしているところを不良に見つかり、絡まれてしまう場面も。

寸借詐欺師だから口調も穏やかだし、なんとなく可愛げあるじゃないですか。ただ、そんな彼にしたって、実はとんでもない必殺技を隠し持ってるわけで……。

──何と言っても「はばかりのモキチ」ですからね。

トイレに潜んでターゲットを殺すって、やられたほうはたまんないっすよね(笑)。でも、こうやって1人ずつ思い出していくと、この映画はキャラクターの立ち具合が半端じゃなかったんだなって、改めて痛感します。こういう大人数の群像ドラマって、誰がどんなキャラだったのか、途中でわからなくなることも多いでしょう。でも「龍三~」の場合、仲間が8人も出てくるのにまるでごっちゃにならない。

──それはなぜ?

小道具の使い方とか抜群にうまくて、登場した瞬間に記憶に焼き付くんですよね。そこもすごいと思います。もしかしたら8人それぞれが北野監督の分身で。自分ではやりたくてもできないことを、代わりにやらせちゃってるのかもしれないなぁ……なんてね。これはまぁ、僕の勝手な思い付きですけど。ははは。

──北野監督が造形した、龍三とその子分たち。実際に付き合うのは大変そうですが、人間的な味わいはすこぶる深かったと。

樋浦勉演じるステッキのイチゾウ。刀をステッキに仕込んで持ち歩いている。

それはもちろん。間違いなく「もっと詳しく背景を知りたい!」と思わせてくれる男たちですね。そもそも僕が路上でいろんな奇人・変人を観察し、ときには思いきって声をかけ、マンガに描くようになったのも、ベースの部分では「僕が聞かなきゃ永遠に謎のままで終わってしまう」という意味不明の焦りが大きいんですよ。

──意味不明って(笑)。人並み外れて好奇心が旺盛ということでしょうか。

ほら、よく「老人1人の記憶は、図書館1つに匹敵する」とか言うじゃないですか。あれと同じで、風変わりなオーラを放ってる人を目にすると、一体どういう人生を送ってきたのか知りたくてたまらなくなる。そのオーラが変わっていればいるほど、つい扉を開きたくなるんです。だからいざ話を聞くときは、つねに相手を全肯定して聞き役に徹します。映画に描かれなかった龍三と仲間たちの人生も、具合が悪くなるほどディープそうだけど、ぜひ聞いてみたい(笑)。僕にとっては、ふとそんな気持ちにさせてくれる映画でもありました。

清野とおる

「龍三と七人の子分たち」 2015年4月25日 全国公開

「龍三と七人の子分たち」

70歳の高橋龍三(藤竜也)は、「鬼の龍三」と呼ばれおそれられていた元ヤクザの組長。ある日、オレオレ詐欺に引っかかったことをきっかけに、元暴走族で構成される「京浜連合」と因縁めいた関係になる。詐欺や悪徳商法を繰り返す「京浜連合」にお灸を据えるため、博打好きの兄弟分「若頭のマサ」(近藤正臣)や寸借詐欺で生活する「はばかりのモキチ」(中尾彬)、戦争に行ったこともないのに今でも軍服に身を包む「神風のヤス」(小野寺昭)、ほかにも「早撃ちのマック」「ステッキのイチゾウ」「五寸釘のヒデ」「カミソリのタカ」という異名を持つ仲間たちと「一龍会」を結成。次々に「京浜連合」の活動を妨害していくが……。

スタッフ

監督・脚本・編集:北野武
音楽:鈴木慶一

キャスト

龍三親分:藤竜也
若頭のマサ:近藤正臣
はばかりのモキチ:中尾彬
神風のヤス:小野寺昭
早撃ちのマック:品川徹
ステッキのイチゾウ:樋浦勉
五寸釘のヒデ:伊藤幸純
カミソリのタカ:吉澤健
京浜連合ボス・西:安田顕
京浜連合・北条:矢島健一
京浜連合・徳永:下條アトム
龍三の息子・龍平:勝村政信
キャバクラのママ:萬田久子
マル暴の刑事・村上:ビートたけし

毎週更新!カウントダウン・インタビュー

「龍三と七人の子分たち」オフィシャルサイトにて掲載中
芸人 松村邦洋
モデル 今井華
タレント 武井壮
ナタリー×「龍三と七人の子分たち」
EXILE / 三代目 J Soul Brothers NAOTO
芸人 大久保佳代子
マンガ家 清野とおる
Dream / E-girls Aya
監督 北野武
清野とおる(セイノトオル)
清野とおる

ギャグマンガ家。1998年、週刊ヤングマガジン増刊赤BUTA(講談社)掲載の「アニキの季節」でデビュー。代表作は、奇怪な地元住民および珍スポットを描いた異色エッセイマンガ「東京都北区赤羽」シリーズ。同作を題材にしたドキュメンタリードラマ「山田孝之の東京都北区赤羽」には、清野本人も出演している。