コミックナタリー PowerPush - 将良「思春期ビターチェンジ」

“長期型”男女入れ替わりドラマ 作者×えのきづのWEB作家共感対談

そのまま受け入れてもらえたから商業デビューが実現(将良)

えのきづ 最近はそういう人が増えてきてるんじゃないかな。昔から比べると、マンガ家の敷居はだいぶ低くなってきてる気がしますね。将良先生は、どういう経緯でCOMICポラリスさんで描くようになったんですか?

写真左からえのきづ、将良。

将良 担当さんから3通にわたって、「商業でやりませんか?」っていう熱いメールをいただいたことがきっかけですね。その前からプロを目指しませんかとか、この作品をどこどこに載せてみませんかとか、そういう話はほかにもあったんですけど。

えのきづ COMICポラリスの担当さんはほかと何が違ったんですか。

将良 個人サイトに掲載している状態から、コマ割りもストーリーも大きくは変えずに商業に移せるというお話だったので、お受けしました。描き直さなきゃいけないって話だったら、多分大変過ぎて、趣味のままでいいやってお断りしてたと思うんですけど。そのまま受け入れてもらえたことが一番大きいですね。COMICポラリスは、私以外にもWEB発の作家さんもいらして、それも心強かったです。

えのきづ「琴浦さん」1巻(帯あり)

えのきづ 私も似たようなところがありますね。色々声はかかってたんだけど、描き直しが求められていて。当時は普通に働いていたんで描き直しは大変だなあと躊躇っていたら、マイクロマガジンさんが「とにかくなんでもいいから本にしちゃいましょう」って言ってくれて(笑)。描き直せとは言われなかったんです。それが商業に移った大きな理由ですね。まあ結局は私が恥ずかしいんで、半年ぐらいかけて描き直したんですけど(笑)。

将良 描き直しの苦労は「琴浦さん」1巻のあとがきに書かれてましたね。

えのきづ マンガ家に踏み出せた一番の理由は、最初のハードルが低かったことかもしれませんね。あんまり最初から重いこと言われると引いちゃいますから。ただマイクロマガジンの担当さんは「本にしましょう」と同時に「アニメにしましょう!」とも言ってて、この人一体何を言ってるんだと思いましたけど。

将良 (笑)。

えのきづ 夢見がちすぎるだろ、みたいな。でも本当にアニメになるとは思わなかったな。

将良 私も「思春期ビターチェンジ」の1巻は結構手直ししましたね。気楽に描こうという気持ちで始めたマンガなので、さすがにこれは本に載せられないなみたいな絵がいくつもあって。結果、大体描き直しました。

「思春期ビターチェンジ」1巻

えのきづ やっぱりそうなっちゃいますよね。ちなみに私は「琴浦さん」の1巻でやりすぎなぐらいおまけを描き下ろしたおかげで、今も苦労してます。

将良 あ、1回描いちゃうとずっと続けないと……。

えのきづ そうなんですよ。やめたら苦情が来るんじゃないかと思って。

将良 でも色々詰め込みたい気持ちはすごくわかります。「思春期ビターチェンジ」はカバーデザインにすごくこだわって、カバーだけで「男女入れ替わり」が伝わる現在の形に落ち着くまで何度も何度も修正して。1巻目だし、やっぱりどうしても気合が入っちゃいますよね。

長期戦が珍しいという意識はなかった(将良)

──えのきづ先生は「思春期ビターチェンジ」を読まれて、いかがでした?

えのきづ 人格が入れ替わっちゃう話って昔からたくさんありますので、まあこれもそのうちのひとつかなと思って読んでいたら、2人は何年経っても元に戻れないという。これが新鮮で、大変面白いです。

将良 ありがとうございます。

えのきづ 長期間入れ替わるっていうアイデアは、どういうきっかけで思いついたんですか。

「思春期ビターチェンジ」1巻より。

将良 「長いのが珍しい」ってよく言っていただくんですけど、実はそんなに意識していたわけではなくて。人に言われて初めて気付いたぐらい(笑)。まず男女が入れ替わる話ってよくあるけど、幼い段階で入れ替わったらどうなるのかなと考えていたんですね。男と女で身体の作りがそんなに違わない時期だと、異性への関心よりも、着眼点がほかのところにいくんじゃないかと。で、そこから成長していく話を描くと面白いんじゃないかなと思ったのがきっかけです。あと、ストーリーがバーッと最後まで浮かんだので、これなら描き切れそうだと思いまして。

えのきづ 入れ替わりものってマンガ的な展開だと、よく性の方向に話が行きがちだと思うんですけど、「思春期ビターチェンジ」はそっち方面の描写が少ないですね。

将良 そういう作品は多分世に出回ってるから、私が描かなくてもいいかなって。それにやっぱり実際に自分の身に起きたら、性的な関心より、まず家族や友達との関係がどうなるのかに意識がいくかなと思いました。

えのきづ 確かにそれどころじゃないのかも。

えのきづ

将良 「琴浦さん」の他人の心が読めるという設定はどういうきっかけで生まれたんですか?

えのきづ きっかけですか……これが超行き当たりばったりなんですよ(笑)。琴浦さんが転校してくるところから話を始めようと思って、そのシーンを描いてから、心を読めるって設定を決めたんです。

将良 えっ、そうなんですか!

えのきづ 何も決まってないまま描き始めて。転校生を登場させたはいいけど、何か特徴的なことを言わせないとと思って、心が読めているようなセリフを言わせてみて。そんな感じで始まったマンガなんです。

将良 意外でした。どのあたりで話が長く続けられそうだと感じました?

えのきづ 琴浦さんが真鍋くんという男子と仲良くなってきたあたりですかね。周りのキャラがだんだん動き始めて、話が転がってきたなっていう。「思春期ビターチェンジ」はキャラクター設定がリアルですよね。

ポラリスCOMICS
えのきづ

WEBコミック[COMICポラリス]発の単行本レーベル。2013年10月創刊。
「男子が読んでも面白い」作品を毎月15日刊行中。

将良「思春期ビターチェンジ」2巻 / 1月15日発売 / 630円 / ほるぷ出版
将良「思春期ビターチェンジ」2巻
あらすじ

入れ替わって1000日──。
小学生の時に心と身体が入れ替わってしまった、ユイとユウタ。気が付けば、入れ替わり生活も3年目。友情、家族……そして、恋。お互いの心や身体の変化が、切ない季節を加速させて──?

将良(まさよし)
将良

2月24日生まれ、神奈川県出身。2011年2月より、自身のサイトにて「ちぇんじ」の発表を始める。2012年11月からは同作をベースにした「思春期ビターチェンジ」を、WEBマンガサイト・COMICポラリスにて連載開始。

えのきづ
えのきづ

2010年、マイクロマガジン刊の「琴浦さん」で商業デビュー。「琴浦さん」はもともと自身のWEBサイトに掲載していた作品だったが、マンガ投稿サイト・マンガごっちゃに連載を移し2013年にはTVアニメ化を果たす。そのほかまんがタイムジャンボ(芳文社刊)にて「桜乃さん迷走中!」、月刊アクション(双葉社)にて「アクレキ」、まんがくらぶ(竹書房)にて「トラロッコ」を連載中。