コミックナタリー PowerPush - 全国書店員が選んだおすすめコミック2015

第1位に輝いた「魔法使いの嫁」誕生秘話

2人の微妙な距離感が出せればいい

──確かに、構図を考えるのが大変ですね。一方で、チセのビジュアルはどう作られていったのでしょうか。

チセがエリアスと出会うシーン。

チセは、ただ自分の「好き」を詰めて描き出したような気がします。赤毛に関しては西洋の迷信から。目は赤毛なら緑が綺麗だろうと。それに、赤と緑は森や土の色なので、私が考える「魔法」を描くにはぴったりの色彩でした。チセは主人公であり、また読者さんが一番心を寄せて読んでくれるキャラクターだと思いますので、彼女というフィルターを通して美しいものや怖いものなどが伝わるようにと気を付けながら描いています。

──チセは読者から見ても、本当にかわいらしいです。ヤマザキさんなりの、キャラクターをかわいく描くコツなどはありますか?

かわいく描くためのコツは私も常々知りたいと思ってますが(笑)、……ただチセのみに限らず、自分のフェチズムや情念を全面に押し出して描くと良い結果に繋がる事が多いのかなと思います。それでもかわいく描けないときもあって、そのときはとても悔しいですね。

──書店員さんのコメントでは、「人間×人外のゆっくり愛を育てていくストーリーにきゅんとします」ともありました。2人の関係ややり取りを描く上で、気を付けているポイントなどがあれば教えてください。

付かず離れず、とても仲が良いわけでもなく、かといって心の底で嫌っているわけでもない、そういう微妙な距離感を出せればなと。いまの所は「親子」「恋人」「友達」「師弟」……そういう言葉のどこかにはっきりした形で落ち着かないように気を付けつつ描いているつもりです。そう見えていればうれしいです。

神父のサイモン。

──エリアスやチセ以外のキャラクターについてもお聞きしたいのですが、描いていて楽しいキャラクターはいますか?

どのキャラクターも我が子のようなものなので、等しく楽しいです。なかなか思ったように動いてくれなかったり、かと言えば動きすぎたりしますが。よりこちらの意図を汲んで動いてくれるのは、サイモンとアリスでしょうか。サイモンはよく喋ってくれますし、アリスに関しては行動理念がはっきりしていて、他人と身内の境界線の引き方が単純でよく動いてくれるなと感じています。

「ハリー・ポッター」など、海外児童文学の影響

──「魔法使いの嫁」には妖精も多く登場します。妖精や人外の魅力は、どんなところにあるのでしょう?

人間とは違う常識や法則の中で生きているというところと、常識や価値観が違うもの同士が交流し、相反しながらも絆を結んでいくところに魅力を感じます。完全にわかり合う必要はないですね。人間同士だって完全に理解し合うなんてことは不可能なので。

チセのもとに現れた妖精たち。

──違う価値観を持ちながらも共存していく、そこに魅力があるんですね。

ええ。妖精として人間の基準とは違う生態と価値観があって、彼らなりの「正しいこと」のもとで動いているように描写できた時は、その良さを表現できて、とても楽しいしうれしいですね。

──アイルランドやイギリスの古い言葉も出てきますが、それには何か理由があるのでしょうか。

古い生き物にはできる限り古い言葉を使わせたいな、と思って資料を探しつつ登場させています。古い言語は、人間でも別のモノたちでも、「世界の最初の言葉」により近いような気がしまして。

──妖精を描く上で、参考にしている資料などはあるんでしょうか。

たくさんあります。もともと海外の児童文学が好きで好きで、そこに出てくる妖精たちの元ネタを調べていって、ブリテン諸島の伝承という風に辿っていきました。新紀元社さんのファンタジーシリーズや「妖精事典」(富山房刊)は今でも愛読させていただいています。

──ブリテン諸島の中でも、英国を舞台に選んだのはなぜでしょうか?

やはり「ハリー・ポッター」シリーズの存在は理由のうちのひとつでしょうか。この作品が私にとって海外児童文学、中でもとりわけファンタジー小説に傾倒する契機でしたので、その影響たるや、すさまじいものです。

──確かに「魔法使いの嫁」には海外児童文学にも似た世界観を感じます。それらと出会ったのはいつ頃だったのでしょうか。

小学校の時に友人のお母さんから「ハリー・ポッター」シリーズを薦められたのがきっかけで「ダレン・シャン」、「ネシャン・サーガ」など読み進めるようになって。それからずっと好きですね。特に心の中でずっと一番に好きなのは「レイチェル」シリーズです。主人公のレイチェルがとても眩しくて、いつか彼女のような女の子を描きたいという気持ちがありました。「神々の島マムダ」も忘れられない本です。

──マンガにも影響を受けたりしているんでしょうか?

マンガとしては吉川うたた先生の「すっくと狐」や、みなぎ得一先生の「足洗邸の住人たち。」に原体験がありますね。どちらも人と妖怪の関わりが面白くて、読み始めたときに電流が走りました。

「全国書店員が選んだおすすめコミック2015」

全国の書店員が「たくさんの人に薦めたい」「皆に読んでほしい」作品に投票して決定されるマンガ賞。2015年度は1700書店2360名の書店員が投票に参加。2014年11月末日までに単行本巻数が5巻以下だった作品を対象とし、 書店員1人につき3作品に投票した。

ヤマザキコレ「魔法使いの嫁」マッグガーデン
あらすじ

羽鳥チセ15歳。
身寄りも、生きる希望も、術も、何一つ持たぬ彼女を金で買ったのは、悠久の時と寄添うヒト為らざる魔法使いだった——。
彼に「弟子」として、そして「花嫁」として招き入れられた時、少女の中で停まっていた針がゆっくりと動き始めてゆく……。

ヤマザキコレ
ヤマザキコレ

北海道生まれ。2013年、月刊コミックブレイド(マッグガーデン)で「魔法使いの嫁」の連載をスタートし、現在はオンライン雑誌・コミックブレイドと、月刊コミックガーデン(マッグガーデン)にて同時連載中。