コミックナタリー Power Push - 「大奥」「パレス・メイヂ」特集 よしながふみ&久世番子対談

女将軍と女帝を描く2人のシンパシー

将軍も帝も、孤独なんですよね(久世)

久世 ご自分の描くものに好きなタイプのキャラはあまり描かないとおっしゃっていましたが、「大奥」にはサポート役としてすごく素敵な老中の女性が出てきますよね。吉宗の久通とか、連載で出てきている、家定の阿部とか。

「大奥」8巻より、徳川吉宗と加納遠江守久通。

よしなが あ、そうですね。最近はもう男女の区別もなくなってきているのかも(笑)。立ち位置的に応援してあげる人だったら、もうそれでいいんですね。

久世 主従関係に恵まれている将軍が多いなあと。

よしなが 江戸時代を描いてみて、どれだけ老中とか側用人が大切なのかがわかりました。やっぱり政治家には優秀な側近が必要なんですよね。そういう意味では御園くんもほんとにいい子だよね……これでもうちょっと無能だったら最高(笑)。

久世 綱吉と吉保は恐ろしい主従関係ですけれど。

よしなが 「大奥」は思っていたより百合マンガだなと思いました。政治的な補佐をすると、どうしても度を越した主従関係になって、なんだかちょっと女の人たちのほうが同性愛っぽい関係になるんだなと。

久世 12巻で「女であっても男であっても 真の王者とは孤独なものなのです」というセリフがありますよね。

よしなが 家斉の御台所のセリフですね。

久世 私もいろいろ調べてみて、やっぱり将軍も帝も、すごく孤独だなあと。だからこそ結婚が救いになるかもっていう期待があるんでしょうね。

よしなが はい。調べる前に思っていたよりも、結婚って実は重要なんですよね。心を開ける人が少ないので。家臣が重要なのもそこですね。その人だけには信じて預けられるみたいな。

「パレス・メイヂ」1巻より。

久世 でも家臣も、孤独な王者の立場から見ると、流れていってしまうものなんですよね。一生一緒にいてくれるとは限らない。「私は一生この位に就いていなければならないけれど、お前たちは辞めてしまうことができるだろう」と帝が辞める家臣を責めたりするんですよ。確かにそうだなあと思いますよね。

よしなが 帝には、ばあや的な人はいるんですか?

久世 いるんですけど、年齢と位が上がってくるとそれに伴い人事の異動もあるようで。ずっと一緒にいられるような臣下は多くないと思います。

よしなが 「パレス・メイヂ」の帝は学校にも行っていないから、お友達もいないんですよね……。逆に誰かを信じて心を預けちゃうというのは、政治的にすごく危険なことだし。

久世 預けることも戒められてしまうし、嫌うことも、親しくなることもダメだという教え。好き嫌いを言っちゃいけないっていうのはそういうことみたいですね。誰に対してもつかず離れずという感じで。本当に王者は孤独ですね、男でも女でも。

「男の友情もの」で終わるかもしれません(笑)(よしなが)

よしなが 「パレス・メイヂ」もそろそろクライマックスですよね。幸せになってほしい……みんなに。新しい時代だから!

「大奥」カラーイラスト

久世 「大奥」もあと将軍は2代ですよね。最後は将軍を男にするか女にするか決まっているんですか?

よしなが 決まっています。……私に聞くとつるつるとぜーんぶネタバレをしちゃうので、大不評なんですけど(笑)。

久世 この後、和宮も出てくるんですよね。

よしなが 出ます、出ます。

久世 だからまたロマンスがあるんだなあと。

よしなが そういう意味ではもう1回、恋愛ものの展開に戻ってくるなと。今連載のほうでは篤姫が出てきていて。読者の皆さんも、筋はわかっているんですよね。歴史をなぞっているので。だから人間関係にだけ思いを致していただければと。和宮は男か女か、次の将軍は男か女か、そういうこと自体も楽しんでもらいたいなと思います。最後は恋愛ものに戻ってきて閉じようかな、と思ってはいるんですが、男の友情もので終わってたり(笑)。もともとそっちのほうが好きですし。大奥をバーッと解放された男の人たちが世の中に……みたいな(笑)。

久世 ちょっと今、「大奥」ってSFだなと思いました(笑)。

よしなが SFです、SF(笑)。

よしながふみ「大奥(13)」 / 2016年4月28日発売 / 724円 / 白泉社
よしながふみ「大奥(13)」

日本の江戸時代とは似て非なる物語。男子のみが罹る謎の疫病により男子の人口が急速に減少し、時の3代将軍・家光も病没してしまう。春日局は家光の娘を密かに「将軍・家光」に仕立てあげ、男女が逆転した大奥を完成させた。その業病も11代将軍・家斉の治世に完全に撲滅。世は再び男が支配する世に戻ったかに見えたが、13代将軍には再び女の家定が立つことに! 逆転大奥は復活!? そして時代は激動の幕末へ──!

久世番子「パレス・メイヂ(5)」 / 2016年4月20日発売 / 463円 / 白泉社
久世番子「パレス・メイヂ(5)」

明慈帝が建造した壮麗なる宮殿「パレス・メイヂ」。御園子爵家の公頼は、結婚させられそうになっている姉を助けるために、帝に仕える侍従職出仕として宮中で働くことに。しかし宮殿に君臨する今上帝は、美しき女帝・彰子だった。宮中での勤めを通して、2人は次第に心近くなっていく。5巻では2人の関係を揺るがす大事件が勃発……!?

よしながふみ
よしながふみ

ボーイズラブ作品「月とサンダル」でデビュー。テレビドラマ化された「西洋洋菓子骨董店」などヒット作多数。「大奥」で第5回センス・オブ・ジェンダー賞特別賞、第10回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、第13回手塚治虫文化賞マンガ大賞、2009年度ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞、第56回小学館漫画賞少女向け部門を受賞。現在は「大奥」と「きのう何食べた?」を連載中。

久世番子(クゼバンコ)
久世番子

1977年生まれ。2000年デビュー。「暴れん坊本屋さん」などのエッセイコミックの連載で人気を博す。「パレス・メイヂ」は著者にとって久しぶりの少女マンガ連載作品。「神は細部に宿るのよ」もKiss(講談社)にて連載中。