「NIRVANA-ニルヴァーナ-」じん×沙雪 対談|「今、2人にとって一番面白い」 “アツさ”を求めて120%で描くこと

じん×沙雪対談

出会ったときから、何を話しても気が合った

──このたびは「NIRVANA-ニルヴァーナ-」3巻の発売おめでとうございます。2巻のヒキでもドキドキしましたが、さらにアツい展開の連続でした。

じん沙雪 ありがとうございます。

──「NIRVANA」は現代の女子中学生・八千夜が、海外ボランティアへの渡航の最中に事故に巻き込まれ、異世界で転生するところから始まります。八千夜が“十二始”と呼ばれる能力者たちと手を取り合いながら、世界にはびこる“悪業”を倒していく様子はまさに“バトルマンガ“という感じで、手に汗を握りながら読みました。

じん
沙雪

じん 「NIRVANA」は、僕と沙雪さんがユニット“ZOWLS”という形で一緒に話を考えながら作り上げている作品です。沙雪さんとは以前対談取材で初めて会ったんですけど、本当に何を話しても気が合うんですよ。

沙雪 好きなマンガでもアニメでも、どんなタイトルを挙げても「ああ、あれね」という感じで、どちらかが知らないということがなかったですよね。じんさんが僕のことをやたら褒めてくれて、いい気分になった覚えがあります(笑)。

じん 対談の終わりには沙雪さんが「一緒に何かやりましょうよ」って言ってくれて、うれしかったです。結局2人でマンガ作品を作らせてもらえることになって、その際「どうせなら2人で原作を作った方が面白くなるんじゃないか」という話になり、今に至ります。「女の子が主人公のアツいバトルマンガがやりたい」というのも、沙雪さんが最初から言ってました。

沙雪 ちなみにユニット名は、2人がそれぞれ好きな動物の名前を合わせたものです。僕がキツネ(ZORRO)で、じんさんがフクロウ(OWL)。

星廻界(グルグラフ)という異世界に輪廻転生してしまった八千夜。この世界の人々が信じている調和の神・サクヤの生まれ変わりだと告げられる。

──どういう由来なんだろうと気になってました(笑)。「NIRVANA」にはヒンドゥー教・ヒンドゥー神話由来の言葉が多数登場し、世界観自体にもヒンドゥー由来の言葉やモチーフが多く見られますよね。このアイデアはどうやって生まれたのでしょうか。

じん 一時期エキゾチックなものにすごく惹かれていたことがあって「色々な観念をモチーフに作品を作りたい」という思いがあったんです。“涅槃転装(ニルヴァーナ)”や“転装体(アヴァター)”の設定なんかは、特に東洋の神話に影響を受けています。沙雪さんと一緒に何かやろうとなった際に、アイデアの1つとしてそんな設定の話をしたら「最高ですね」と言っていただけて。

──八千夜は仲間と融合して“涅槃転装”を行い、“転装体”となることでその十二始の力を借りて敵と戦います。“アヴァター”って、ソーシャルゲームなどに出てくるアバターからとったのかなと思っていたのですが、神話に出てくる言葉だったんですね。

八千夜が初めて十悪業と対立するシーン。瞋恚(しんに)のラニヤは、国民の笑顔のため懸命に働いていたマルの兄・アージに取り返しのつかないダメージを負わせる。それをきっかけに八千夜は涅槃転装を行い、瞋恚(しんに)のラニヤへ戦いを挑む。

じん “アバター”の語源になったと言われる言葉に“アヴァターラ”というのがあって、その言葉や観念には特に影響を受けましたね。神話で語られるヴィシュヌ神のように、さまざまな姿に化身し、人々を導く主人公の姿が見えたんです。“涅槃転装”という業も、そう言った諸説を紐解きながら考案しました。

──なんとなく聞いたことのあるワード同士が、そんなふうに関連していたとは。

じん そこから生まれたのが「NIRVANA」の最初のプロットでした。流派によって同じ神さまの伝説でも無数の話が伝わっているので、どれが正解かもわからないんですよ。そのブレもまた面白い。八千夜たちの物語も“もしかしたらあったかもしれない神話“くらいの気持ちで作っています。

沙雪 じんさんから「NIRVANA(仮)」と題されたストーリープロットが送られてきて、「これ、面白い」と思って、翌日には八千夜の絵を描いていました。

──「NIRVANA」というのも“涅槃”をあらわすサンスクリット語を元にしているんだと思いますが、初期プロットの時点で決まっていたんですね。

じん いや、そういうわけじゃないんですよ。まだプロットだといっても、タイトルがないとかっこわるいから、あくまで仮タイトルとして付けていただけです(笑)。

沙雪 でも、いろいろタイトルを考えてみたんですが、やっぱり「NIRVANA」がしっくりくるよねということで、元のままに。「仮タイトルとして考えたものだしなあ……」とじんさんは最後まで悩んでましたが、評判いいですよね。

じん 結果的にはよかったですよね。カート・コバーン(アメリカのロックバンド・Nirvanaのボーカリスト兼ギタリスト)が俺の耳元で「本当にニルヴァーナにするつもりなのか」ってずっと問いかけてたけど(笑)。

「いろいろあって、今がある」を体現した主人公

──「女性主人公によるバトルマンガを」というところから始まった「NIRVANA」ですが、八千夜のキャラはどう決まったんでしょうか 以前のインタビューで“受け入れる”という言葉が、八千夜のイメージだと話されていましたが、その発想は最初からあったのでしょうか。

じん 実は、最初とは全然違います(笑)。

ご近所の雪かきを手伝う八千夜。学校があるにもかかわらず、困っている人を見過ごすことができないお人好し。

沙雪 八千夜は大変でしたね。もともとは今のキャラクターとまったく違って、テンションが高い、身振り手振りですべてを解決するという子でした。

じん 途中までは「絶対にこのキャラクターでいこう」と思って作っていたのですが、担当編集さんから「この子じゃ感情移入できない」と指摘されたんです。僕は正直、物語の主人公に必ずしも感情移入できる必要はないと思ってるんですが「うーん、そう言わせてしまったということは、この子じゃないかも……」と考えた結果、今の八千夜になりました。今となっては「これしかないな」という感じですね。

「NIRVANA-ニルヴァーナ-」2巻より。

──1巻の時点では正直八千夜のことを「こんなにいい子で大丈夫なのかな」と思いながら読んでたんですけど、2巻で過去と本心が明かされて、ガラリと印象が変わりました。

じん “受け入れる”という言葉には、他人だけでなく、自分が経験したつらいことなどをちゃんと血肉にしていくという意味があると思っていて。いろいろな辛苦を受け止めながら、他人と仲良くなれる子……というのを試行錯誤した結果が今の八千夜ですね。僕は、人間の人格というのは“生まれつき”のものよりも、“過去の積み重ね“によってできあがるというのを大事に考えていて。

──と言うと?

じん 八千夜は、1巻時点では“サクヤの生まれ変わり”として、当然に人を助ける人格者であるかのように描きましたが、2巻で、サクヤとしてではなく八千夜本人の“過去”があったからこうして人助けに身を投じているというのを、伝えられたんじゃないかと思います。八千夜の過去に別に共感する必要はなくて、でも応援できる子になったらいいなあという思いで、沙雪先生とストーリーを書きました。「いろいろあって、今がある」というのは「NIRVANA」で描きたいことの1つですね。テンカの過去なども、そのうち描いていきます。

「NIRVANA-ニルヴァーナ-」1巻より、テンカ=ランドグラフ。“ランドグラフ”はかつてサクヤとともに戦い、世界を救った“三神”の1人。ランドグラフ家はサクヤ亡き後、現在に至るまで十二始を束ねていた。

──2巻から八千夜の前に立ちはだかるテンカは、どういう経緯で生まれたキャラですか?

じん まっすぐに進んでいく八千夜に「それは違うよ」と言うキャラクターがほしいなというところから出発しました。

八千夜とテンカが対峙するシーン。

沙雪 競うようなイメージはなくて、八千夜の先輩っぽいイメージなんですけど、読者の方からは「ライバル登場」と言われることが多いですね。

じん 対になる存在ではありますよね。名前に“夜”の入った八千夜に対して、“天日(テンカ)”という名前だし。

──八千夜のように、彼は彼でいろいろと背負っているものがありそうだなと感じました。

沙雪 そうですね。彼の抱えている過去はかなり悲しいものになるかなと。いずれじっくり描いていきたいと思っています。

原作:じん×沙雪(ZOWLS) 漫画:沙雪「NIRVANA-ニルヴァーナ-③」
2017年7月27日発売 / KADOKAWA
「NIRVANA-ニルヴァーナ-③」

コミック 648円

Amazon.co.jp

Kindle版 648円

Amazon.co.jp

主人公は困っている人を見過ごせないボランティア好きの女子中学生・春秋八千夜(ひととせやちよ)。ある日突然、星廻界(グルグラフ)という異世界へ輪廻転生してしまった八千夜は、そこで希望の神・サクヤの生まれ変わりだと崇めたてられる。身に覚えもなく困惑する八千夜だったが、あることをきっかけに伝説の力・涅槃転装(ニルヴァーナ)を発揮し……。八千夜は危機に瀕した星廻界を救うべく、“十二始”と呼ばれる仲間集めの旅へと繰り出す。

付属情報
  • アニメイトでは描き下ろしの特典イラストペーパーを配布。
  • 一部の電子書店では1巻の無料試し読みも公開中。

7月29日よりLINEマンガでも連載スタート
毎週土曜更新

じん
じん
1990年10月生まれの北海道利尻島出身。2011年よりニコニコ動画に自作の楽曲を投稿し、歌詞の世界観がストーリーとリンクした楽曲群「カゲロウプロジェクト」をスタートさせる。2012年3月には同プロジェクトにまつわるCDと小説の発売、コミカライズ化の発表といったマルチメディア展開が始動。2012年の月刊コミックジーン2012年7月号(KADOKAWA)にて、じんの原作をもとに佐藤まひろ作画を担当する「カゲロウデイズ」の連載が始まった。その後も同プロジェクトは、アニメ化および劇場化を果たすなど広がりを見せていく。「カゲロウデイズ」の連載と並行し、2016年には同誌にて「ダブルゲージ」の沙雪と「NIRVANA-ニルヴァーナ-」を開幕させる。
沙雪(サユキ)
沙雪
九州在住のマンガ家。2011年、メディアファクトリー主催の第6回MFコミック大賞にて「ネココハウス」が大賞を受賞。2012年から2014年にかけて月刊コミックジーン(KADOKAWA)にて「ダブルゲージ」を連載し、2013年から2016年までは同誌にてボカロ楽曲シリーズ「ミカグラ学園組曲」のコミカライズを手がける。その後、Webマンガサイト・ジーンピクシブで「月下ノ外レ外道」を連載。2016年には「カゲロウデイズ」のじんとZOWLSというチームを組み、月刊コミックジーンで「NIRVANA-ニルヴァーナ-」の連載をスタートさせた。