コミックナタリー Power Push - マーガレットコミックス特集 あの頃も、これからも!一生少女マンガ宣言 第5回 森下suu「日々蝶々」

2人でマンガを描く理由

森下suuがマーガレット(集英社)にて2012年より連載してきた「日々蝶々」は、無口な美少女・すいれんと、硬派な空手男子・川澄の恋を初々しく描いたラブストーリー。6月に発売されたマーガレット13号にて、3年4カ月にわたる連載がついに完結した。

コミックナタリーではこれを記念し、2人組ユニット・森下suuにインタビューを敢行。原作担当のマキロ、作画担当のなちやんに、初の長期連載を終えた感想を聞くとともに、どう分業しているのか、高校時代からの友人だという2人でマンガを描き始めた経緯などを語ってもらった。

取材・文/岸野恵加

純愛がテーマなので、揺るがないでほしかった

──まずは3年4カ月に及ぶ「日々蝶々」の連載お疲れさまでした。単行本12巻にわたる長編となりましたね。

マキロ 今はとにかくホッとしてます。

なちやん そうですね、気が抜けたというか「終わったー……」みたいな。初めての長期連載だったので、もう必死でした。

マキロ どこまで続くのか最初は全然決まってなくて、そもそも巻数が付くかもわからなかったくらいで。次描いたら次っていう感じで、本当に1話1話必死で描いてました。

なちやん もし続くのなら、5巻くらいまではいけたらいいねって話してたよね。

「日々蝶々」読切版の扉ページ。

──そもそものスタートはマーガレット2011年24号に掲載された読み切りでした。無口な女子と空手男子の不器用な恋愛もの、という発想はどこから生まれたんですか?

マキロ もともと「日々蝶々」っていうタイトルをずっと使いたいと思っていて、そこからです。このタイトルならお花みたいな名前の子が出るかな……って、少しずつ膨らませていきました。主役の2人がお互い喋らないマンガは、あんまりないかなと。ここまで無口な子はいないっていうくらいにしてやろうと狙ったところはあります。セリフの「……」が一番多い作品にしよう、と(笑)。

──第1話ですいれんがひと言しか喋ってなかったので驚きました。川澄はなぜ空手男子に?

マキロ 男らしいスポーツってなんだろうと考えたときに、やっぱり空手かなって。知り合いがやってたこともあって。

なちやん 読み切り版だと少しだけ川澄がチャラいというか、まだ普通の男の子っぽいよね。

マキロ うん。このときも硬派に描いてたつもりだったんだけど。

2巻収録の第8話は、川澄のモノローグで物語が展開する。

──読み切りもですが、第8話も川澄視点になってますよね。これはどういった意図で?

なちやん ……なんでだっけ。

マキロ 編集さんにアドバイスを受けたんです。打ち合わせで「川澄が何考えてるのかを読みたいな」って。川澄のモノローグが見えることで、読む人が2人を見守ってる視点になるんじゃないって言われた気がする。

なちやん ああ、なるほど。

──確かにすいれんと川澄はお互いへの想いに揺らぎがないので、読んでいて見守ってる気持ちになります。1巻ですぐに小春というライバルが出てきますが、川澄も全然相手にしないので読者としてはあまりハラハラもせず。

マキロ こんなカップルがいてもいいかな、と思ったんです。今回は純愛がテーマなので。揺るがないでほしかった。

親子で読めるマンガにしたい

5巻より、「つきあったら どうなるのかな……」と戸惑う2人。

──すいれんと川澄の恋愛はピュアというかウブというか、かなりスローペースで進んでいきますよね。1巻の終わりで相手への思いを自覚して、4巻で両思いになったと思ったら「わたし達 つきあったら どうなるのかな……」と戸惑い、そこから付き合うまでに丸1巻分かかる、と。読者はとにかく焦らされます。

マキロ 親に黙ってこっそり読むんじゃなくて、親子で読めるマンガにしたいなという思いがありました。だから、すぐにキスするとかは違うかな、と。ファンレターでも、親子で読んでますって言ってもらえたときはすごくうれしいです。

2人が喫茶店で向かい合い話すシーンは、さまざまなアングルから描かれている。

なちやん 無言が多い2人だからこそ作画が大変なこともありましたね。5巻の喫茶店でのシーンはたっぷり間が取られてて、セリフはないし2人とも髪白いし、性格上アクションをとらせることもできないしで、「もうアングル使い果たした。私はどうやったらこの白い紙を埋められるんだろう……」って途方にくれてた。今でも読み返すのがちょっとつらかったりします。

マキロ 私も1巻の頃はつわりで苦しんでたし、2、3巻あたりは出産間もなくて数話分前倒ししてネーム描いてた記憶があるから、そのあたりを読むとちょっとつらい気持ちになる……(笑)。

──おふたりは結婚して主婦になってからユニットを組んで、マンガ家を目指したんですよね。

マキロ 高校の同級生で、学生時代にも「一緒にマンガ家になろうね!」って別々に投稿したりはしてたんです。でもそのときは2人とも諦めて。

なちやん 結婚して別々の県に住んでからも仲良くしていたんですが、私が「バクマン。」を読んで「2人でやればいいんじゃん!」って思いついて、マキロに電話したんです。私は絵を描きたいけど話ができなくて諦めてたけど、マキロがいっぱい話を作ることは知ってたので。彼女が全然1つの作品を完成させられなくて、すぐ次を描いちゃうことも。

「日々蝶々」カット。

マキロ 飽きちゃうんですよね……。でも結局は勢いでバーっと描くから、矛盾に気づいたときにだめだーって思うんです。

なちやん 下書きなしで、原稿用紙に直で描いたりしてたからね。

マキロ (笑)。なちやんからの電話をもらって私もすごくうれしくて、「いいね!」って投稿まで進めたよね。最初は「友情の証に作ろう、仕上がったらどこかに投稿しよう」くらいの気持ちだったんですけど。マーガレットで運よく担当さんについていただきました。

先の展開、教えてもらえないんです

──原作と作画は完全分業なんですか?

マキロ はい。私がネームを描いて、なちやんと担当さんに送ってチェックしてもらって、なちやんが下絵を描いてくれたのをチェックして、ペン入れしてもらう、という流れでやってます。

なちやん 半年に1回くらい、大きなストーリーの流れを話す打ち合わせは一応あるんですけど、先の展開とか、基本的には何も教えてくれないんです。

2巻より、雨の中すいれんが川澄を引き止めるシーン。

マキロ なんか意地悪してるみたいじゃん!

──あはは(笑)。

マキロ 打ち合わせ通りに描いてても、どんどん変わっていっちゃうんです。だからちょくちょく教えられなくて……。

なちやん ネームができあがった段階で初めて見るので、いつも「ほおーっ」っていう感じです。「この後の展開はこうなるんだろうな」って思ってたことが、全然違ってたり。2巻で雨の中すいれんが川澄を引き止めるシーンなんかまさにそうですね。「次どうなるんだろう」って思いながら次の回を読んだら、展開が思ってたよりはあっさりしてて。

マキロ 何、期待はずれみたいな……。

なちやん 多少そう聞こえたかもしれないけど(笑)そうじゃなくて、それが普通じゃなくて面白いな、って。次号への引きの作り方とか、基本的にマキロはいつも独特なんですよ。私自身が思うから、読んでる人もそう思ってるんじゃないかな。

マキロ そうかな……。計算しちゃダメだ、と思って描いてます。だから連載が終わった達成感はあるんですけど、どうやって作ってきたのか、実はあんまり記憶がないんです。

マキロが好きだと語る花火のシーン。

なちやん その場その場だよね。打ち合わせも「こうしてああしよう、よしメモ!」とかなくて、ふわっと終わるんです。あんまり話し合いにならない(笑)。打ち合わせで話したこともネーム見たら変わってるし。

マキロ セリフが展開に大きな影響を与えることが多い気がします。1つの言葉がキャラクターにとってとても大きいものだったりして、どんどんその後が変わっていく。「言葉になんなくって」っていうモノローグは、無口な主人公だからこそ絶対に入れたくて、ずっと付箋に貼ってとっておいてたんですけど、2巻の花火の場面で入れられてよかった。なちやんの描いてくれた花火がとっても綺麗で、特に好きなシーンです。

マーガレットコミックス特集 あの頃も、これからも!一生少女マンガ宣言 特集一覧・連載作品年表はこちら
第1回 河原和音
第2回 咲坂伊緒
第3回 神尾葉子
第4回 中原アヤ
第5回 森下suu
第6回 あいだ夏波
第7回 やまもり三香
第8回 水野美波
第9回 幸田もも子
第10回 宮城理子
第11回 佐藤ざくり
第12回 椎名軽穂
第13回 小村あゆみ
第14回 いくえみ綾
第15回 ななじ眺
第16回 八田鮎子
番外編 マーガレット&別冊マーガレット編集長インタビュー

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森下suu作品
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森下suu(モリシタスウ)
森下suu

原作担当のマキロと、作画担当のなちやんからなる2人組ユニット。2010年、ザ マーガレットに掲載された「あのて このて」でデビュー。2012年に「日々蝶々」をマーガレット(ともに集英社)にてスタートさせ、初連載作でありながら「このマンガがすごい!2014」オンナ編4位にランクインという快挙を成し遂げる。同作は2014年6月に完結。そのほか著書に「まだ天の川にいけない」がある。


2016年1月22日更新