コミックナタリー Power Push - 安藤ゆき「町田くんの世界」川端志季「宇宙を駆けるよだか」

別マの異色2タイトルが「このマンガがすごい!」入賞! 次世代を担う2作家を直撃

幸せなこの人が、私と入れ替わってしまったら……?

──「美醜」というデリケートなテーマを描くのは難しい部分もあったのではないかと思うのですが。

「今の私は…ブスなんだ」と、容姿を気にしはじめたあゆみ。

うーん、「美醜」がテーマではあるんですが、私はこう思うよ、と言いたいわけではなくて。それぞれが、いろいろと感じ取っていただければうれしいです。心と体が入れ替わってしまうというルールだけを残して、まったく別のキャラを使って描いたら、また全然違う話になったと思うんですよ。今回は、あゆみと然子はこうなりました、というお話なのかなと。

──確かに美人同士とかでも面白いことになりそうですね。印象的だったのが、然子の体になってからも外見には特にショックを受けることなく過ごしていたあゆみが、「今の私は…ブスなんだ」と気づくシーン。「人と比べて見た目が勝るとか劣るという見方をしたことがなかった」と。かわいくて性格もいい女の子は、「ブス」というものに対してこんなにも無頓着なのか!と思いました。

美醜とは全く関係ないことなんですけど、この回には私自身の経験が反映されていて。別マでデビューして、別マ作家の友達ができたら、まったくスレていない人ばかりだったんです。目がキラキラしていて、家族が大好きで、そこから溢れる愛で少女マンガを描いている。私とは違うタイプでした。どちらがいいということではないと思うんですが、もし私と彼女たちが入れ替わったら、どうなるんだろう?と考えたんです。私は割とその状況を楽しんじゃうと思うんですけど、こんなに幸せそうな人が私に入ったらいったいどうなってしまうんだろう、と思って描いたところはあります。

──なるほど……今まで自分の中に持ち合わせていなかった感情に、初めて気づくことになるのかもしれませんね。読んでいてハッとしました。

あゆみたちは元の体を取り戻すために動き始める。

その「ハッ」は、私もした「ハッ」なので伝わったんだと思います。あの回を描くまでは考えていなかったんですけど。

──描きながら、わかった。

はい。いつもそんな感じでしたね。答えはわからないまま描いていました。あゆみが火賀としろちゃん、どっちとくっつくかも、最終回の前話まで決めないまま描いていました。

──そうだったんですか。

そのほうがハラハラするのでは、と担当さんにアドバイスをいただいていたのもありますし、私もどっちでもいいと思っていたので。描きながら、アシスタントさんたちに「どっちとくっついてほしい?」と聞いたりしていました。

──どちらが多かったですか?

半々でしたね。もしどちらかが多かったらそれに合わせてしまったかもしれない。喜んでほしいので(笑)。

然子に殴りかかるあゆみ。

──全編スリリングで、意外なことばかりが起きて翻弄されました。

「えっ?」って思ってもらう瞬間が多ければ多いほど、読者さんにひっかかるかなという気がして、そういうことを描くところはありますね。

──あゆみが、然子を思い切り殴る行動に出るシーンは特に驚きました。絵的にもすごい迫力ですし、女の子に女の子の顔面をグーで殴らせる、というのはかなりの冒険では?

ハッピーエンドにすることは決めていたんです。ただそれで終わると然子に痛みがなさすぎるから、実際に痛い思いをしていいんじゃないかと(笑)。最初は、もうちょっと然子が痛がっているというか、グロい顔をしていたんですけど、担当さんにそれはちょっとやり過ぎだと止められました(笑)。もっと少年マンガっぽい感じの絵でしたね。

元の体に戻りたいと泣き叫ぶあゆみ。

──確かに、ところどころ少年マンガっぽいところがありますよね。今まで少年マンガをたくさん読まれてきたのでしょうか。

そうですね。今も好きです。根っこにあるものなので、描いていてもどうしても出てきてしまうんです。

──最初のほうで、然子の姿になってしまったあゆみが「ああああああああ」とものすごい表情で泣き叫ぶシーンも、少女マンガではほとんど見ない、衝撃的な絵でした。

大事なシーンでは、結構このグロいトーンを使うんですけど、手伝いに来てくれていた友達が「背景にこのトーンを使うのは川端だけだ」って言ってくれて、なるほどと思いました(笑)。

失敗しても、全然大丈夫!と言いたい

──初連載を終えられて、次はどんなものを描きたいですか?

次はコメディを描きたいと思っていたんですけど、考えれば考えるほどどんどんシリアス寄りになってきてしまって。ただ今回ほどダークではない、軽いノリのものになる……と思います。あまり自信を持って言えないんですが(笑)。

「宇宙を駆けるよだか」より。

──今後、こんな作家になっていきたいというビジョンはありますか。

今ってネットも普及しているので「正しい道」がすぐ調べられると思うんです。こうすれば成功する、っていう情報がいくらでもあるので、近道をして早く結果を残すそうとしちゃいますよね。でもそうじゃなくてもいいと思うよ……ということをじわっと言えるようになっていけたらいいなと思っています。

──確かに、繊細で傷つきやすい人が多くなっている気はしますよね。失敗に過剰に傷ついてしまうような。

そうなんですよ。失敗しても全然大丈夫だよ、と言えたらいいなと思います。

──先生ご自身も連載中は試行錯誤しながら、いろいろなことにチャレンジしていたとおっしゃっていましたよね。

そうですね。失敗したらごめんなさい!っていう感じで(笑)。次の連載が、「これはだめだ」と思われたとしたら、それはそれでしょうがないと思ってます。真面目にやらないことが一番だめだと思うので、できることをやってだめだったら、また次がんばります(笑)。

安藤ゆき「町田くんの世界」2巻 / 発売中 / 432円 / 集英社
「町田くんの世界」2巻

物静かでメガネ。そんな外見とは裏腹に成績は中の下。アナログ人間で不器用。なのに運動神経は見た目どおりの町田くん。そんな彼に弟が出来たり、告白する女の子が現れたり、初恋の人が現れたり……。人を愛し、人から愛される町田くんの第2巻です!

万丈梓「変則系クアドラングル」2巻 / 発売中 / 648円 / ほるぷ出版
「町田くんの世界」2巻

あゆみと距離を置くかつての恋人・水本、そしてそばに寄り添い続けてくれた火賀。そのふたりが「赤月の日」に入れ替わってしまい、困惑するあゆみだったが……。一方、美しい容姿も恋人も手にしたはずの然子は絶望を深めていき……。愛されるべきは、外見か、中身か。衝撃のクライマックス。

安藤ゆき(アンドウユキ)
安藤ゆき

2004年にデラックスマーガレット(集英社)にて、「星とハート」でデビュー。2009年に短編集「不思議なひと」を刊行する。2014年に上梓した短編集「透明人間の恋」が、「このマンガがすごい!2014」のオンナ編17位にランクイン。2015年にも短編集「昏倒少女」を発表する。同年より別冊マーガレット(集英社)にて、「町田くんの世界」を連載中。

川端志季(カワバタシキ)
川端志季

別冊マーガレット2012年9月号(集英社)に付属の別冊ふろくbianca1 1/2にて「08:05の変顔さん」でデビュー。その後もコンスタントに読み切りを発表し、2014年に短編集「青に光芒」を発表。別冊マーガレット2014年10月号から2015年12月号まで「宇宙を駆けるよだか」を連載した。