コミックナタリー Power Push - 安藤ゆき「町田くんの世界」川端志季「宇宙を駆けるよだか」

別マの異色2タイトルが「このマンガがすごい!」入賞! 次世代を担う2作家を直撃

登場人物だけでなく、読者も本気で町田くんの虜にしたい

──「このマンガがすごい!2016」には別冊マーガレットから、「町田くんの世界」に加えて、川端志季先生の「宇宙を駆けるよだか」も上位にランクインしています。

そうなんですよね。「よだか」は序盤の展開が面白くてグイグイ引き込まれました。

──今回交換質問という形で、おふたりにお互いに聞いてみたいことを、事前に1つずつお伺いしました。川端先生からは「別マという雑誌で連載する上で意識されていることは?」という質問をいただいています。

「町田くんの世界」カラーカット

うーん、男の子をカッコよく描くことですかね。ここ何年かでやっと気づいたことなんですが、別マ的少女マンガのポイントはそこなんだって、もっと早く気づきたかったです。誰も教えてくれないんだもん(笑)。

──主人公を男子にしたのはそれが理由ですか?

そうですね。「人を魅了する」キャラを描くんだったら、男の子のほうがやりやすいだろうと思って。でも、当初は町田くんは主人公ポジションにはしないつもりだったんです。毎回違う主人公を登場させて、そこに関わらせるという形式を考えていて。編集さんに、絶対町田くんを主人公にしたほうがいいと言われて変えたんですけど。

──そちらのお話も見てみたいですね。

ただ町田くんって、主人公として描くのはとても難しいんです! キャラクターって思い悩んだり慌てたりする中からドラマが生まれるわけじゃないですか。町田くんは動じないので、最初のうちは苦労しました。

教師に指された町田くんは「わかりません!」と堂々と回答する。

──あまり感情を表に出すタイプのキャラクターではないですが、どの話にも必ず町田くんのグッとくるセリフがありますよね。

もちろんそれがこの作品の核なので、1話にひとつは町田くんが人を落とすようなセリフを作ろうと思ってます。

──何気ない場面でもキュンとくるセリフがいっぱいあります。たとえば授業で指されて真面目な顔で元気よく「わかりません!」という町田くんには思わず笑ってしまいました(笑)。

わからないことを恥じないんですよね。ストレートなんです、基本。

──町田くんにほのかな好意を寄せている、猪原さんに「俺がかまってほしいんだ」とドキッとするようなセリフを何気なく言ったり、ヤキモキする場面もありますが。

町田くんと猪原さんのやりとり。

あれは自分だったらこんなこと言われたらうれしいなという側面と、どう言ったら説得力があるかなという町田くんの側との両面から考えたセリフです。恋に鈍いからこそ言ってしまうという部分もあるんですよね。町田くんは誰にでも家族のように接する距離感の人なんだと思います。

──読者の方からは、どんな感想が寄せられていますか?

優しい気持ちになれるとか、町田くんがいたらいいのにとか。どこかに町田くんが実在してるように捉えてくれてるんだなと感じます。読者のみなさんに町田くんを好きになってもらいたいと思って描いているので、そういう感想をいただけてすごくうれしいです。

──作中の登場人物も読者も、同様に虜にするわけですね。

そこは最初から狙いにしているところです! やっぱりこういうキャラクターを描いている以上、劇中のキャラクターだけでなく、読者も本気で魅了したいと思っているので。

愛と恋の違いについて悩む町田くんを描きたい

安藤ゆき

──町田くんの言葉って癒されるだけじゃなく、影響される部分も多いと思うんです。「こんな人がいてくれたらいいな」と思って、それから「自分も町田くんみたいになれたら」と。

なりたい、という感想は私としては意外なんですけど、そういう声もいただきますね。

──町田くんは苦手なことが多いですが、それをコンプレックスにしていないですよね。勉強ができなくて、それでいいと開き直っているわけではないけど、ひがんでもいない。努力はするけど、できない自分を受け入れている。

町田くんは愛によって支えられてるから、ダメなことがあったとしても自分の存在意義に疑問を持たなくて済んでいるんだと思います。だからこそ他人を見るときも優劣をつけないんですね。

町田くんと叔母のやりとり。

──第5話には「周りに支えられてこその町田くんなのです」というモノローグもありましたね。ここを読んだとき、この作品は町田くんが周りに幸せを与えるだけの話じゃなくて、周りからたくさんの愛をもらっているという意味も込めて、「町田くんの世界」っていうタイトルがつけられたのかなと思ったんですが。

タイトルは「町田くんが存在する世界」っていうつもりでつけていて。町田くんが存在すると、周りの人は救われるみたいな意味で。今となってはいろいろな意味に解釈できると思うんですけど。彼のように無条件に人を愛せるっていうのは幸福の証で、それは周囲に支えられてこそなんですよね。

──安藤先生自身も、町田くんのような視点から世界を見ているんでしょうか。

どうでしょう……でも、私も人は好きですね。人を好きでいると、人から嫌われることって少ないと思うんです。そういう考えは作品に反映されている気がします。

町田くんはひょんなことから幼稚園時代の恩師と、ウェディング写真を撮ることになる。

──なるほど。町田くんは同級生にもモテてますが、年上女性もキュンキュンさせまくってますよね。婚活に失敗した幼稚園の先生と一緒にウェディング写真を撮るエピソードは、未婚女性が「こんな子が周りにいたら!」と身もだえる話だと思います。

友達にもそう言われましたね(笑)。この話は、まずウェディングドレス姿の女性と町田くんが並んだ絵が思い浮かんで。そこから肉づけしていってできたんです。絵的につかみがあるシーンがあると面白くなりそうなので。

──そんなふうに話を作っていくんですか。妙齢の女性以外にも、いろいろな世代の読者が多そうな作品だという印象も受けました。

70代の男性から感想をいただいたこともあるんです。「孫に読ませようと思います」と書いてありました。

──リアルでも老若男女にモテていると。では今後の展開についても聞かせてください。作中では町田くんが「恋とは?」という問いと向き合い始めましたが。

恋について思いをめぐらせる町田くん。

町田くんの恋は描こうと思うんですが、がっつり恋愛っぽい話になるかはまだわからないです。当初は長くて2巻で終わらせる予定だったので、まるで考えてなかったのですが、長く続くならそれなりのテーマ性がほしいと思って。今考えているのは、愛と恋の違いについてを町田くんが悩んでくれたらいいかなと。愛は見返りを求めないけど、恋は見返りを求めてしまうから。

──わっ、サラッと本質を突きますね。

そうですか!? 町田くんが恋を知って人間くさくなったら面白いかなと思ったりして……。

──これまで家族的な愛情をベースに「人が好き」と自認していた町田くんが、初めての感情にうろたえるところを見てみたいですね。

町田くんがどうしたら恋をするかというロジックについて、ずっと考えてきたんですけど、最近ようやくその道筋が見えてきました。今は秘密にしておきますが、そのあたりも楽しみにしていてください。

安藤ゆき「町田くんの世界」2巻 / 発売中 / 432円 / 集英社
「町田くんの世界」2巻

物静かでメガネ。そんな外見とは裏腹に成績は中の下。アナログ人間で不器用。なのに運動神経は見た目どおりの町田くん。そんな彼に弟が出来たり、告白する女の子が現れたり、初恋の人が現れたり……。人を愛し、人から愛される町田くんの第2巻です!

万丈梓「変則系クアドラングル」2巻 / 発売中 / 648円 / ほるぷ出版
「町田くんの世界」2巻

あゆみと距離を置くかつての恋人・水本、そしてそばに寄り添い続けてくれた火賀。そのふたりが「赤月の日」に入れ替わってしまい、困惑するあゆみだったが……。一方、美しい容姿も恋人も手にしたはずの然子は絶望を深めていき……。愛されるべきは、外見か、中身か。衝撃のクライマックス。

安藤ゆき(アンドウユキ)
安藤ゆき

2004年にデラックスマーガレット(集英社)にて、「星とハート」でデビュー。2009年に短編集「不思議なひと」を刊行する。2014年に上梓した短編集「透明人間の恋」が、「このマンガがすごい!2014」のオンナ編17位にランクイン。2015年にも短編集「昏倒少女」を発表する。同年より別冊マーガレット(集英社)にて、「町田くんの世界」を連載中。

川端志季(カワバタシキ)
川端志季

別冊マーガレット2012年9月号(集英社)に付属の別冊ふろくbianca1 1/2にて「08:05の変顔さん」でデビュー。その後もコンスタントに読み切りを発表し、2014年に短編集「青に光芒」を発表。別冊マーガレット2014年10月号から2015年12月号まで「宇宙を駆けるよだか」を連載した。