コミックナタリー Power Push - 「黒執事 Book of the Atlantic」

人気キャラが総登場で大騒ぎ! まさに“劇場版”な「豪華客船編」の裏話を原作サイドが明かす

枢やなのマンガ力が格段に上がったという「豪華客船編」

──回想シーンでキャラクターの内面が深く描かれて、アクションもあって、さらにはゾンビや豪華客船という設定と、とにかくてんこ盛りな章だなと思います。

なんだか偉そうな言い方ですけど、この章で枢さんはめちゃくちゃ上手くなりましたね。全体的なマンガ力がすごく上がったと思います。

──成長があったんですね。

豪華客船・カンパニア号に乗り込むシーン。

やっぱり表現したい欲求がすごくあって。「サーカス編」はどちらかと言うと彼女の中にある、一番得意な分野だったんですね。ゴシックとかサーカスとかって、独自のビジュアル表現で読者の想像を喚起させる手法を取ることができる。でもその要素がない「豪華客船編」は画面上にしっかりレイアウトして描いたものだけが事実としてそこに成立していく。つまり1回は、豪華客船を全部まるごと写実的に描かないといけないし、アクションシーンも武器の設定やパンチ・キックの殺陣の段取りを現実的に表現しないといけない。いわゆる青年誌系が得意な分野で、Gファンタジー系では苦手とされている分野です。そういったことをこの章ですごく学んで、チャレンジしていっている。それは「やらなきゃいけない」と自分で決めたがゆえに。この章から、コマ割りも、いわゆる一般的なコマ割りとチャレンジ的なものが交互に使われていますね。

想像以上にパワフルだったドルイット子爵

劇場版「黒執事 Book of the Atlantic」より、田村ゆかりが演じるエリザベス。

──エリザベスが鍵となるストーリーだということで、彼女についてもう少し聞かせてください。アニメでは田村ゆかりさんが演じられていますが、今までは高い声が特徴だったのに対して、戦闘シーンとなるとやはり凄みのある演技で驚きました。

これ、両方やっていただいたんですよ。今までのキャラクターの声を維持して戦いの演技を吹き込んでいくのか、カッコいい男前な少女という声にゴロッと変えるのか、またはその相中を取っていくのか。いろいろ試行錯誤していただいて。アフレコに枢さんも立ち会ってくれたんですが、やはり描いてる側としてはカッコよくやってほしいと言っていたので、それに田村さんが応えてくださったって感じですね。

──リクエストがあってのあの演技だったんですね。田村さんにはどんな印象をお持ちですか?

声優さんって、僕らは録音ブースで並んでいる背中しかほとんど見ていないですけど、いろんなタイプがいらっしゃいますよね。叫ぶときに本当に大変そうに顔を上にあげて叫ぶ方とかもいますけど、田村さんは「本当に今この方が声を出しているのかな」って感じで、綺麗にスッと立ったまま全演技をされている背中の印象があって。やはり天才さを感じます。もちろんオーバーアクションで全身で演技される方も好きですけど、田村さんには何か神がかった感じがありますね。

劇場版「黒執事 Book of the Atlantic」より、鈴木達央が演じるドルイット子爵。

──ドルイット子爵は、鈴木達央さんの演技を見てキャラクターがどんどん変わっていったと前のインタビューでもおっしゃっていましたけど(参照:ミュージカル「黒執事」特集、枢やな担当編集・熊剛氏インタビュー)、まさにこの「豪華客船編」でキャラクターが開花したように思います。

まったくその通りですね。「豪華客船編」の筋と舞台設定を考えて、葬儀屋、エリザベス、グレルとロナルドという死神2人と、そこに登場すべきメンバーが決まった段階で、基本的にこの章の狙いは全部できていたんです。なのでそのまま船は出航してよかったんですけど、誰も傷つかないでもう1人増やせるなと(笑)。

──誰も傷つかないで(笑)。

何も背負ってないですし(笑)。これが例えば劉だったりすると、やっぱり彼は底知れないものがあったりするし、劉と死神が戦う場所にいたらどうなるかというと想像し難いことになってきたりするんですけど、ドルイット子爵が増える分に関してはなんの問題もないなと。それはまさにアニメのおかげですね。ドルイットは「医者でいらんことしてた奴」という当初の設定が、医学を突き詰めたアウローラ学会のリアン・ストーカーとハマったから登場させたんです。あのフェニックスのポーズも含めて序盤のコメディリリーフ役を担ってくれれば、彼の役目はそこで終わりだったんですよ。あとは先ほどの「グリーン・ホーネット」演出のシーンで、ゾンビに襲われたりしてるときに面白ければいいなくらいで。

──ちょっとしたスパイス的なキャラだったんですね。

ドルイット子爵に向けて、全員の敵意がひとつになるシーン。

ドルイット以外のキャラクターが重要すぎたので。一番面白かったのは、僕たちが思ってる以上にドルイット子爵はパワフルだったというか、キャラが濃かった。というのも、枢さんが作るキャラって全員空気を読まない、いわゆるKYなんですよ。つまり自分と自分が大切な人以外興味がないんで、絡ませたり感情を変えたりするのが難しいんです。それなのに、クライマックスシーンまで出張ってきたドルイットが全員をひとつにしますし、ドルイットがきっかけで事件がどんどん大きくなるようなスイッチにもなっていたので。ああ、やっぱり濃いなと。

──全員の敵意がドルイットに向けて、ひとつになりました(笑)。

僕と枢さんは「キャラが降りてきた」とか「生きてるんです」っていう人のことは信じてなかったんですけど、それはキャラクター設定を守ってシミュレーションしていくと、そう動かざるを得ないっていうことなんだなというのが、この章でわかりましたね。

──アニメから影響を受けてキャラクターが成長していくというのは素敵なことですね。

「黒執事」に関しては、原作の足元がまだふわついてるときにアニメを同時にやっていたので。もちろん枢さんの中に確固たるものはありますけど、原作が先にあって、アニメはそれを元にしたものっていう感覚はファンの中にもあまりないんですよね。なあなあな意味ではなく共同体というか。

Contents Index
「黒執事」担当編集・熊剛氏 インタビュー
主題歌アーティスト・シド インタビュー
小野大輔(セバスチャン・ミカエリス役)×坂本真綾(シエル・ファントムハイヴ役)対談
劇場アニメ「黒執事 Book of the Atlantic」2017年1月21日(土)全国ロードショー
劇場アニメ「黒執事 Book of the Atlantic」
あらすじ

19世紀英国──名門貴族ファントムハイヴ家の執事セバスチャン・ミカエリスは、13歳の主人シエル・ファントムハイヴとともに、“女王の番犬”として裏社会の汚れ仕事を請け負う日々。ある日、まことしやかにささやかれる「死者蘇生」の噂を耳にしたシエルとセバスチャンは調査のため、豪華客船「カンパニア号」へと乗り込む。果たして、そこで彼らを待ち受けるものとは──。

スタッフ

原作:枢やな(掲載 月刊「Gファンタジー」スクウェア・エニックス刊)
監督:阿部記之
脚本:吉野弘幸
キャラクターデザイン・総作画監督:芝美奈子
音楽:光田康典
制作:A-1 Pictures
配給:アニプレックス

キャスト

セバスチャン・ミカエリス:小野大輔
シエル・ファントムハイヴ:坂本真綾
エリザベス・ミッドフォード:田村ゆかり
葬儀屋:諏訪部順一
グレル・サトクリフ:福山潤
ロナルド・ノックス:KENN
ウィリアム・T・スピアーズ:杉山紀彰
スネーク:寺島拓篤
バルドロイ:東地宏樹
フィニアン:梶裕貴
メイリン:加藤英美里
チャールズ・グレイ:木村良平
チャールズ・フィップス:前野智昭
エドワード・ミッドフォード:山下誠一郎
フランシス・ミッドフォード:田中敦子
アレクシス・ミッドフォード:中田譲治
ドルイット子爵:鈴木達央
リアン・ストーカー:石川界人
ほか

枢やな(トボソヤナ)
枢やな

1984年1月24日埼玉県生まれ。2004年月刊Gファンタジー(スクウェア・エニックス)にて「9th」でデビュー。2005年、同誌にて「Rust Blaster」を初連載する。2006年からは「黒執事」を連載し注目を集め、2007年にドラマCD化、2008年にテレビアニメ化、2009年に舞台化、2014年に実写映画化を果たした。

熊剛(クマタケシ)

2001年、エニックス(現:スクウェア・エニックス)に入社。同年より月刊「Gファンタジー」編集部に配属される。これまでの主な担当作品に「デュラララ!!」「魔法科高校の劣等生」「ZOMBIE-LOAN」、テレビアニメ「革命機ヴァルヴレイヴ」(副シリーズ構成として参加)がある。


2017年1月27日更新