コミックナタリー Power Push -「甲鉄城のカバネリ」総集編

次回作にもつながる“フィジカルに訴える”総集編

昔のよきアニメを現代の技法で磨いた「甲鉄城のカバネリ」

澤野弘之

──澤野さんは視聴者として「甲鉄城のカバネリ」をどう観られていましたか?

澤野 まず、テレビアニメであのクオリティでやれるのはすごいなと。あと僕が特にアニメを観ていたのが高校から20代前半の頃なんですけど、今流行っているアニメというよりは、当時やもう少し前のアニメを思い出す雰囲気でよかったですね。それは美樹本晴彦さんの絵の力も大きいのかもしれないですけど。

荒木 絵的にもそうですし、登場キャラクターが中高生くらいの人物だけでなく子供も大人もいるというのも含めて、あえて1980年代っぽさを出しています。自分が好きだった富野(由悠季)監督の「機動戦士ガンダム」の影響なのは間違いないんですけど。「甲鉄城のカバネリ」は昔のオーソドックスなアニメを、現代の技法でブラッシュアップして見せるというのもテーマのひとつでした。

「甲鉄城のカバネリ」ではキャラクターをより魅力的に見せるために化粧のような効果を足す、メイクアップという手法が一部で使われた。
「甲鉄城のカバネリ」ではキャラクターをより魅力的に見せるために化粧のような効果を足す、メイクアップという手法が一部で使われた。

澤野 そうそう! 僕が劇伴作家を目指し始めたときにものすごく影響を受けたのが「もののけ姫」だったんですが、あの作品の昔の日本みたいな舞台イメージと「甲鉄城のカバネリ」の雰囲気って似ているところがあって。「自分もそういう世界観の作品に曲を作れたんだ」と後になって気付きました。

荒木 確かに「もののけ姫」における、昔の日本っぽさの表現には影響を受けていますね。昔そのものを描くということではなく、今のアニメとして自然だったりカッコよかったりするように微妙にアレンジしてるんです。たとえばキャラクターの髪型は、今のアニメに登場させるとしたらありかどうかで判断しましたし。

──澤野さんがお好きなシーンは?

澤野 ベタかもしれませんが、3話の生駒が妹を助けられなかった過去を無名に語るシーンです。僕、家族ものに弱いんですよ!「進撃の巨人」のミカサの過去なんかもそうでしたし、すぐに感情移入しちゃいます。

澤野弘之、荒木哲郎がともにお気に入りとして挙げた、生駒の回想シーン。

荒木 自分もあそこは大好きですね。まず畠中(祐)さんの芝居がいい。彼は真実味のある声で、あそこの独り言のようなセリフに、生駒が本当に鬱々と生きてきたという歴史を吹き込んだんです。そこに澤野さんからいただいた曲の中でも一番静かな「克JOU気MACHINE甲」がマッチして。劇場版でも、ほかのシーンはガッツンガッツンとアガるのに、あそこで急に静けさが染み入ってきて、とてもいい感じです。

映画館のスピーカーを壊すつもりで、フィジカルに響かせる

荒木哲郎

──劇場版は総集編ですが、どのような方針でまとめられましたか?

荒木 総集編を作るときはいつも同じですが、初めて観た人もきちんと話がわかること、元の作品を観た人と同じくらい感動できることを目標にしています。あと、ちゃんと短くまとめるということも気にしています。俺はアニメの映画が長いと疲れると思っているので。

──音響は5.1chになります。おふたりは5.1chについてどんな印象をお持ちですか?

澤野 テレビだと聴こえない音も、映画館である程度の音響で聴くと「こういう構成になっていたんだ」「こういう音が鳴っていたんだ」と思ってもらえるのでありがたいです。それが5.1chになると、特に低音がよく出るおかげで迫力が増すので、その辺は「甲鉄城のカバネリ」でも楽しめると思います。

高い戦闘技術を持つ無名。

荒木 俺は技がひとつ増える感覚ですね。よりすごくしたい、よりエモーショナルにしたいときに、もう1手使えるという感覚です。テレビシリーズだとスピーカーが2つしかないから音が増やせないという場面でも、5.1chだと後ろにもスピーカーがあるから入れられる音を増やして、よりエモーショナルに、よりフィジカルに響かせられるんです。だから総集編でも印象的なシーンとかは「映画館のスピーカーを壊すつもりで」なんて音響のスタッフにオーダーしました(笑)。そのおかげで、超いい感じに仕上がっていますよ。「これ、墓に入れるわ、俺」って思いましたね。自分で作っておきながら上手く説明できないですけど……とにかく観てほしいです(笑)。

「『甲鉄城のカバネリ』総集編」

「甲鉄城のカバネリ」公式サイト

産業革命の波が押し寄せ、近世から近代に移り変わろうとした頃、世界はカバネと呼ばれる不死の怪物に覆い尽くされる。極東の島国・日ノ本の人々は、各地に駅と呼ばれる砦を築き、蒸気機関車、通称・駿城(はやじろ)を使い駅の生産物を融通しあうことで生活を保っていた。

そんなある日、カバネを倒すための武器「ツラヌキ筒」を独自に開発する蒸気鍛冶の少年・生駒は不思議な少女・無名と出会う。その夜、カバネに乗っ取られた駿城が生駒の暮らす顕金駅へと暴走しながら突入してきた。パニックに襲われる人々の波に逆らうようにして、生駒は走る。今度こそ逃げない、俺は、俺のツラヌキ筒でカバネを倒す!

前編「集う光」2016年12月31日(土)、
後編「燃える命」2017年1月7日(土)より
それぞれ2週間限定全国公開

スタッフ
  • 監督:荒木哲郎
  • シリーズ構成・脚本:大河内一楼
  • キャラクター原案:美樹本晴彦
  • アニメーションキャラクターデザイン・総作画監督:江原康之
  • 音楽:澤野弘之
  • アニメーション制作:WIT STUDIO
キャスト
  • 生駒:畠中祐
  • 無名:千本木彩花
  • 菖蒲:内田真礼
  • 来栖:増田俊樹
  • 逞生:梶裕貴
  • 鰍:沖佳苗
  • 侑那:伊瀬茉莉也
  • 巣刈:逢坂良太
  • 吉備土:佐藤健輔
  • 美馬:宮野真守
荒木哲郎(アラキテツロウ)

1976年11月5日生まれ、埼玉県狭山市出身のアニメーション監督・演出家。マッドハウスに入社後、「ギャラクシーエンジェル」シリーズなどの演出や絵コンテを手がける。2005年にOVA「おとぎ銃士 赤ずきん」で監督としてデビュー。その後「DEATH NOTE」「学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD」「ギルティクラウン」「進撃の巨人」「甲鉄城のカバネリ」などの監督を担当。最新監督作として「甲鉄城のカバネリ」総集編前編「集う光」が2016年12月31日、後編「燃える命」が2017年1月7日よりそれぞれ2週間限定で公開される。次回作は総監督を務める「進撃の巨人 Season2」。

澤野弘之(サワノヒロユキ)

1980年生まれ、東京都出身の作曲家、編曲家。「医龍」シリーズや、「アルドノア・ゼロ」「進撃の巨人」「キルラキル」「機動戦士ガンダムUC」シリーズなど、ドラマ、アニメ、映画など映像作品のサウンドトラックを中心に、楽曲提供や編曲をするなど精力的に音楽活動を展開している。2014年春からはボーカル楽曲に重点を置いたプロジェクト、SawanoHiroyuki[nZk]を始動。2016年5月にアニメ「甲鉄城のカバネリ」のサウンドトラック、6月にSawanoHiroyuki[nZk]名義でアニメ「機動戦士ガンダムユニコーン RE:0096」のオープニングテーマおよびエンディングテーマを収録したシングル「Into the Sky EP」、7月にはデジタルシングル「CRYst-Alise EP」をリリースした。