ナタリー PowerPush - ヘルタースケルター

岡崎京子担当編集が明かす連載当時と、蜷川実花監督が語る原作への思い入れ

骨組みは原作に近くても、最終的な印象が違う

──原作と映画の距離感はどのように捉えていますか。

蜷川監督

「原作まんまだね」と言われることもあれば、「全然違うよね」と言われることもあります。「原作まんま」というのはきっと台詞はほとんど原作にあるものを使っているからでしょうね。一方で、自分の好みや間合いでこうしてほしいああしてほしいと重ねていくうちに、原作からどんどん離れていったので、骨組みは原作に近くても、最終的な印象が違うというのも本当そうだなと思います。

たとえば一番最後のシーンも、ト書きだけ見ればほとんど同じですが、でもほんのちょっと、こずえが負けた顔をしている、原作より。りりこは堂々とこずえを見てほしかったし、そこでちょっと笑ってほしかった。私はハッピーエンドの話だと思っていて、だから彼女はなにものにもとらわれない所に行けたって話にしました。原作はもうちょっといろいろな意味にとれる終わり方にしてありますよね。そこが実は全然違うところかなと思います。

──女性陣のキャスティングは完璧ですよね。2012年に日本で公開される映画として、とくにりりこ役とこずえ役は他に考えられない人選だと思います。モデルにしては背が小さいかもというのはあるにせよ、そこが気になるタイミングは映像にありませんでした。

りりこは女の子全員がひれ伏すくらい圧倒的に顔がかわいいということが重要だと思っていました。女の人ってちょっとでもかわいくないと「全然かわいくないじゃん」って物語に入っていけないと思うので。雰囲気美人とか人によって好みがわかれる顔じゃなくて、「好き嫌いはともかく顔はかわいいよね」というくらいの人じゃないと成立しない。あと、やっぱりすごく難しい役なので演技力があって、かつ濡れ場も絶対避けられない作品になるのはわかっていたので、それを受けてくれる女優魂のある人で、さらに20代後半まではいかない若い女の子……というと、もうエリカしかいなくて。役も彼女を呼んでいたと思うし、一緒にできたのがエリカでよかったと思います。

水原希子扮するこずえ。

でもそれと同じくらいこずえ役は重要で、りりこがこういう人なんですとわかるためには、対極のこずえも存在感がないとダメ。「りりこは沢尻さんがいいんじゃないかしら?」と思ったのとほぼ同時くらいに「こずえは水原希子だよね?」と思いました。希子はずっと撮っていて知っていましたから、早い段階から「こういう映画撮るからやって」って半ば命令口調で(笑)。それで希子もマンガを読んだら「すっごくこずえに共感する」と言ってやりたがってくれたので。他の人もイメージがあってうまくハマっていったというか、こうかなあ、ああかなあと楽しい作業でした。

原作を意識すると動けなくなっちゃうので、そこは全然気にしてない

──原作と舞台設定を変えてるシーンがいくつかありますよね。その演出意図はなんですか?

たとえば妹と会うシーンならビジュアル的に綺麗な場所に行って撮った方がいいかなと。実際、りりこが自然光にあたるシーンは、こことビルの上で泣くシーンだけで、ビルは人工的な場所なので、唯一、自然の中にいる場面。自然光の中にりりこがいるとびっくりするんですよ、違和感があって(笑)。そこだけがりりこの本心みたいなものが垣間見えるシーンだったので、そういうのもいいかなと。でも実際に撮っている時は「これって『寅さん』のワンシーンにしか見えないよね……?」なんて言ってて(笑)。本当にこれでよかったのかなと編集中は不安でしたが、音楽がついて一本の流れに収まったら、狙ったところにちゃんと落ちたかなと思いました。

りりこが妹と会うシーン。

──そういった変更は原作ファンからすれば違和感を持つ部分で、慎重になる監督さんもいると思いますが、その辺りは意識しましたか?

意識すると一歩も動けなくなっちゃうので、そこは全然気にしていないです。そうでないと岡崎作品なんてできないですよ……(笑)。もともと「なんでもいいから映画を撮りたい」わけじゃなくて、「ヘルタースケルター」を撮りたかったわけだから、原作と違ってくるのは当り前だと思っています。

──そうした意志は映像に表れていると思います。

いろんな意見はあると思いますが、原作に寄りすぎて面白くなくなってしまった作品って沢山あると思うんです。ただ、私は私で原作がすごく好きで、原作ファンが怒ろうとしても、私はこれが好きなんです! と言えるものを作ろうと思っていたので。そこを観てもらえると嬉しいです。

映画「ヘルタースケルター」予告編

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映画「ヘルタースケルター」

原作は第8回手塚治虫文化賞マンガ大賞に輝く、岡崎京子によるマンガ。岡崎作品として、初の映画化となる。岡崎は1996年、交通事故に遭って以来、執筆活動は行なっておらず、「自分の作品が演者を通してどう昇華されていくのか、大変興味深く見守りたい」とコメントしている。監督は、世界的フォトグラファーであり、初監督作品「さくらん」がベルリン国際映画祭に正式出品、大ヒットを果たした蜷川実花。本作の映画化に宿命を感じ、約7年の歳月を重ね、ついに念願を果たす。

試写会には、数々の著名人が足を運んだ。村上隆、向井理、松田翔太、熊田曜子、千秋、中田英寿など、多くの著名人がTwitterやブログでも絶賛のコメントを寄せている。一部のコメントは公式サイトに掲載されている。

大ヒット上映中!

あらすじ

芸能界の頂点に君臨するトップスターりりこ。しかし、りりこには誰にも言えない秘密があった――。彼女は全身整形。「目ん玉と爪と髪と耳とアソコ」以外は全部つくりもの。その秘密は、世の中を騒然とさせる“事件”へと繋がっていく――。整形手術の後遺症がりりこの身体を蝕み始める。美容クリニックの隠された犯罪を追う者たちの影がちらつく。さらには、結婚を狙っていた御曹司の別の女との婚約スクープ! 生まれたままの美しさでトップスターの座を脅かす後輩モデルの登場。そして、ついに……!
りりこが“冒険”の果てに辿りつく世界とは? 最後に笑うのは誰?

キャスト

沢尻エリカ、大森南朋、寺島しのぶ、綾野剛、水原希子、新井浩文、鈴木杏(友情出演)、寺島進、哀川翔、窪塚洋介(友情出演)、原田美枝子、桃井かおり

スタッフ

監督:蜷川実花 脚本:金子ありさ
原作:「ヘルタースケルター」(祥伝社フィールコミックス)
音楽:上野耕路
テーマ・ソング:浜崎あゆみ「evolution」(avex trax)
エンディング・テーマ:AA=「The Klock」(SPEEDSTAR RECORDS)
製作:映画「ヘルタースケルター」製作委員会
制作プロダクション:アスミック・エース エンタテインメント シネバザール
配給:アスミック・エース
©2012映画「ヘルタースケルター」製作委員会

「ヘルタースケルター 映画・原作 公式ガイドブック」 / 2012年7月6日発売 / 1260円 / 祥伝社

沢尻エリカ主演×蜷川実花監督で映画化された、岡崎京子の傑作コミック「ヘルタースケルター」の映画・原作公式ガイドブック。 映画と原作コミックのシーンを比較する「場面比較集」や、桜沢エリカ、安野モヨコをはじめとする人気作家の豪華イラスト寄稿など、ここでしか見られない企画が満載。 監督、主演、主要キャストのインタビューから、後藤繁雄、中森明夫によるスペシャルコラムまで、映画と原作を同時に楽しめる充実の内容。 蜷川監督の撮影によるフォト満載。映画ファン、原作ファン必見の1冊!

ばるぼら「岡崎京子の研究」 / 2012年7月11日発売 / 1680円 / アスペクト

岡崎京子は日本のカルチャー史に何を遺してきたのか?

1980年代から1990年代半ばにかけて活動し「pink」「東京ガールズブラボー」「リバーズ・エッジ」「ヘルタースケルター」を生んだマンガ家・岡崎京子の軌跡をほぼ網羅した研究資料集成。デビュー以前から事故後までを解説と年表で読み解く全6章。初心者から長年の愛読者まで、21世紀の岡崎京子研究の基本文献となるでしょう。