コミックナタリー PowerPush - 福山リョウコ「覆面系ノイズ」

叫びだしたい恋心をバンドサウンドに乗せて

納得できるまで絶対にネームに進まない

──なるほど。ニノもですが、ほかのキャラクターも個性がとても強いなと思いまして。ダジャレ言うメガネイケメンにオネエ、関西弁……。

ユズはメインの男の子なのにチビっていうのが個人的な萌えポイントです(笑)。あと一人称が「僕」なキャラもメインでは初めて描くかな? 今回はキャラクターの属性を連載前にしっかり考えました。今までキャラ設定をそこまで深く考えず描いてきて、性格が被って苦労したりすることが頻繁にあったので。

──たとえば誰と誰がですか?

別れから6年間、モモのことを思い続けているニノ。

たとえば「モノクロ(少年少女)」の右京と呉羽は、描いてて楽しい反面ツンデレ×ツンデレで難しい面もありました。以前南マキ先生がHMC(花とゆめの漫画スクール)で「正反対の性格のキャラを合わせないと面白くならない」と書かれていて、「それだ!」ってすごく納得したんですよね。理解していたつもりで深くはできていなかったんです。とにかくそれを頭に置いて、今回は性格分けを意識しました。キャラに留まらず「覆面系」では、とにかく全部納得できるまで徹底して考え尽くすことにしてます。

──考え尽くす?

たとえばいままではプロットを数時間で作って、ネームも1日で終わってたところを、「覆面系」ではプロットに2、3日、ネームも2、3日掛かってます。

──これまでの3倍くらい。

「覆面系ノイズ」第6話扉絵。

前はプロット段階で気になるところがあっても、ネームでうまくいくかもしれないからと思ってひとまずネームに取りかかってたんです。でも今回は完全に納得したプロットができるまでは、絶対に進まないことに決めています。

──ストイックですね。

なんでですかね、遺作かっていう勢いで(笑)。でも他の作家さんはきっとこれが普通なんだと思います。気付くのがだいぶ遅くなりました。これまで2作連載して反省点が山のようにあって、その山を経験したからこそ描けるものがあると思ってるんです。今回はできるかぎり自分に厳しくいってみようかなと。いままでももちろん後悔しないようにって思ってきましたけど、「覆面系」はその気持ちが何倍も強いですね。

ロゴ、カバーまで「納得したいから」自らデザイン

──今回タイトルロゴと、単行本のカバーデザインまでご自身で手がけていますよね。驚きました。

どうしてもやりたくてやってしまいました(笑)。ロゴは、「モノクロ」のときも作って、誌面の仕上がりが自分で想像できるのがすごくうれしかったんですよ。タイトルロゴって普通、雑誌に載って世に出るまで基本的に編集さんとデザイナーさんにお任せなんです。

──そうなんですか。

左が伝統的な花とゆめコミックスのデザイン(「悩殺ジャンキー」1巻)、右が6月より導入されている新デザインの「覆面系ノイズ」1巻。

なので、昔から自分で作りたくてウズウズしてました。単行本のカバーもずっとやってみたかったので、花とゆめコミックスの装丁が自由化したのはうれしいタイミングでした。最初は表1だけのつもりが、裏面もやりたくなっちゃって……結局全部作りました(笑)。帯もコピーなどの文面はすべて担当さんに作ってもらったけど、デザインは自分で。

──花とゆめコミックスといえばトラディショナルな四角い枠がトレードマークだったけど、6月から全面にイラストを配置した新デザインが登場したんですよね(注:一部タイトルは旧デザインのまま刊行中)。

新デザインでは表1の帯の掛かる部分に、著者名、作品タイトル、巻数を入れちゃダメっていう規定があるんですよ。それを知りつつも無視して、一番下までタイトルが入るデザインを作ったら、まんまと却下され(笑)。

──あはは(笑)。

押し切っちゃおうと思ったんだけど、担当さんが会議で強く「ダメですよ!!」って怒られたらしくて。完成までに21パターンくらいボツにして、いまの形に落ち着きました。

ボツとなったカバーデザインの一部。

──マンガを描くのと並行してのデザイン作業、どれくらいで完成しましたか?

ラフを切りはじめたのは6月なので、ええと……4カ月くらいか。気合い入りすぎですね(笑)。このカバーのラフも、色味のパターンが違うやつ3個と、ロゴのふちが違うやつ3個と、あと3種類くらい……とにかくたくさんのものを担当さんにまた一気にバーッと送っちゃったりして。かなり気持ち悪がられてると思いますが、考えついたら止まらなかったです。

──そこまで福山さんを掻き立てるものってなんでしょう。

うーん……とにかく、納得したいんですよね。「もっとこうできたはず」って後から思うのが嫌で。もともとお休みのときもずっとマンガのことを考えてるくらい好きなんですが、特にこの作品への思い入れは強いです。もはや執念? 本当に、感情を抑えきれず叫びだしちゃうニノに近い状態で描いてるかもしれない。ニノだけじゃなく作中のキャラクターたちは皆強い思いを持っていて、何かに向けて邁進してる人ばかりなので、読者さんにはその思いの強さを見ていただけたらうれしいです。

福山リョウコ「覆面系ノイズ(1)」 / 2013年10月18日発売 / 450円 / 白泉社
福山リョウコ「覆面系ノイズ(1)」
あらすじ

歌が大好きなニノは、幼い頃2つの別れを経験する。
1つは初恋の相手・モモ。もう1つは曲作りをする少年・ユズ。
いつの日かニノの歌声を見つけ出す……2人と交わした約束を信じてうたい続けてきたニノ。
時はすぎ、高校生になった3人は……!?
花とゆめで超大人気「音楽×片恋」ストーリー!!

福山リョウコ(ふくやまりょうこ)
福山リョウコ

和歌山県出身。2000年にザ花とゆめ(白泉社)に掲載された「カミナリ」でマンガ家デビュー。2003年に花とゆめ(白泉社)で10代のモデルを主人公とした「悩殺ジャンキー」の連載を開始、同作がヒットし代表作となる。その後、2008年より2012年まで「モノクロ少年少女」を発表。2013年、バンドと片恋をテーマとした「覆面系ノイズ」の連載を開始した。