コミックナタリー PowerPush - アニメ「暗殺教室」

岸誠二(監督)×上江洲誠(シリーズ構成・脚本)対談 名コンビが原作愛ほとばしる制作の裏側を語る

原作にある「笑い」の要素は絶対に残そう

──画面の色遣いも印象的です。松井先生のカラーは水彩っぽい感じだと思うのですが、アニメはコテッとしているというか、濃い感じですよね。

上江洲 わかる。パキッとした色だよね。

 ちょっと元気がいい色にしました。

上江洲 それはポップな感じにしようと考えたから?

 そうですな。キャラクター性が活きるように、ちょっと明るめにしたんです。暗い色というか、地味な色を選択することもできたんですけど、それをやると、色だけの問題じゃなく、映像の大枠の作り方も考えなきゃダメになるんです。作品の空気感を全部変えることができるなら暗い色遣いでも良かったんですが。

上江洲誠

上江洲 つまり、画面の雰囲気をシリアスなものにしたら、ギャグっぽい描写を全部落とさないといけなくなる。

 そう。だからキャラクターが映える元気な方向性に基本の画面はチューニングしておいて、シーンによってコントロール出来るように、幅を持たせているんです。なので本編中では、必要に応じてシーンの色味を落としたり、上げたりしています。

上江洲 もともと、原作にある“笑い”の要素は絶対に残そうという話をしていたんだよね。

 “笑い”とか、キャラクターの持っている面白さは、とにかく削らない方向でシナリオの段階から調整しましたね。だから、絵作りに関しても、そうした要素が映えるような組み方で、今回は進めているんです。

──前作の「魔人探偵脳噛ネウロ」もそうでしたが、松井先生の作品の魅力に、シリアスなシーンにもどこか“笑い”の要素が入るところがありますもんね。

上江洲 お笑い要素もシリアスな要素も、ひとつのシーンに全部入っている。隙あらばどこでも笑いの要素を入れるというのは、とてもマンガらしいバランスだなと思うんですよ。

岸誠二

 アニメにするときには、そのバランスで迷うこともあるんですけどね。松井先生の作品は、ドラマが大きく動いているシーンに、ちょろっと笑いの要素を挟むことがあるんですが、「これはアニメだとどうしたらいいんだろう?」と、悩んだところでした。映像のタイミングとしては通常あり得ないリズムが多くて。結局「あえてやっちまえ!」という感じで、削らずにやりましたけどね。たとえば鷹岡というキャラクターが登場するエピソードでもそういった凄くバランスの難しいシーンが有って、「え、ここでギャグを挟むのか!?」というタイミングで笑いの要素が入る。映像のリズムとしてはドラマの流れが途切れてしまうような。

上江洲 でも、それを壊して普通に変えちゃうと、松井先生の作品らしくなくなるんだよ。

 そう。笑いの要素を外して、映像作品としてシンプルに成立させることは可能なんです。でも松井先生の原作が持っている面白さを、100%活かすことを考えたい。そうすると、今度は作品が成立するかどうか、危ういところでバランスを調整する必要があるんですね。いやいや、なかなかハードルが高い作品ですよ(笑)。なんとかなっていると自負していますが。

原作と同じ内容を描きつつ、観たときの印象を違うものにする

──これまで作ってきて手応えを感じたところはありますか?

アニメ「暗殺教室」より。

上江洲 僕は3話です。赤羽業(カルマ)の回。完成したフィルムを観て「この番組はいける!」という手応えを感じました。もともと、原作を読んだときからキャラクターに感情移入していたエピソードなので、完成したフィルムはお客さんの目線でかなりシビアに観たはずなんです。その目線で満足するくらい、本当に良くて。ドラマの緊張感も持続するし、ギャグも面白いし、フィルムの感じもいい。

 この質問は難しいですね。手応えを感じるのは、お客さんの反応を聞いたときなんですよ。でも最近のお客さんは、放送が始まってからしばらくは、距離感を測りつつ作品を観るという非常に訓練された恐ろしい方ばかりなので、なかなか手応えを感じるまで時間がかかる(笑)。その意味で言うと、手応えを得られるお客様の反応が聞こえてきたのは、つい最近ですね。

上江洲 修学旅行のエピソードを描いた、第7話あたりから、お客さんが安心して楽しんで観てくれている気がしますね。

 そうだね。第7話あたりから、そういう空気が出てきたと思う。第7話はドラマのチューニングを相当やったんですよ。実はマンガの雰囲気をそのまま映像に落としこむと、ヘヴィになりすぎてしまうんです。

上江洲 そうそう。松井先生は不良の描写が上手なんですよね。

アニメ「暗殺教室」より。

 だからそのままアニメにすると、個々のリズムで読めるマンガよりも描写が重い印象になってしまう。

──マンガだとサラッと読める展開や描写が、映像になって動きや色、音がつくと、印象が重くなることは、ままありますよね。

 そう、さらに自分で観る時間をコントロール出来ない分、辛辣な印象というか、よりズシッと心に来る内容として響いてしまう事になってしまうんですよ。なので、7話の修学旅行回は原作と同じ内容をしっかり描きつつ、観たときの印象を違うものにする調整をしました。

上江洲 不良たちの描写ではなく、活躍する生徒たちや、逆転劇の爽快感に、エピソードの力点を持って行っているんですよね。

 そこをちゃんと乗り切ったことで、お客さんも安心してくれたのかな、と思います。

上江洲 この作品に限らずですが、我々アニメ制作の現場はキャラの濃い不良や髭オヤジが登場すると、設計を越えて作りこんでしまう傾向があります。楽しいですからね(笑)。一時代前はそういう現場の勢いも大いに受け入れてもらえたのですが、今はシビアですね。お客さんが観たいものは、主役たちの活躍こそなんです。そこはつねづね、バランスに気を使っています。第7話はその点、シナリオの時点でかなり調整をしました。

左から岸誠二、上江洲誠。

 そうそう。原作とアニメを比べてみると、実はかなり違うところがあるんです。でも、やっていることは一緒。こういうバランスをちゃんととるのは、吐きそうになるほど大変だけど、楽しい(笑)。

上江洲 原作をあずかるときに一番面白いところではありますね。元のストーリーと印象を守りつつ、テレビ番組として収まるべきところに着地させる。

──このインタビューが世に出たら、ぜひファンのみなさんにも比べてみてほしいですね。

 そうですね。言われなかったら気付かないレベルかもしれませんね。

TVアニメ「暗殺教室」 / フジテレビにて毎週金曜24:55~放送 ほか各局でも放送
TVアニメ「暗殺教室」
あらすじ

進学校の落ちこぼれクラス、3年E組に担任教師として現れた謎の生物・殺せんせーと、殺せんせーの暗殺を課せられた生徒たちが織り成す学園コメディ。暗殺に成功すれば100億の報酬が与えられるという状況下のもと、教師と生徒であり、標的と暗殺者でもあるという関係性の奇妙な日常が描かれる。アニメの監督を務めるのは「Persona4 the ANIMATION」などを手がけた岸誠二。「週刊少年ジャンプ」(集英社)にて連載中の松井優征による原作は、単行本累計発行部数1350万部を突破しており、実写映画も大ヒット上映中。

岸誠二(キシセイジ)

滋賀県出身。チームティルドーン代表。2003年に「かっぱまき」で監督デビュー。主な監督作品に「瀬戸の花嫁」「蒼き鋼のアルペジオ-アルス・ノヴァ-」「Persona4 the Golden ANIMATION」(総監督)など。

上江洲誠(ウエズマコト)

大阪出身。ギャグからSF、ゲーム原作まで幅広い作品を手がける脚本家。「天体戦士サンレッド」「人類は衰退しました」「瀬戸の花嫁」など岸誠二監督作品への参加も多い。