コミックナタリー PowerPush - 惡の華

押見修造と長濱博史の共犯対談「傷痕を残す作品ができた」

佐伯がデートの日に履いている靴下に付いているボンボンは何色か(長濱)

──感覚が共有できているという信頼関係、もっと言えば共犯関係を築かれた感じですね。

長濱 そのために、とにかく先生とは話し合ってますから。春日はこの時どういう心境なのか、ということから、この場面とこの場面はどれぐらい時間が空いているのかとか、体操着の袋の色まで。

押見修造

押見 その話し合いで気付かされたことがたくさんありましたね。原稿に描いていないことまで言語化されるので。ちなみに佐伯の体操着の袋はピンクの花柄。聞かれると朧気に浮かんでくるんです。自分も絵にして描いてる以上は、脳内で決まったものがあるんだなってわかりました。あと、あそこはこういう意味を持つ展開だったんだ、とか自分のマンガを再発見することが多くて。

長濱 とにかく細かく聞きましたね。佐伯がデートの日に履いている靴下に付いているボンボンは何色か、とか。先生の頭の中の原風景、さっき原作みたいなものっておっしゃった映像を再現するために、とても重要なことなんです。

押見 自分が生まれ育った地元が舞台で、自分の思春期を下敷きにした話ですので、中学生のときの感覚が再現されているかが、明暗を分けると踏んでいたんです。仕上がりを見たら、完璧でしたね。

長濱 ほんとうに先生の地元で撮ってますからね。先生の実家まで行ったりして(笑)。

押見 そこまでやってもらえて嬉しいですよ。現場のスタッフもすごい熱量ですよね。

長濱 それはもう「惡の華」という作品が人を呼んでるんですよ。

スタジオに入ったら頼んでもないのにガンマイクが立てられてて(長濱)

押見 いやー、僕も呼ばれてる側の人間なんです、さっき話した脳内の原作に。もっと言うと、その「原作みたいなもの」ってひとつのまとまりのある話というより、ある連綿たる流れの中にあるというか……あのこれ、伝わってますでしょうか(笑)。

──(笑)。もう少し教えて下さい。

押見 さっき挙がった「太陽を盗んだ男」とか、マンガなら安達哲さんの「さくらの唄(※2)」とか、そういう胸をえぐるような作品の系譜ってあるじゃないですか。それらはあるひとつの精神というか、ひとつの話がいろんな作品の形をとって現実に表れたような気がしているんですね。その末席に僕の「惡の華」も入れてもらえたらいいなって、そんな風に思っています。

──その世界観を表現するためにさまざな工夫が盛り込まれたと思うのですが、いくつか具体的に聞かせていただけますか。

長濱博史。手にしているのは、押見が持参したボードレールの詩集「悪の華」。

長濱 結果としてこのアニメは、ことごとく主流の手法の裏をとるというか、裏拍を打つみたいな作り方になってしまった。普通のセル画じゃなくロトスコープにしたことでさまざまなことが規定されていった感じですね。まず実写を撮らなければならなくなって、それならというんで作品の舞台で実際にロケをして。

押見 あれすごかったですね、ガンマイク。声優さんたちが向かい合ってやりとりをしていて。

──ガンマイク?

長濱 テレビのロケとかで使う、びょーんって長い柄の付いたマイク。普通アフレコというのは各人にマイクが立てられて、横並びになってマイクに向かって吹き込むわけです。ただ今回、音響のたなかさんと名倉さんに「ロトスコープで、現地ロケで……」って情報を伝えてからスタジオに入ったらガンマイクが立てられていた。「レンタルしてきましたー!」と言われまして(笑)。

押見 あれ、監督の指示じゃないんですか?

長濱 違いますよ。音声さんが「そういう技法ならこの機材でどうだ」って勝手に用意してくれたんです。ガンマイクだと広い範囲の声を拾えるので、声優さん同士がほんとに話してるみたいに向き合って録音できる。そうしたら演技も普通のアニメのテンションとは違った、ロトスコープに匹敵するものになるんじゃないかと。曲もいわゆるアニメのタイアップ的じゃないものになりましたし。こうやって撮影にしろ録音にしろひとつひとつが主流と違うことをしてるので、まるでオーダーメイドのようなアニメです。

※2 安達哲が1990年から1991年にヤングマガジン(講談社)で連載していた、青春マンガ。冴えない男子高校生の何気ない学生生活が、地上げ屋の叔父の欲と権力によって汚されていく様子が描かれる。やがて主人公は心の闇を、唯一の特技である美術にぶつけていくように。

アニメ「惡の華」

ボードレールに心酔する少年、春日高男。

抗いきれぬ衝動のままに、密かに想いを寄せる佐伯奈々子の体操着に手を掛けたその時から、彼の運命は大きく揺れ動くことになる。 その行為の一部始終を目撃した、仲村佐和の手によって……。

閉塞的な小さな街のなかで、鬱積してゆく思春期特有の若者たちの激情はどこへ向かうのか。

これは誰もがいつかは通る、あるいは既に通り過ぎた、思春期の苦悩と歓喜との狭間で記される禁断の青春白書である。

放送スケジュール
  • TOKYO MX4月6日より 毎週土曜25:30~
  • チバテレビ4月7日より 毎週日曜25:00~
  • tvk4月7日より 毎週日曜25:00~
  • テレ玉4月7日より 毎週日曜25:00~
  • サンテレビ4月8日より 毎週月曜24:30~
  • KBS京都4月8日より 毎週月曜25:00~
  • 群馬テレビ4月8日より 毎週月曜24:30~
  • BSアニマックス(無料放送)4月6日より 毎週土曜22:30~
  • BSアニマックス4月5日より 毎週金曜22:00~
スタッフ
  • 原作:押見修造
  • 監督:長濱博史
  • 助監督:平川哲生
  • シリーズ構成:伊丹あき
  • キャラクターデザイン:島村秀一
  • 美術監督:秋山健太郎
  • 色彩監督:梅崎ひろこ
  • 撮影監督:大山佳久
  • 動画監督:佐藤可奈子
  • 編集:平木大輔
  • 実写制作:ディコード
  • 音響監督:たなかかずや
  • 音楽:深澤秀行
  • 音楽制作:スターチャイルドレコード
  • アニメーション制作:ZEXCS
キャスト
  • 春日高男:植田慎一郎
  • 仲村佐和:伊瀬茉莉也
  • 佐伯奈々子:日笠陽子
押見修造(おしみしゅうぞう)

プロフィール画像

2002年、講談社ちばてつや賞ヤング部門の優秀新人賞を受賞。翌年、別冊ヤングマガジン(講談社)掲載の「スーパーフライ」にてデビュー。同年より同誌に「アバンギャルド夢子」を連載した後、ヤングマガジン(講談社)にて「デビルエクスタシー」などを発表。漫画アクション(双葉社)にて2008年よりスタートした「漂流ネットカフェ」は、TVドラマ化された。翌2009年からは別冊少年マガジン(講談社)にて「惡の華」が開幕。「惡の華」は2013年4月からTVアニメ化されるなど、話題を集めている。

長濱博史(ながはまひろし)

1990年、マッドハウスに入社。「YAWARA!」などさまざまな作品に参加した後、フリーランスになる。1996年に「少女革命ウテナ」のコンセプトデザインを担当し、以降はプリプロダクションとしての作品参加も増えていく。2005年には「蟲師」にて初監督を務め、高い評価を獲得。東京国際アニメフェアでは、第5回東京アニメアワードのテレビ部門にて優秀作品賞を受賞した。このほか代表作は、OVA版「デトロイト・メタル・シティ」など。(長濱の「濱」は正しくは旧字体)