コミックナタリー Power Push - ゲッサン1周年記念特別インタビュー あだち充

色褪せることない永遠の少年心 デビュー40年、生涯「ムフ」宣言!

やられてないことを探してたね。ひねくれて

──あだちマンガって葉っぱが舞ったり飛行機雲が飛んでるコマがぽこっと入ってますよね。あのリズム感が3日間煮詰められた末に出てくるのかと思うと感慨深いです。

「タッチ」より

それはかなり意識しますね。ここでセリフを言うか、ひとコマ置いて言うかで伝わり方がぜんぜん違うじゃん。

──ストーリーを組み立てていくだけとは違う、と。

ストーリーとセリフを言えば済むことなんだ。けども、無駄っちゃ無駄なんだけど、そこの(間に入れられた)コマが好きなんです。

──や、それこそがあだちワールドの真骨頂なのかもしれないですね。パンチが闇夜に「オンッ!」って吠えてるコマとか。

そう言ってもらえたらうれしいですね。そのお話の伝わり方を、自分なりに味付ける方法は意識してはいます。話を伝えるだけだったらいらないコマはいっぱいあるんです。(自分より)前の人たちはあんまそういうことしなかったと思うんだよね。なんか変なことやってんなーという意識は自分でもあるんですけど。

──変といえば「タッチ」なんて、ありえない週のまたぎ方がありました。会話の途中でブツッと終わって、翌週の1コマ目から「というのはだな~」と普通に続いたり。

週刊誌は引かなきゃいけないのが原則だったんだけど、いつもとんでもないところで終わらせてたよね。変なことやりたかったんだよ、とりあえずは。

「タッチ」より

──大メジャーの少年誌でそれを実験してたってのがすごいです。

いろんな人たちのやり方があって、それじゃないものを探してた気はします。ひねくれて。こんなこと誰もやらねえだろうな、と。誰もやらねえのはやっちゃダメだからなのかも、と思いながら、でもいいや、って(笑)。そのときは人気的に調子乗ってましたから。なんか知らないが人気はあるぞ、もういいやと。

──その「これはもうやられてる」って考えたサンプルってのは、例えば手塚マンガとかですか?

手塚さんじゃないですね。サンデーの別の連載マンガとか。あの時点でサンデー・マガジンが創刊20周年くらいかな。もうある程度いろんなことがやられてきて、形みたいなのができていて。そこでやられてない道みたいなのを意識的に探したりしてましたね。

似た世界だと、極端に選別するみたい

──ということは、送られてきた掲載誌は読まれるほうですか。

あの頃は特に読んでましたよ。サンデー面白かったし。人のマンガ読むのは好きなんだよ。

──では最近読んで面白かったマンガ、教えてください。

結構いろいろ見てるよ。スピリッツで楽しみに読んでるのは「ザワさん」と「竹光侍」。ビッグコミックだと「黄金のラフ」かな。あと「かぶく者」もいい。面白いマンガ多いですよ。

──「竹光侍」「かぶく者」はあだちワールドとはまったくベクトルが違いますけど「ザワさん」はあだち的です。自分に似てる/似てないって、好みと関係あります?

インタビュー写真

自分とまったく違う世界は広く受け入れるんだ。「サンクチュアリ」とか、さいとう・たかを先生の昔のとか、「子連れ狼」はすごく楽しく読める。けど、自分の世界に近いのは、極端に好きな作品と嫌いな作品とに分かれるんです。似た世界だと、極端に選別するみたいですね、ダメなのと受け入れられるのと。それはもう皮膚感覚で。

──その差はなんなんでしょう。わかってる/わかってないみたいなのがあるんですかね。

近いからこそ、わかってる/わかってないが大きいんですよ。「そこは描いちゃダメだよー」みたいな、鼻に付いちゃったらもう受け入れられなくなっちゃう。「うむ、この人はわかってらっしゃる」というのが重要で、本当に微妙な言い回しとか、自分と感覚が合うといいなと思ってしまう。「ザワさん」はいまんとこそれだね。

野暮はいけないんですよ。粋でありたい

──鼻に付くといえば、あだちワールドでは登場人物が「お前はこうだよな」「俺はこうだ」「だから俺たちはこうなんだ」って関係性を確かめ合ったりしないですよね。

はい。それは絶対やらないですね(笑)。

──察する世界です。

本当にそれは、その世界が好きなんです。そうありたいなと思うんですけどね。実際はなかなか難しいんでしょうけども、野暮はいけないんですよ。その辺は落語で学びましたね。それを言ったら野暮になるという、そのポジションみたいなものは。粋でありたいですよね。

──ご自身の暮らしぶりもやはり。

どうなんですかね。でも野暮は嫌ですね。それを言ったらおしまいということは言わないようにしてます。あと変な権威とかになったらものすごいツラいよね。

「QあんどA」より

──確かにあだち充というマンガ家は、どこまで売れても重鎮みたくならない印象があるんですが、それもひとつ野暮/粋という意識が働いてるのでしょうか。

だよね。それはものすごい大事だと思うんですね、ほんと。それにさ、好きな人たちがみんなそういう生き方してくれてるから。

──好きな人というと、例えば。

ビートたけしがそうですよね。野暮にならない人ってのは、どこまで偉くなろうと変わらないですよ。(自分も)基本的に説教嫌いだし、「こう生きろ」なんてことは、口が裂けても言えないですよ。「こう生きてほしい」という願いは遠まわしに伝えるようなやり方を探してやってますけどね。

──そのあたりが、少年誌の第一線で活躍しつづけられている理由の一端な気がします。説教臭くならないという。

まあ自分の発想なり描きたいものが少年誌なんだよね、読ませたい読者も。どう考えても青年誌の発想がない。

ゲッサン少年サンデーコミックス「QあんどA」(2) / あだち充 / 発売中 / 460円(税込) / 小学館 / ISBN: 978-4-09-122239-8

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あらすじ

6年前に事故で亡くなったはずの兄と地縛霊になって再会!?
やんちゃな兄・久の幽霊に高校生活をひっかき回されている弟・厚だったが、さらに厚のことを「初恋の人」と呼ぶ女の子“大内忍”の出現で……春の嵐の予感!?
あだち充が描くちょっぴり切ない兄弟の絆の物語、第2巻!!

月刊少年サンデー「ゲッサン 8月号」 / 発売中 / 500円(税込) / 小学館

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8月号ラインナップ

原作 伊坂幸太郎・漫画 大須賀めぐみ「Waltz」/原作 犬村小六・作画 小川麻衣子「とある飛空士への追憶」/あだち充「QあんどA」/あおやぎ孝夫「ここが噂のエル・パラシオ」/西森博之「いつか空から」/高田康太郎「ハレルヤオーバードライブ!」/森茶「BULLET ARMORS」/村枝賢一「妹先生 渚」/あずまよしお「ぼくらのカプトン」/原作 武論尊・作画 マツセダイチ/四位晴果「よしとおさま!」/原作 和田竜・作画 坂ノ睦「忍びの国」/島本和彦「アオイホノオ」/モリタイシ「まねこい」/ヒラマツ・ミノル「アサギロ~浅葱狼~」/原作 木原浩勝・漫画 伊藤潤二「怪、刺す」/福井あしび「マコトの王者~REAL DEAL CHAMPION~」/吉田正紀「楽神王~vero musica~」/中道裕大「月の蛇~水滸伝異聞~」/荒井智之「イボンヌと遊ぼう!」/ながいけん「第三世界の長井」/アントンシク「リンドバーグ」/横山裕二「いつかおまえとジルバを」/石井あゆみ「信長協奏曲」

プロフィール写真

あだち充(あだちみつる)

1951年2月9日、群馬県生まれ。本名は安達充(読み同じ)。石井いさみのアシスタントを経て、1970年にデラックス少年サンデー(小学館)にて北沢力(小澤さとる)原作による「消えた爆音」でデビュー。その後しばらく原作付き作品の執筆をメインに行い、幼年誌、少女誌での連載を経て、少年サンデー増刊(小学館)にてオリジナル作品「ナイン」を執筆。少女誌での連載経験を活かし、既存の野球漫画にはなかったソフトな作風で人気を博した。続く「みゆき」「タッチ」で第28回小学館漫画賞少年少女部門を受賞。両作品ともアニメ化し、歴史に残る作品として幅広い世代に親しまれている。野球漫画家としても評価が高く、東京ヤクルトスワローズのファンとして球団の宣伝ポスターも手がけている。